22スラ ホテルはリバーサイド! スライムさん

「ぶるん♪ ぶるん♪ ぶるん♪ はるちるがるとるぶる♪」


春の穏やかな陽気の中で、拾った戦国刺突小枝をフリフリお歌を披露するご機嫌な幼児。

これから原っぱを抜け、森に入る手前を右折、信号三つ行った先の小川へ遊びに向かう最中。


最中って「さいちゅう」とか「さなか」とか「もなか」とかさぁ。オマエ、どれだよってハッキリして欲しいよね?

一人ナカマ外れが混じっちょる。おいしくパックンチョ出来ちゃうヤツ。

口の中の水分が半端だとパリパリの皮が上あごに引っ付くのですよ。

それはさておき。


今回は引率案件なのでローズも投入されたようだ。

なのでメンバーは勇者ベルを旗頭に、保護者ローズ、その頭の上に睡眠担当ぴよこ、遊ぶ人スライムさんのフルパーティ。

遊ぶ人のくだりは前にやったから今回は省略。世間ではエコを叫ばれるからな。省くところはハブるんだぜ!


「おるいるけるのる♪ まるわ~むにゃむにゃぷー」


おや? 幼児のご機嫌ソングが不可思議方面に傾いた気配が濃厚に。失速ソング爆誕。


むにゃむにゃぷーが付与される場合、歌詞の明瞭さに欠ける、大脳皮質から取得する情報が結合しないなどの原因が知られている。

統計学的見地から全国十万人中、一人の悪魔男にアンケートを取った結果、大体28チョップがパンチ力、16キックが破壊力、19アイなら透視力、97カッターは岩砕くと言うデビールな単位のグラフが作成される。

つまり。

ベルさん、歌詞忘れちゃったのー?と言うことでございまっする。


「なんだ、ベル。その呪文みてーな歌は」

「はちさんがとぶうたー」

「客引き人形のアルバイトしてたエリーさんに教わってたわね」

「そー。ぱんつのおねーちゃんがおしえてくれたのー」


この歌、よくある童謡の歌詞一文字ごとに「る」をブチ込んでるのでございまするる。


「あのメイドロボ……。ヘンな異文化撒き散らしてんじゃねーよ……」


まだ話数がガラスの十代だったころに登場しくさりやがった異世界☆旅行(笑)にきた異世界霊のエリーさん。

バランスブレーカーだったんで登場しなくなってヒト安心。マジで。


 つんつん つんつん


 ぼふっ


「んふー♪」


水色のまんじゅうを目敏く見つけた幼児。安定のつんつんを発動。

キラキラと。

陽の光を浴びて、ぼふっとブチ蒔かれた胞子が光を帯びるイリュージョン。

ええ、それはもう幻想的に。

降り注ぐ光の粒がファンタジー感を二割増し。


「へくちっ!」


ベルさん、胞子吸い込みブバッっと鼻汁が元気よくコンニチハ。

ファンタジー感二割減。

幼児の鼻から鼻汁がダリリーンと垂れるのは決まり事。

間髪入れずズズズと再び格納する音が。

そして――余った汁気を袖でナイナイしようとした正に今。


「ちょっとベル待ちなさい。チリ紙でチーンしなさい」


ローズはすかさず袖がテカテカする行為を制止。

さすが保護者。見事なタイミング。

アタマの上に鎮座しているぴよこがプヨンと揺れているくらいサスガ。

ローズはゴソゴソと。

ベルのスカートに実装されたポッケからティッシュを取り出しております。


「すごい! ぽっけになにかはいってた!」


ベルさん、エプロンドレスのポッケ以外は認識の対象外らしい。

スカートのポッケにハンカチが入ってることも忘れてる可能性大。著者も忘れてたくらいだ。


「はい、チーン」


格納した鼻汁が再びブビッと排出。ティッシュでフキフキされました。

袖がテカテカになる事案は回避。

そして、鼻かんだティッシュはエプロンドレスのポッケ――ベルさんの領域――に格納。

ポッケの住居人はクワガタの頭、拾ったオハジキ、ドングリ、マツボックリの残骸、つるつる石、すべすべ石、昔懐かし20円ガチャガチャのカプセル(上)に鼻かんだティッシュが合流。今日も賑やかです。


