第一話1 転生
視界が黒から白に反転する。
瞬時、脳裏に、あの時の戦場がフラッシュバックする。
「あ、あぁ、あぁぁああああっ!」
ヒスタルクは飛び起き叫喚する。
「アダプトンっ!どうしたの!?」
そのヒスタルクの絶叫を聞きつけ、女性が駆け付けた。
だがその女性は、ヒスタルクの事をアダプトンというのだ。
「アダプトン、落ち着いた?」
「あ、あぁ」
だが、アダプトンと呼ばれている事を流している、ヒスタルクがそこにあった。
「もう寝なさい。悪い夢を見たのよ」
ヒスタルクは女性に寝ることを促され、ベッドに横になり、その後女性は部屋から出る際、様子を見るように振り返りながら出て行った。
だが、ヒスタルクは眠れなかった。
「俺は、ヒスタルク・ジェンタミン、のはずだよな?だが同時に、アダプトン・ジェルへスマンの記憶がある。いや、逆だ。」
そう、アダプトンは、かつてどの国も恐れる傭兵、ヒスタルク・ジェンタミンの記憶を引き継いでいたのだ。
「転生、か。それも、記憶を残したままの転生なんてな」
アダプトンは冷静だった。
それは、自分がアダプトンであるからだろう。
「明日は学校か。はっ。元傭兵の俺が学園。それも、敵国だったはずのシノサイド王国、いや、帝国になったんだったな」
これはアダプトンの憶測だが、第一陣の撃破に失敗したα、その主戦力を失ったジュペイド元帝国は、敗れ、支配され、今ではシノサイド帝国の一部となった。
シノサイド帝国になったのはアダプトンの記憶で分かったが、その詳細まではヒスタルクの記憶無しでは予想すら出来なかっただろう。
「あと気になる記憶は。—————何故エルモットがこの国の伯爵を名乗っている」
唸るようにそう言い、顔は憤りの様子を浮かべている。それからは殺意を感じられる程に歪んでいた。
「今の俺は普通の学生だ。のんびり生活をしていこうとは一瞬思った。だが、それじゃぁ腹の虫がおさまんねぇ」
アダプトンはヒスタルクとして死ぬ前に最後に聞いてしまった、この上ない程に憎たらしい言葉を脳裏に再生する。
「あいつは、友人だった。だがもう過去の話だ。ぶっ殺して落とし前つけさせてやる」
そう言い、ベッドに寝転がる。
屋内かつベッドに寝るのは久しぶりだった。長く傭兵を続けていれば野宿するのが当たり前になっていたのだ。
「そうだな。折角転生して傭兵じゃなくなったんだ。ゆったりと暮らすってのも悪く、ねぇ―――――」
アダプトンは気絶するかのように深い眠りについた。
そして今から、ヒスタルク・ジェンタミンはアダプトン・ジェルへスマンの皮を被り、アダプトンとして生きていくことを余儀なくされたのだった―――――。
「—————この国には車という乗り物があるとは、便利だな」
学園に向かう道中、アダプトンは轟音を鳴らす車を見てひどく驚いた。
「あれは戦車によく似ているようだが、装甲が薄く、大砲部分もない。だがその代わり機動力があり過ぎる」
ジュペイド元帝国ではこのような移動用乗車などの便利な物はなかった。
ただ、武器開発に関してだけは超一流だった故に、今までは何とか支配できていたのだ。
「だが、武力が無ければ、あそこもただ広いだけの村のようなものだったかもしれないな」
この国は平和そのものだった。人々が緊張をしている様子もなく、殺伐としていなかった。まるで別の世界にでも来たようだった。
「だがぁ、アダプトンはこの景色をいつも見ていたはずだが、どうして俺はこんなに不思議そうになる」
アダプトンは首を傾げた。だがその謎も直ぐに解いてしまう。
意識が完全にヒスタルクだったからだ。アダプトンの記憶を本として読んでいるような感じで、実際にヒスタルクは見たことが無かったからだと結論付けた。
「おい」
すると、背後から地の底から響くような、太い声がアダプトンの鼓膜を震わせた。
振り向くと、すぐそこには大柄の男が立っているのだ。
だが、アダプトンは進行方向へ向き直る。面倒事に巻き込まれると分かっていたからだろう。
「っ!無視してんじゃねぇ、よっ!」
すると、そんなアダプトンの態度に大男は怒りを示した。
大男はその太い腕を突き出し、アダプトンの後頭部を撃ち抜いた。と、思われた。だが、その腕は空を切り、大男の視界からはアダプトンの姿は消えていた。
刹那、大男の顎部分に強い衝撃が伝わる。
「襲うならまずその殺気を隠せ。死にてぇのか?」
倒れこんだ大男に尻をつかせたアダプトンは、大男を見下ろし言った。
とたんに周囲から歓声が飛び交う。
記憶では、この男はブリズン・ニークスで、この辺りでは悪い意味で有名な暴力的人間のようだ。また、アダプトンと同じ学校に通う学生らしい。
「こいつ、よく見ると俺を虐めてたやつか」
アダプトンにはブリズンに虐められている記憶があった。
「火の粉は振り払わないと、大きくなる」
殺す。その思考が頭をよぎった。
このまま放っておくとまた絡まれる可能性がある。もし、本当にスローライフをするのであれば、出ている芽は摘まないと意味が無い。
(だが、殺すのはまずいか。人が多すぎる)
するとアダプトンは、未だに口をパクパクしているブリズンに手をかざした。
「ではこれでいこう。お前には忠誠を示してもらおうか。チェイン」
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