Michia③

「じゃあボクは執務室で仕事してるから。困ったことあれば言ってくれ」


そういってミシアは俺とマンドレイクと紙の束を仮眠室(作業のしやすいデスクがあったのが仮眠室だったため)に残して執務室へと戻っていった。部屋に充満する甘い香が少々鼻につくので光を遮っているカーテンはそのままに窓を開けた。部屋の中に入ってくる風が香を薄める。


「・・・よし、やるか」


ミシアが「これを見本に置いておくから」と置いてくれた既本の記録書を見ると依頼書は日付順、レシピは魔法薬の名前のアルファベット順にページが置かれていた。まず依頼書から手を付けることにして年代ごとに分類してから月別に十二に分けそれを早い日付から並べ直していった。一番過去の依頼で二年前のものだったのでおそらくここ二年は書類整理ができていないのだろう。ざっと分けてみただけでも一年に五十から七十くらいの依頼が来ている。


(それにしてもいろんな依頼が来るんだな)


【サリザド図書館セキュリティレベル3古代魔法の書盗難事件の魔法解析依頼】


身体強化ブーストの魔法薬製薬依頼】


依頼内容を見る限り研究所というよりは魔法薬の専門機関と捉えた方が正しい気もする。

そんなことを考えながらも依頼書を二十枚ごとに紐でくくって纏め、記録書に一覧として日付とタイトルの記述したりと着々と書類整理をこなしていく。

整理をしている間マンドレイクは俺の体やデスクの上をちょろちょろと動き回ったり寝たりと自由にしながらも時々俺に構ってほしそうに手の上に乗ってきたり体をこすりつけてきたりしてきたのでその度に撫でるようにした。ボロ家に住み着いていた猫が同じように俺にちょっかいをだしてきたりしたので今更うっとおしくなったりはしなかった。

日も高くなってきた頃時間も忘れて作業をしていた俺にミシアが昼食に食堂に行こうと顔を出してきた。ミシアはサンドイッチ、俺はオムライスを胃の中にいれ小一時間休憩してから再び作業に戻った。

それから数分後で扉の奥の執務室で会話をしているのが聞こえた。何を話しているかまでは聞こえなかったがマリアさんが戻ってきたのだとは分かった。


「・・・そういえば、ミシアってマリアさんにだけ口調が違うのってなんでなんだろ」


ミシアは普段は歳に似合わぬ大人びた話し方をする。しかしマリアの前ではその大人がいなくなって少女が表に出てくる。もしかしたら身内か何かだったりするのだろうか。


「__痛っ」


指先にピリッとした痛みが走った。紙で指を切ってしまったらしい。人差し指の腹の切り口から血が滲み出てきた。血を見たマンドレイクは狼狽えて心配するように俺の手にぴったりとくっついてきた。


「大丈夫だよ。さほど痛くないから」


そう言ってもマンドレイクは俺の手から離れずイヤイヤと顔を横に振る。

このままで紙に血を付着させても困るし洗い流そうと水場に向かった。指の血を水で洗い流してる最中、クスクスと女の子のような高い笑い声がした。笑い声は一つではなく男の子の声や女性的だったりいくつもの笑い声が水場に響いた。


「ん?」


見上げると様々な色の淡い光が楽しそうに浮遊している。四方からするその声の主は妖精や精霊であろう。俺はその笑い声を特に気にも留めなかった。


しかしこの時に既に彼女らの悪戯が始まっていたのだ。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る