気を取り直して勇者一行の旅は果てしなく続く。

だいたいアリあはーんから馴染みの塔あたりまで直線距離で。

可愛い子犬に足袋を噛ませろ。


「かわだー!」

「川だな」

「着いたわね」


目の前に横たわる河川。そしてチョロリと流れる側溝のようなちんまい川。

まさか川が二つあろうとはお天道様でもわかりゃしねぇ。

どちらに行くべきか、それはパーリーピーポー孔明ですら頭を悩ませるのだ。なんと50パーセントの確率しかないからだ。

しかし。

深淵を覗き、世界の裏側から事象を観測するスライムさんは全てを見通す目を持っているのを読者諸兄は記憶に新しいのではなかろうか。


<●><●>ミテイルゾッ


だれだオマエ。通報しますた。


<〇><〇>ミ、ミテナイヨ?ホントダヨ?


知らんがな。


「おい、ローズ。どっちの川だ?」


さすがスライムさん。この局面に至って、正しい答えに到達する方法を熟知しているのだ。

判らないことは聞け。真理。


「手前のちっちゃい方よ」

「ピヨ~zzz」


ハイ。予想通りちんまい川の方でした。幼児が遊ぶからねぇ。

ぴよこ、いい加減起きて参加しろ。


「めらか! めらかがおよいでる!」

「ん? おー、メダカが居るんだな。流れの少ねぇちんまい川だから棲めるんだろう」


だいたいおおよそやく30センチメートルの川幅。深さ10センチくらい。ジャブジャブ入れるくらい。

しかし。15センチメートルくらいの深さがあればヒトは溺れることが出来るので一度お試しあれ。

但し、救急車は事前に呼んでおくこと。海水浴場のライフガードでも可。


ベルさん、さっそく靴とクツシタをぬぎぬぎしちょります。

そのままザッブーンしないところは教育の賜物。


「ちょっと、ベル。川の中は石がいっぱいあるんだから気を付けなさいよ!」

「はーい」


非常に良い返事が返された時は、たいてい幼児は反射で答えただけだ。

原則、聞いてない。


「まぁ、カドのある石は流れの速い方集まるからな。こっちは小さくなった玉石が流れて来てるみてぇだ。あるとしたら踏み違えてひっくり返るくらいじゃねぇか?」

「それを注意してほしいんだけど……」

「そこはケガさせないようにするさ。スライムさん108の煩悩技でな」


そこはかとなく不安を掻き立てる技名頂きました。役に立つのか謎。


「えびー。なかみみえるえびがいっぱいいる!」

「あら、川エビもいるのね。油で揚げるとパリッとしておいしいのよね」

「すごい! おいしいえび!」

「おっ? サワガニが居るじゃねぇか。意外と清流なんだな」

「すらいむさん! かにどこ! どこ!」

「ほら。そこだ、そこ。二、三匹いるだろ」


ベルさん、カニに喰い付きました。ハサミでチョッキンとか遊び方は無限大。

うっかりハサミをモギリすることがあるけど、なんとなく無限大。


「かにとったどー!」


小さなお手々でサワガニを横からムンズと。どこかの番組のように勢いよく天に掲げる姿は無人島自給自足生活の様相。

そして――ポケットに格納!

ゴソゴソとポッケの中を暴れまわり、見事サワガニは脱出。カサカサと川に帰還。


「にげられちった」

「ポッケに入れるには元気が良かったものね。おうちに帰りたかったんでしょ」

「なんだ、ベルは虫篭とか持ってきてねぇのか。そんじゃ、捕まえても仕舞えないな」


すでにベルさんは違う魚介類にチャレンジ中。

メダカ……は速度的に不可能だったため、ターゲットは川エビに。

水の中で小石に捕まってのんびりしてるところをむんずと捕まえる。


「てのなかでびちびちする!」


おもむろにビチビチ暴れる川エビをポッケに格納するベルさん。

今度こそ捕獲と言ったところだが、予想を超える川エビのパフォーマンス。

ビチビチの激しさはポッケの深さを軽く背面飛びで越せる跳躍力を持っていたのだ!

