Beltarle・Lulowa②

「へっくし!!」


「うおっ」


ベルさんがビクリと肩を跳ねさせるのと同時に鉢植えに埋まっていたマンドレイクも、すぽん、とその身を土から脱出してしゃがみ込んでいた俺の手元に駆け寄ってくる。


「ああ、ごめんごめん。んあ~・・・、鼻がムズムズする・・・」


鼻をすする。どうも先程から鼻がムズムズするというかくすぐったいというか。


「この時期は花粉を出す花が多いからな。それでムズムズすんだろ。そうだな、マンドレイクも復活したようだし戻るか」



__「なんか騒がしくないですか?」


「やっぱお前もそう思うか」


薬学室へと続く廊下を二人で歩いていたのだが、今日はやけに騒がしい気がする。研究員や騎士たちが足早に移動をしておりその表情は心なしか切羽詰まったように見える。


「何かあったんだろうよ、もしかしたら薬学室もこんな状況だったりしてな」


そう言い薬学室の扉を開ける。


「あっ、ベルくんとアシルくんいいところに!」


薬学室に戻ってくるや否やマリアさんが探し物を見つけたように俺とベルさんにフォーカスをあてる。

先程とは打って変わって薬学室内は研究員らが忙しなく右往左往する。


「何かあったんですか、室長?」


「さっき戻ってきた魔獣討伐の部隊が討伐対象の魔獣とは別でSクラスの魔獣と遭遇しちゃったみたいでね。命からがら帰還したようだけど負傷者が多いみたい。騎士団本部の診療室にいる治療士たちだけでは追い付けないって薬学室ウチに応援の依頼がきたのよ」


なるほど。それで薬学室に繋がる廊下でも研究員らがやけにざわざわしていたわけか。

それで現時点で保管してある回復薬をかき集めているのだという。それでも足りないようで俺たちに状況説明しているマリアさんの奥ではミシアとラウルさんがそれぞれが大釜で回復薬を調薬していた。


「それで、俺も回復薬の調薬をすればいいってわけですか」


ベルさんは要領を得たように薬草を植物園取りに戻ろうと踵を返すがそれをマリアさんは慌てて止める。


「ああっ、違う違う。隣の談話室に別件の患者がいるから診てほしいの」


と言う。


「急いだほうがいい感じですか?」


「ううん、大丈夫だと思う。でも放置しておくわけにもいかないからね」


お願いね、とマリアさんは言い残して執務室を後にした。


「・・・談話室っつってたよな。行くか」


「薬学室って常に調薬してるイメージしかないですけど診療とかもするんすね」


実際今まで患者が訪問してきたりはしなかった。怪我や病気等の治療や診察は騎士団にある診療室の仕事だ。

そのことと研究所のシステム上薬学室の薬剤師は魔法薬の調薬を求められることが多いのだ。だから滅多に診療はすることはないものだと思っていたのだが。


「そうでもないぞ、偶々お前がいる間に患者がこなかっただけだ。あと多分お前が想像する診療とは少し違うと思う」


「え?」


(違う、って何が?)


「__っと危ない危ない」


そう問おうとしたのだがそれよりも肩から頭に移動しようとするマンドレイクの補助を優先してしまいタイミングを逃してしまう。しかし何を疑問に思っていたのか察してくれたベルさんは談話室の扉に手を掛けてから答えてくれる。


魔法薬剤師俺たちが診るのは”ケガや病気”じゃない。”魔法”だよ」












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