第6話全ての条件クリア

 六、 全ての条件クリア


 ブルーノの使命感に反して、その後の手配書には、軽微な罪、罪といえないものの手配書が、その後も数多く回って来ていた。

 これでいいのか、こんな事では何も変わりはしない、そんな思いを抱えながら、DEATH GODの指導と、自らに届いた手配書の遂行に務めていた。

 歯噛みするような状態に、痺れを切らしたブルーノは、ヨハネスに相談してみようと、ヨハネスとの話し合いの連絡を取り、その後の連絡を待っていたが、なかなか返事は来なかった。

 そんな時、また見付ける、という文字が書かれていない手配書が回って来た。


 〇月〇日 〇時 フィエールマン現る

親、兄弟殺害の恐れあり 見付ける事無く 諭しDEATH GODとなるよう勧める事 これにて全ての条件クリア


 この手配書を見た時、久しぶりに殺人の凶悪犯かと思ったが、読んでいくうちに、見付ける事無くの文字に、またか…という思いがあった。そして、DEATH GODとなるよう勧めろ?そして、これにて全ての条件クリアの文字が飛び込んできた。

 一瞬の閃きが訪れ、これで俺のDEATH GODが終わりを告げるのだろう、という確信が生まれていた。


 全ての条件クリアが何を意味しているのだろうか?それがまだ謎のままだ。今迄、他のDEATH GODに引けを取らぬ素晴らしい成績を上げていたはずだ。それ以外に何があるのだろうか?DEATH GODの仕事は、犯罪者を見付ける事、そう信じてこれまで務めてきたが、他に何があったのだろうか?そんな事を考えながら、フィエールマンを待っていた。

 フィエールマン、は思い詰めた様な顔をしながら、口の中でブツブツと何かをつぶやいていた。そして、ポケットの中の手には、一本のナイフが握られていた。


(彼奴やるな!そう感じ何時でも飛び出せるよう準備をしていた。)


 フィエールマンは、父と弟と激しい口論をしていた。二人から罵倒され、暴力をふるわれていた。フィエールマンの体が震え始め、今迄理解してほしいという哀願の顔が、いつのまにか別人の顔になっていた。そして、震える手には、ナイフが。


 フィエールマンは父と愛人との間に生まれた異母兄弟だった。年齢ではフィエールマンの方が上ではあったが、父親の後を受け継ぐ資格に於いては弟が上だった。フィエールマンは父親の後を継ぐ事に関して一切の拘りは持っていなかった。ただ、皆が良くなるようにと考え、意見を出していた。ただ、それが弟を出し抜く為のものと判断され、三人の間には大きな摩擦が起きていた。そして、今日それが火花に、そして爆発へとなっていた。

 フィエールマンは二人を殺して自分も死ねばいいとそう思いながら、二人にナイフを向けた。二人は恐れ、驚き、助けてくれと頼んだ。殺してそして自分もと、思い詰めていたが二人の顔を見ている内に、自分の愚かさ、醜さに気付き、二人の顔をじっと見つめていた彼は、なにもせず、そのまま家を飛び出していた。


 公園のベンチで、自分のしようとしていた事に後悔し、涙した。その時、彼の前に一人の男が立っていた。フィエールマンは驚き、じっとその男を見ていた。オペラハットを被り、黒いローブを纏い、その手には一本の薔薇の花が携えられていた。その男に人間以外の持つ何かを感じていた。


 ブルーノが話しかけようとすると、

「お前は死神か?残念だが俺はまだ死んではいないよ。もう少しだけ待っていてくれ、そうしたらお前の言う通りするよ」


 ブルーノは、心の鏡に映し出される、フィエールマンの家族への思いと、後悔に涙している姿を見ていた。


「ほうっ、察しがいいな、そんな奴は初めてだ。 お前は何故、あの二人を殺す事をやめたのだ?憎くはなかったのか?」

「憎い?そんな事は考えた事もないよ。今迄助けてもらって感謝すらしているよ。だから、ナイフを持ってはいたが刺す事は出来なかった」

 どこにでもある、親兄弟の愛憎劇のようだと思っていたが、フィエールマンの話を聞いていて、今迄どうしても超えられなかった、最後の段階で目の前を塞いでいた壁が、ガラガラと音を立てて崩れていくのを感じた。これだ、これだったんだ。いままでどう思案を巡られせても、行き着く事の出来なかったその答えに、今、やっと、たどり着いた。


 ブルーノは、フィエールマンの言う通りの時間を与え、そして、DEATH GODの契約を交わしていた。


「ありがとうよ、これで俺も消える事が出来そうだ」

「消えるって?それはどういう事なんだ?」

「それはいずれ分かるさ、DEATH GODの仕事をしていればな」

 胸の閊えがやっと取れ、スッキリとした面持ちで、この次はどういう展開になるんだろうと、心待ちにしてしていた。

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