あらら。川縁の草っ原に落っこった川エビがビチビチ跳躍しちょりますがな。

キミタチ、川は逆方向ですよ。


「にげられちった」

「バケツでももってくればよかったかしら」

「とりあえず、捕まえたモンを入れる生簀でも作るか。おい、ぴよこ出番だ、起きろ」


ローズの頭の上に吸着したぴよこ、なう。


「ピヨzzz……ピヨ……?」


仕方なし、という雰囲気四割増しくらいでボーッと起床。半目やがな。


「ぴよこ、溝の脇に小せぇ生簀作りてーんだ。この辺りに深さ10センチくらいの穴あけてくれ。水漏れしないように側面圧縮仕上げな?」

「ピヨ? ピヨョ~ン」


 ヒュゴッ キラーン ヒュルルルル ズガガーン


ぴよこ、マッハで急上昇。ブチ抜かれた雲が円形の穴を空ける。

山手線上りが過ぎ去ると、山手線下りが到着するのは世界標準。

上りと変わらぬ速度で下り電車がやってきた。

地面に突撃。


「ピヨ?」


何ごとも無くキョトンと小首を傾げるぴよこ。身体半分埋まっとるがな!

スポンとぴよこが地面から飛び出した~からのローズの頭に着地。

ピヨー、と一仕事終えた土方のオッサン風くつろぎモードに。


「おー、いいカンジの穴ぽこ空いたな。んじゃ水でも汲むか」


しげしげと、ぴよこ落下跡を覗くスライムさん。しかしスライムさんには目がないのだ。

それは心の眼、セブンセンシズがコスモ炎上的なカンジに金ピカで光速だしちゃう雰囲気があると思いたまへ。

掛け声はセイヤー。ペが刺す。


「すらいむさんからなんかでた!」


ミョーンとスライムさんが触手っぽいカンジのナニかを溝っぽい小川にチャッポンとブッ込んだーと思ったら。

本体からピュルリと水出た。あっと言う間にぴよこ穴は水溜まりにクラスチェンジ。


「スライムさん、ポンプみたいね」「ピヨョ……zzz」

「便利だろ? その気になりゃ、10分でプール2杯分はイケるぜ! つーか、ぴよこまた寝てんのかよ……」

「みずたまりできた!」

「おう。この水溜まりにエビやらカニやら放り込め! 帰りにスライムさんウォーターボックスで持って帰ってやっからよ」


初出のスライムさんウォーターボックス。

上部を水槽宜しく変形させてスライムさんがニジリニジリ這い回るのだろう。

前回のスライムさん戦車の如く。

たぶん、きっと。


ベルさん、ビチビチパワーが尽きかけてグッタリコンしてる川エビをポポイッと生簀へ絶妙なコントロールでナイスシュート。

生簀水族館の魚類拡充のため再び小川探索を始めとりますが……。

ナンかしゃがみ込んでる。スカートのスソが春の小川をサラサラ行くよ状態。


「ちょっと、ダメよベル。しゃがんだらお洋服濡れちゃうじゃないの」


ほら、保護者ローズからイエローカードが発行されましたがな。

しかし。

幼児は目先の興味あることが最優先なのですよ。


「たみしー! たみしいっぱいいるー」

「たみし? ああ、タニシがいるのね」

「zzz……ピヨ? ピヨヨ!」ジュルリ

「ぴよこ、タニシで反応するんかい。オマエはカラスかよ」


両手にモッサリコンとタニシを持つ幼児。即席生簀にボチョボチョと放流しております。

ん? 生簀に放流……? あってるのか? まぁ、細かいことは気にすんな!


