第4話疑念と確信

 四、 疑念と確信


 漸くヨハネスとの話をする機会が訪れた。


「遅くなって悪かったな。余り聞かれたくない話なので、時期を見計らっていた。その消滅するとか言っていたのはだれだったかの?」

「オーチャリです」

「そうか」

「余り聞かれたくない話と言ったのは、これからする話を全てのDEATH GODが知ってはいない、という事だからなのだ。もし、DEATH GODが聞いてしまえば、するべきことをせずに、その方策に走ってしまう恐れがあるんでな」

「何か秘密があるのですか?」

「秘密?はっはっはっ、秘密などはありゃせんよ」

「では一体何が隠されているんですか?」

「そんなに大した事ではないんじゃよ。それに儂はまだまだ消えんから、安心して仕事に精を出してくれ。

 その時が来たらお前には教えるから、今は使命をな」


 ヨハネスとの話で、何かがある、という確信は持てたが、それが何なのか分からなかった。

 オーチャリはローブを渡した瞬間消えた。ヨハネスは責任者の地位をブルーノに渡したが、まだ消えてはいない。この差は何なのだろうか?消えたと思っていたオーチャリが、実は消えたのではなく、何処かに移動したのだとしたら?何処にいったのだろうか?あの嬉しそうな顔をしそうな場所、普通なら会う事の叶わなかった家族の元へ、そう考えて良さそうだが、彼は三百年繰り返していたと言っていた。もう家族はいない。ならば、何処へいったのだ?いくら考えても答えは見つかりそうにない。ならば、ヨハネスが言っていた仕事、使命を、暫くは果たしつつ、謎を解き明かしていくしかないだろう。


 それからのブルーノは、責任者とDEATH GODの両方の仕事に力を注いでいた。


「判決を言い渡す。被告は、自分の私利私欲の為に多くの民を騙し、多くの民を傷付け死に追いやった。その罪で、ケフェウスのガンマに、四十年の強制労働に処す」

「ふざけるな!俺は何もしていない!何かの間違いだ!」

「静かにしなさい。お前の罪は明白だ。何を言っても変わりはしない」

「ちぇっ!それじゃあ仕方ねえな。好きにしてくれ!」

「これにて閉廷!」


 カ~ンという小槌の振り下ろされる音がして、結審した。

 被告は、ふてくされるような態度を見せ、両脇を固められながら法廷を出ていった。


「いや~っ、また決まりましたね。貴方には降参だ」

「そんな事ありませんよ。あなたこそ、毎回のように決まっているじゃありませんか?」

「いやいや、貴方にはかないませんよ。いつも、やられっぱなしでしたね。ですが、貴方にお会いするのも、これで最後になるかも知れませんね?」

「ん?どうかしたんですか?」

「ふっふっふ、来たんですよ、ついにね」


 来た、その言葉を聞いた途端、何故か胸騒ぎが波のように、繰り返し押し寄せて来ていた。近づいている、今迄霞がかかったように、どこに行けばいいのか分からなかったその答えに、確かに近づいている。


「一体何が来たんですか?」

「それは貴方あれに決まっているじゃありませんか。おや?貴方はまだ知らされていないんですね。まっその内教えてもらえるでしょう、時期が来ましたらね」


 時期とは何を意味しているのか?単に年数なのか、それとも何かを達成した時なのだろうか?何かを訊かなくては。


「貴方はDEATH GODになられてから、どれくらいなんですか?」

「私はそれ程古くは無いですよ」

「では、今迄に何人ぐらいの罪人を捕まえたんですか?」

「貴方には遠く及びませんよ」

「それじゃあ」

「はっはっは、私も今の貴方と同じ様な時がありましたよ。私も気づいたんですよ。何かある。何かがあるんだが、その何かがわからないってね。

 いつの間にか、周りのDEATH GODが消えていたり、消える前に挨拶に来るんですよ。もうすぐ消えますってね。あっはっはっは、あの時は何?何?って凄く焦りましたよ。曲がりなりにも今の私にしてくれた、謂わば師匠ともいえるDEATH GODが間もなく消えますって言ってね」


「貴方の罪人を見付ける力は相当なものでしょう。その力はこの世界にとって、とっても大切な事なんですよ。だから、多分、貴方のお師匠さんから今の仕事をしっかりしなさいだとか、使命を果たせなんて事を、言われてるんじゃありませんか?」


「私もそう言われて、人一倍頑張って来ましたよ。そして、いつしか、今貴方が考えていることに突き当たったんです。

 仮に百人のDEATH GODがいたとして、私よりず~と成績の悪いものが消えていく、これはヴィーが足りなくなって消えていくんだ、可哀そうにって最初、思っていました。ところが、周りに聞いてみると、以前はすごかったんだよ、1,2位を争っていたんだよとね。

 それが何故ず~っと下の方の成績になってしまったのか、不思議でしたよ」


「そして、消えてしまう彼が私のところに来て、とても嬉しそうにしながら、もうすぐ消えるんですと言ったんですよ。もう、パニックでしたよ。私は仕事もせずに、ず~っとそのことを考えましたが、答えは見つかりませんでした。消えてしまうというDEATH GODを観察しようと思っても、そいつはもう碌に仕事をしていませんでした」


「他の成績の悪いDEATH GODを観察してみたんですが、ひどい有様で、これでは当たり前だよなって感じでした。ならば成績優秀なDEATH GODをと思ったんですが、私と同じような事しかしていませんでした。何が何だかさっぱり分からなくて、何もせずに、日々を過ごしていました。

 そして暫く時が経ってから、私と常に1,2位を争っていたDEATH GODが、やはり嬉しそうにしながら、言ってきたんです。もうすぐ消えますって。この時何かあるって直感しました。それで、彼の後をついて回ったんです。そして、私は見たんですよ、彼がこれまでに何をしていたのかを」


「ふう、少しおしゃべりが過ぎてしまいましたね。全てを私が話してしまったら、貴方のお師匠さんから、きつ~いお仕置きを受けかねませんから、これぐらいで勘弁してください。

 最後に一つだけ、…貴方は勘の鋭い方のようだから、分かってしまうかもしれないが、最後に一つだけお話をさせてもらいます。

 思い出して欲しいんですよ、貴方がDEATH GODになった時の事を。

 今の貴方が当時のDEATH GODを見たら、なんてお人よしなんだって、思うだけなんでしょうけどね。思い出した時、気付くんです。そして、分かるんですよ。その彼が何をしていたのかをね。

 おおっと、こんなに長い時間お話をしてしまいました。貴方のご都合も聞かずに、失礼しました。それではこれで。これから、ちょっと用事があるんでね。では」


 男はステッキを、リズミカルに動かしながら夜の闇に溶けて行った。


 彼の話を思い出している時、また胸騒ぎがしてきた、そして、身体の震えも一緒に。 

 恐怖ではなかった。胸の高揚、高鳴りだ。

 俺は近づいている。今確かに答えに近づいている。そして、間もなくその答えを見つけられる。そんな思いが身体中から、溢れ出しそうになっていた。


 いつも、法廷で会っていた、あのステッキの男の言葉がその答えを知っている。         


 

 








 

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