Lawul・Dista②

準備があるからと、ノエルさんと別れ俺とベルさんは一足先に薬学室に戻る。

研究室にはカルタさんがいたが昨日製薬した魔法薬を騎士団に届けにちょうど入れ違いとなった。

「手伝うぞ」ベルさんは彼女に同行していった。


そんな形で俺は研究室にぽつんと一人で置き去りにされたところですぐに手に持っていた紙袋の存在に気づく。


「そうだ、ラウルさん」


彼の居場所についてはノエルさんに聞かされていた。俺は保管室の地下室に繋がる床扉を開く。


「ラウルさーん」


俺は地下に声だけ下ろす。ラウルさんらしき姿は見えず呼び声だけが虚しく反響する。奥の方を見る為には顔をもう少し覗き込ませなければならないが顔だけ突っ込んでも下手すれば頭から落下してしまい兼ねない。

そんな数秒後、「・・・ああ」と遅れて気怠そうな返事が返ってきた。

彼はのこのこ・・・・と梯子下に現れると入り口から落下する日の光が眩しそうに顔を顰めながら俺を見上げる。


「・・・アシルか。今何時だ?」


「もう九時回りますよ。朝の。この紙袋ノエルさんからラウルさんに渡すように頼まれて__」


「ああ、待て待て落とすな。上るから」


ラウルさんはそう言うと梯子に手足を掛け上る。年季が入っているだけあって細身の彼が体重をかける度軋む音がした。

地下室から保管室に全身を出すと俺から紙袋を受け取りレバーとレタス、トマトのサンドを半分包装紙から剥き出しかぶりつく。


「まだ九時なのか。途中で上から足音がしたからもう少し経っているものだと思っていたが」


「途中って、ああ、それベルさんと俺の事ですか?ってそれじゃあ何時から・・・。そもそもあんな地下で何を・・・」


「さあな」


見事にはぐらかされてしまったが俺が保管室に訪れたのは五時間くらい前。ならばそれよりも前から地下室に籠もっていたことになるがしかし、何をしていたのだろうか。

ベルさんが『倒れていなければ』と言っていたが今のラウルさんは倒れてしまいそうな不安定さや儚さはないが心なしか顔色が優れていない様にも見える。

気にがかるがはぐらかされてしまった以上ラウルさんが俺の問いに答えてくれるとは思えない。

俺が頭を悩ませているのも露知らずとラウルさんはサンドをくわえたまま保管室を退出する。

外にいたのはしかめっ面のノエルさんと宙で腹で二つ折りに力なくうなだれるミシアの姿。


「何をしているんだ、お前たちは・・・」


「『たち』ってやめてください。『たち』って」


ノエルさんは心外だと眉を寄せた。


「お前はいつまでそうしているミシア。弟子に迷惑をかけるな」


「うーん・・・、うるさ・・・」


「こいつ・・・」


その言葉には未だ眠気を孕んでいてこの態勢でよく寝ていられるなといっそ感心すら覚えてしまう。

やはり二人共乗り気ではなさそうだが仕事である以上駄々を捏ねていられもしない。二人はラウルさんに追い出される形で渋々騎士団に向かった。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


沈黙が痛い。

残されたのは俺とラウルさんだけ。マリアさんだけ所在が不明だが多忙な彼女の事だ。研究所内で右往左往しているのかもしれない。


「・・・ラウルさんは今日は何の仕事ですか?」


「僕は今日非番だ」


会話は続かなかった。


しかしそこでラウルさんは俺に気を使ってか「買い出しにでも行くか」と切り出した。

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