「たみしいっぱいとれた」

「意外とツブがデカイじゃねぇか。甘辛醤油で煮込めばウマイぞ」

「ピヨ! ピヨッピヨ?」


ぴよこ、生簀の淵からおもむろに覗き込む姿にアヤシサが漏れてますが。


 つんつん


 ヴァリ ガリッ ボリリッ クッチャクッチャ


「あー! ぴよこさん、たみしたべたー!」

「オマエ、ホンとナンでも食いやがるな……。甘辛醤油で煮込むんだから二、三匹にしとけよ?」

「結局タニシを食べるのは変わらないのね」


 ぐにゅぐにゅ~ ズッポシ


 ぐにゅぐにゅ~ ズッポシ


「……おーい、ベルさんや。ナニしてんだ?」

「おうちつくってる!」


幼児はポッケからガチャガチャのカプセル(上)を取り出し、丸まってる部分で地面をグーリグリと。

あら不思議。丸い小さな穴が出来ました。

まさに竪穴式住居。

それが集落レベルで建設されとるがな。


ベルさん、生簀からタニシをモッサリコンと持ち出します。

はい、一粒ずつポポイッと竪穴式住居に住民を強制入居。

エスカルゴが乗ってる穴ぽこ空いた皿の様相。ファミレスのチープなアレだ。


「タニシのホテルみたいね」

「川縁のホテルたぁ洒落てるじゃねーか。リバーサイドホテルってな」


ローズさん。そのフリはよろしくない。

スライムさん、その返しはよろしくない。

ちょっと著作なんたらが微妙すぎて返って危険度上昇。

誰も知らない夜明けが明けちゃう!

その一文が一番危険!


「たみしー♪ たみしー♪」


そんな冷汗ダラダラ状態なんぞ知ったことではないと、幼児はタニシ漁に精を出してますがな。竪穴式住居の空き部屋はまだまだ有るよ!


「たみしー! おっきいのみつけたー!」


なんかね、幼児の小さい手からこぼれるサイズのタニシが握られてんのよ。

そして――天に掲げたー!


「ピヨ~。ピヨヨ~」ウットリ ジュルリ

「すごく……大きいです……」

「ローズ。サイズ的に同じくらいだが、そのセリフは子供が言っちゃだめなヤツだ」


すでにベルさん、竪穴式住居に巨大タニシを詰め込んでます。

アレだ。いつものポッケにぎゅうぎゅうと押し込もうとするパターンだ。


「ベル。そんな押し込んだらタニシの殻が割れてグチャァァになるぞ」

「そうじゃー。オラ、潰れてしまうがなー」

「……」

「……(ナンかこのパターン、前にあったな)」

「え? え?」


「しゃべったーー!」


幼児、目をギランギランとピカらせて両腕を左、右へとダイナミックにキレッキレなフーリフリ。

熱烈応援踊り、もしくはペンライトダンシングと呼ばれる四十八の感嘆技の一つだ。珍しく周囲に被害が発生しなかった。

腕だけの動きだったのが功を奏したようだ。ピョンピョンフミフミされてパリーングチャァァにならんでヨカッタヨカッタ。

しかし。被害出なくてもペンライトを持たせるとピカッてうっとうしいゾ。


「あー、喜んどるとこスマンがー。そこの鳥がコッチ見て目をランランとさせてのう。ヨダレをたらしておるんじゃー。オラもまだ食われとうないから何とかしてくれんかのう」


タニシ(人語を解する)からすれば捕食者に旨そうなモノ見る視線を投げられれば、身の危険を感じるだろうこと請け合い。


「あー、そうだな。とりあえず、ぴよこ。今コイツを喰うんじゃねーぞ。甘辛醤油煮にすんだからよ」

「ちょっと、スライムさん! それじゃ後で結局食べちゃうの! これ、食べたらダメなタニシじゃないの⁉」

「おっきいたみし、おいしいの?」

「さあー。オラは田螺食ったことねーからよー。クックパッドで調べてくんろー」


メタイことを言い出したデカイタニシ。サザエくらいあるので食いではありそうだ。

なんとも間延びする喋り方のタニシ。田舎者臭がプンプン臭ってきちょりますが、何を隠そうこの地域も結構な田舎なので、この勝負はドロー。


「全く、仕方ねーな。このハナシは一旦ここまでにしろよ? 細けえ話は次話に持ち越しすっからよ」

「じゃあ、今日は終わりなのね」

「はーい! しゅうりょー!」

「ピヨ~~ピヨヨ~~」ランラン ジュルリ ジュルリ

「次のー話はーオラの秘密が暴かれる回だからよう」


勝手に尺終わらせてナンか次回予告とかしてやがりますが。

やはり、あの深い蒼が事象に影響する、のか……? うん? 謎っぽく言っただけだ。


今回、地の文はオツカレモードなのでおとなしくしてました。

判り易く言えばキレがない。

半端な立ち位置で係わっていたのだ。


あ、次回に続く。マジで。


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