そして少年は一歩を踏みだす③

「あれ、放っといていいんですか?」


「いいんだよ、日常茶飯事だし暴れたりするわけでもないから。あの二人仲悪いんだよな~、同族嫌悪ってやつで」


確かにあの二人はどこか似ている節がある。口調とか雰囲気とか。

日も高くなってきたこともあり窓から挿す日の光がまぶしい。ノエルさんは談話室の窓のカーテンで日の光を遮った。それと同時にミシアが談話室に入ってきた。


「ボクとあいつを同族にするな、ノエル」


「僕とミシアのどこが似ているんだ」


「そういうところですよ。ていうかなんでラウルさんその距離で聞こえてんの」


執務室と談話室を区切る壁からラウルさんは少し離れた大机で作業をしているのにも関わらず先程の俺とノエルさんの会話が聞こえていたようだった。地獄耳だ。


「__改めて紹介しようか。ボクはミシア。歳は十六だがこれでも一人前だし薬剤師としての歴もそこそこ長い。ノエルはボクの助手兼弟子というポジションに当たるな」


(十六!?)


見た目では予測できない実年齢の高さにも驚かされる。それに十六という歳で既に薬剤師としてノエルさんの師として研究所に勤めているとはよほど優れた魔法使いということだろう。


「珍しいですね、師匠せんせいが他人に自己紹介するだなんて。アシルのこと気に入った?」


「仕事仲間に名を名乗るのは当然だろう?」


「いやだから彼薬学室ここで働くの決定したワケじゃないんですって」


もー、いい加減話聞いてください、とノエルさんは目に見えて落胆する。しかし、ミシアはそんなノエルさんに対しきょとんとして見せた。ノエルさんの言っている意味が分からないと言いたげに。


「でも君、他に行くアテあるのかい?」


そして話し相手を俺にチェンジしてオブラートに包むでもなく躊躇なく俺の痛いところを突いた。無意識に俺の顔が歪む。だがミシアはそれに気づかないのか気づいて意図的に無視しているのか続ける。


「”魔力なし”の君が働ける場所、又面倒を見てくれる場所って薬学室ここしかないと思うんだけど。別に君や”魔力なし”が悪いって言っているんじゃない。それがこの国の現状なのさ」


「・・・・・・」


全てが正しい。故に言い返せない。多分彼女は俺を虐めたいわけでも正論で突きたいわけでもないのだろう。ただ、事実を言っているだけ。


「ハイハイ、師匠せんせい。俺たちは仕事に戻りましょうよ、明日までに手配する魔法薬いくつかあるんでしょ」


空気が悪くなったのを感じたのかノエルさんが俺とミシアの間に割って入る。


「分かったからボクを持ち上げるな」


「だったら身長伸ばしてくださいよ。無理でしょうけど」


「・・・生意気な弟子だ」


ノエルさんがミシアの後ろから脇を持ち上げたことにより両足が地から離れ宙ぶらりんにされる。


「アシルは好きに過ごしてりゃいい。談話室にある本なら読んでいいだろうし・・・。見学ならいいですよね?」


「そうだな。あとは”ブラウニー”に構ってやれ。さっきから物珍し気にテーブルの下から君を見ている」


(”ブラウニー?”)


って妖精の”ブラウニー”だろうか。


「テーブルの下って__うおっ」


テーブルの下をのぞき込むとそこにいたのは全身真っ茶色の兎。正確に言えば兎の姿をした”ブラウニー”っていったところだろうか。

ブラウニーのつぶらな瞳が俺とばっちり合う。その瞬間、ブラウニーの姿が光の粒子を残して消える。驚いて逃げ出したのかと思ったらそうではなく俺の胸のあたりに光の粒子と共に出現する。


「うおっと!」


すかさずその兎の体をキャッチする。これ俺が掴んでいなかったらどうなっていたのだろうか。


「その子は”ブラウニー”。昼は兎の姿をしているが夜は人間の姿で掃除をし始める。噛みついてはこないだろうから君がよければ構ってやってくれ」


ミシアはそう言い残してノエルさんにそのまま連行されていく。


「「・・・・・・」」


俺がブラウニーの目を見るとブラウニーも俺を見つめる。その二つの黒い点にマンドレイクを思い出し、あいつはどうなったのかなと少々気にがかった。




_______________________________

※本編に出てきた妖精の解説です。


【ブラウニー】


民家に住み着き住人の留守や睡眠中に掃除や仕事をしてくれる妖精です。善良な妖精なようですがあまりに家が綺麗だと逆に綺麗すぎると逆に散らかしてしまうそう。本編で兎の姿で出てきますがそれは創作の設定でございます。









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