Michia①
「おはよーございまーす」
午前九時。薬学室に入室した俺の挨拶に机仕事をしているマリアさんが「おはよう」と返し、すべての筋肉を脱力しソファにうなだれるミシアが「はよ」と短く返した。
「ほらミシア。今日はノエルくんいないんだから貴女にアシルくんの指導任せるって言ったでしょう」
「ん~~・・・」
眠そうに空返事をするミシア。どうやら朝に弱いようだ。
「ノエルさんとラウルさんとなら宿舎ですれ違いましたよ。ラウルさん完全に顔死んでましたけど」
「ラウルくんは徹夜苦手だからね。多分今日一日は起きないわね」
そう言いマリアさんは口元に手を寄せて上品にくすくす笑いをした。
俺が部屋から食堂に向かう際の階段でちょうど仕事を終わらせて宿舎に戻ってきたラウルさんとノエルさんとすれ違った。既に半分意識を手放しているのかフラフラとした覚束無い足取りのラウルさんに「ほら、ちゃんと歩いてくださいよ。もー・・・」と文句を言いながらも律義に肩を貸すノエルさん。
初めて研究所に訪れた時もマリアさんから(彼の部屋が俺の部屋と隣室であることもあり)宿舎の案内を任されたノエルさんは面倒そうな顔をしながらも渋々引き受けてくれ俺の側に付き添ってくれていた。なんだかんだ彼は面倒見がいいのだろう。
「んー・・・、きょうはとりあえずボクがしごとのせつめいするからー・・・。ねむ・・・」
ソファの上でうつぶせになってうなだれていたミシアが顔だけあげるがそれを告げるとすぐに力なく突っ伏す。
「仕事・・・。本当に魔法が使えなくても問題ないんですか?」
「それは勿論。じゃなきゃこちらから申し出なんてしないわ」
__昨日例の事件の終息がついた後、俺は再びマリアさんに薬学室で働かないかと誘いを受けた。
王都に滞在するのは胃が痛む思いでしかなかったのだが__、
(__戻ったところで
マリアさんは「それはそうとして」と話題の切り替えをした。
「本当ならば薬学室のメンバーを集めて自己紹介をしてあげたかったところなのだけれどね。ノエルくんとラウルくんは非番だし出張に行っている研究員もいるのよね。研究員は全員で七名。貴方で八人目よ」
「へー。じゃあ俺が知らないのはあと三名ですね」
「八人、って
完全に目が覚めたようでミシアが不機嫌そうな顔をしてマリアさんに言った。
「まあまあ。研究員ではないけれど一応薬学室所属だからね」
(
「俺以外にも研究員じゃない人がいるんですか?」
「ええ。薬学室所有の植物園の管理人がいるのよ」
「管理っていっても一日に一回システムに使っている魔法石を交換する簡単な仕事だけど。植物園の管理は研究員もだからそのうち教えてあげるよ。それよりもマリアさん、所長への報告の時間もうすぐだけどいいの?」
「あら?ほんとだわ」
ミシアにいわれて掛け時計を確認するマリアさん。机に広げていた書類を纏めるとそれを小脇に抱え執務室を後にする前に「アシルくん」と扉の前に突っ立っていた俺に声を掛けた。
「慣れない環境で大変だと思うけれど、薬学室の研究員に貴方を否定する人はいないから。存分に頼るといいわ」
それを言うとミシアに「あとは宜しくね」と言い残して薬学室を出て行った。
「マリアさん、すごくいい人でしょ」
ゆっくりと寝ていた体を起こしてソファに座り直すミシア。
「うん」
「マリアさんは絵に描いたような善人だからね。ボクもあの人は尊敬してるんだ。__あ、そういえばマンドレイクは?今日はいないのか?」
「いるよ。フードの中に」
俺は背中にあるフードに手を突っ込んでマンドレイクを引っこ抜いてミシアの前に見せた。マンドレイクは抵抗をすることもなくされるがままに宙ぶらりん。
「側に置いておくことにしたのか?」
「いや、まあ・・・。こいつは俺から離れる気なさそうだし」
昨日の事件以降マンドレイクとは肌身離さず側にいる。宿舎に戻ってからも夕飯の時も寝るときも。お手洗いにもついてこようとしたときはさすがにひっぺがしたが。
「君が魔法使いだったらマンドレイクを
「あー、考えとくよ」
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