Jille・Marabawsa③
「・・・なぁ、おい」
「なんすか、ジィルさん」
「なんすかじゃねぇ。薬酒は返しただろ。さっさと
「だってよ、カルタ」
「ダメです」
「だそうです」
「なんでだよ。ったく、
「俺捕縛魔法得意なんで」
青白い光の輪に上半身と両腕を固定された『ジィル』さんが憤りを露にする。
一方で仕事の妨害をされたカルタさんは調薬の仕事はしつつも頬を膨らませて分かりやすく拗ねていた。
「これだと薬草園の仕事できねぇだろ」
「普段サボリ魔な癖に何言ってるのやら」
「そもそもあんた研究室の外に居ただろ・・・」
「おい、余計なこと言うなよ」
「なんですか、また街に女の子誑かしにでも行ってたんですか?相変わらずの軽薄さですね」
カルタさんが軽蔑の眼差しでジィルさんを睨む。
「カルタさんが普段見ないような顔してる・・・」
「カルタはジィルのこと好いてないからね」
紙の上にペンを走らせているミシアが片手間に答えた。
『ジィル』さんはマリアさんが過去に言っていた『薬学室所有の植物園の管理人』本人だ。研究員ではないが薬学室が保有している植物園、薬草園の簡単な管理をしている。
「『管理人』って感じには見えないなー・・・」
「前にも言った通りエネルギーの魔法石を交換するだけの簡単な仕事しかしないからじゃないか。彼は
サリザド魔法研究所には宿舎が併設されており、研究員及び事務員には宿舎、食堂の利用が解放されている。
「その上好きなものが酒と煙草と女だからじゃないですか?」
「別に女は好きな訳じゃねぇよ」
やっと拘束から解放されたジィルは懐から取り出した煙管を咥える。
「じゃあ何なんですか?」
「そーだな。”
「は?」
「うわあ・・・」
そのスラングの意味が通じたノエルは若干引きの反応をする。
彼の仕事は一日一回魔法石を交換するだけの簡単な作業。それ以外は自由気ままに過ごしており、昼夜問わず酒や煙草を嗜むと同時に街中で出会った女性と逢引する程女癖の悪い人物なのだそうだ。
彼に迫られて拒めぬ令嬢はいなさそうではあるがまさか本人自身それをアドバンテージとしているとは。
「って何さらっと煙草吸おうとしてんだ」
「あ?」
俺は隣で作業していたノエルさんに声を潜めて「・・・ジィルさんて女性陣と一触即発気味ですね」そう投げかけた。
「
「__ジィル」
「あ?__あ」数瞬見ぬ間にジィルさんの手に持っていた煙管が棒付き飴にすり替わっていた。では、煙管は。それは、ジィルさんの名を呼んだ声の主、マリアさんの手の元にあった。
「苛立ってるのは分かるけど我慢してくれる?」
「ね」とマリアさんは少し申し訳なさそうに念押しした。
反発するかと思われたが鋭い視線は送ったもののジィルさんは舌打ちだけして大人しく「はいはい」と返却された煙管をしまい込んだ。
(お?)
さすがのマリアさんの人の
「で、お前、内緒にしとけっつっといたのにチクりやがったな?」
ジィルさんの睨みで頭の上のブラウニーとマンドレイクがビクリと体を跳ねさせた。
どうやら俺たちがバラしたのだと勘違いしているらしい。悩みはしたものの結果俺たちは言ってない。
違う、と否定しようとした俺よりも前にノエルさんが呆れたように「違いますよ」と言った。
「何がだよ」
「アンタを連れてくるように俺に言ったの
あの時ノエルさんに指示していたのはそういうことだったらしい。
そこで男は何かに気づいたらしく盛大に舌打ちをして「あー、くそっ。しくった」と俯いて顔を手で覆う。
「魔法反応だよ。あいつの痕跡が残ってたからね」
「あれ、昨夜は仮眠室で寝なかったんですか?」
「ちゃんと寝てたがそんな事が起きていたのは気づかなかった」
(あんな大きい音してたのに?)
「じゃあ俺は帰るぞ」
執務室から外出しようとするジィルさんにマリアさんが「ちょっと待って」と阻んだ。
「まだなんかあんのかよ」と鬱陶し気にマリアさんの方を振り向く。
「うん、せっかくだしアシルくんに植物園について教えてあげてくれる?」
「お願い」マリアさんは愛らし気に小首を傾げた。
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