Samhain①
新月から六日経ったよく晴れた日。俺はバスケットと金色の
「そう、そんな感じです。一振りで切り取って下さい」
厚く細長い葉と直径五ミリ球体の果実を複数つけた
「ミスルトーの生薬ってまだ在庫残ってなかったですっけ?」
「葉と枝を乾燥させたソウキセイですね。でも今回必要なのは生薬じゃなくて葉と実の方なんですよ」
「何するんですか?」
「もうすぐ”サウィン”が来ますからね。妖精よけの香でも作ろうかと」
「あー・・・、もうそんな時期なのか」
夏の終わりである十月三十一日。その日は夏の収穫を祝う”サウィン祭”が国中の各所で開催されると共に、妖精たちが活発にはしゃぎまわる日だ。
近隣諸国でも魔法という技術で栄えたフィンディラ国内でも最も洗練された魔力が満ちる首都であるサリザドでは妖精が日常に溶け込んでいるのも茶飯事だ。だが、じきにやってくる”サウィン”と半年後に迎える”ベルテイン”の日は人間界と妖精界を隔てる”ヴェール”が薄まり、特に妖精たちが人間との交流を試みてくるのである。
「でも、”悪霊よけ”じゃなくて”妖精よけ”?」
光の半年が始まるとされているベルテインに対して闇の半年が始まるとされているサウィンは妖精と共に異界から死者の魂や悪霊がやってきやすい。そこでサウィンの前日の夜の寝る前に、玄関の前に空のカンテラを置いておくことでジャックオランタンに石炭を入れてもらうのだ。そうしたカンテラを家の前に飾っておくことで悪霊を家に招き入れない魔除けとするのだ。
「サリザドでは魔除けのランタンと一緒に妖精よけの香を焚くのも風習なんですよ。特に子供のいる家では。・・・なんでか分かりますか?」そこでカルタさんはわざと俺を試すような口ぶりで問うた。
「『なんで』・・・。妖精が子供にすることが良くないってことですよね」
俺が首をかしげているとカルタさんは「ミシアにも毎年寝るときには絶対焚くように念押ししてるんですよ」とヒントをくれた。
__ミシア・・・。
「あ」助言もあって俺はそこでやっと思い至る。
「”
「正解です」
妖精が人間の子供を盗み、代わりに自分の子を育てさせる”
表立った実例こそ発表されてはいないが、この国の民であるならば一度は耳にするであろう取り換え子では容姿の整った美しい子供やプラチナブロンズの髪を持つ子供は特に妖精が好みやすいので一等気を付けなければならないのだ。
「それで妖精除けの香なのか。確かにサウィンは妖精が来やすいから
「しかもサウィンに妖精に連れられた
「・・・それ、信憑性ある話なんですか?」
「どうでしょう。あくまで言い伝えですから。でも、妖精に気を許せばどうなるか分かりませんからね」
それについては研究所にやって来たばかりの頃に身をもって知った俺は同意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます