7スラ トランシルヴァニアファミリー! スライムさん

「トランシルヴァニアファミリーってのは、ちょうどホレ、そこのクマみたいな人形とドールハウスがセットになったオモチャだよ。」

「オモチャ? クマの? 見たことないわ。」


博識のスライムさんは地球産の玩具についても詳しいのである。


トランシルヴァニアファミリーは主に女児向けの人形セット付ドールハウスだ。

5cmくらいで短毛の手触りが良いデフォルメされた吸血クマの人形家族とその住処で家族ゲーム的な反抗期付き青春物語を追体験する舞台装置だ。

友クマ、恋クマなどのオプションを追加できる。


ん?パチモンだって?バカを言っちゃいけないよ。

そんなことある筈ナイじゃナイか。

そうそう、パチモンと言えばこれだ。


シルベスタファミリー。

こちらは戦場帰りの筋肉クマの家族とその家だ。

家の中にはトラップが仕掛けてあり、遊びながら警戒心と洞察力を鍛える。

主人公クマはM60とナイフ、弓がデフォルト装備。弓でヘリが落とせる。

パッケージには『ポロリもあるよ!』と夏の芸能人水泳大会のようなコピーが付いている。

実際ポロリもあるよ。首が。


類似品で、メイプルビレッジ、パームビレッジ。

ウサギが主人公で様々な野獣がデフォルメ人形になっている製品もある。

ウサギさん逃げてー!


「とらんするばるまふぁみりー!」

「トランシルヴァニア、な。クマ家族って覚えとけ。」

「くまかぞくー! くまかぞくー!」

「あのコグマ? クマ家族っていうの?」

「んにゃ。今適当に付けた。呼び名なんて特に決まってねーんだよ、アレは。」

「えっ! スライムさん、あのコグマなんだか知ってるの?」

「ほえー?」


約一名、何の話なのか判っていない。幼児だもんね!


「ありゃ、地霊の一種だ。妖精とか精霊とかの仲間だぜ? クマだけど。」

「精霊様なの? 初めて見た! クマのすがたなんだ。」

「いやいや、地霊とか精霊とか力がちんまいヤツらは姿が決まってねぇんだ。環境で変わるからな。熊の植木が側だったから姿形が影響されたんだろ。」

「へー、そうなんだー。」

「おおきいくまさん! ちいさいくまさん! くまかぞくー! ちんまい!」

「まぁ、家族みてぇなもんかな。つーか、ちんまいを拾ってくるのかよ。」


全ては語呂と語感で拾われた。漢字使ってないからな!


「くまさーん! あそびましょー!」


穴を覗く幼児、ちんまいのに向けて大音量で場内放送敢行。

幼児が行動を決定したら様子見などないのだよ。


 ビビクンッ ビビクンッ


ほら、ちんまいのがビクビクビックンとお笑い芸人なみのリアクションを披露。

ほら、あのちんまいヤツは身体まっつぐ斜め後ろに垂直ジャンプキメッキメ。

ほら、あのちんまい子は顔面土下座状態でお尻タカダーカにビックンビックン。


ちんまいのは見られているとは思ってなかったようだ。

普通は地霊とか精霊とか見えないかんね。

見えるのは子供とか動物とかだかんね。

当店では全部取り揃えてございます。

他店より高ければ値引きしますよ!


ちんまいのが慌てふためき走り回る。

隠れに隠れる。隠れる場所はクマ木の幹。

蛇のように長蛇の列になってます。

後ろの方、丸見えですよ。

蛇行具合がU字型なんすけど。


「ベル、ちんまいのがビックリすっからでかい声だすんじゃない。やさしく誘ってやんな。」

「えへへー、ごめんねー。やさしすくるー。」

「プププ。あのクマ、こっちから丸見え。」

「くまさーん! あそびましょー♪」


今度は小さい声で言えたようだ。えらいえらい。

犯した失敗は繰り返さず、次に生かす。

それが仕事をする上での鉄則だ。

「いい仕事してますね~」と言われる匠の仕事も数多の失敗から成り立っている。

匠。巨匠。巨乳。マエストロ。

マエストロっていうとカイゼル髭はやしてそうだよね。


ベルはそーっと手を伸ばす。小枝を持った手を。

くまかぞく(仮)の前にはアリの巣破壊実績のある小枝が!


目の前に来た小枝の安全を調べるのだろう。

斥候がソロリソロリと近寄っておっかなビックリ触ってピューと逃げる。

なにやら相談している。ちんまいのがコショコショと。

そして、ちんまい勇者がソーロリソロリと小枝に近づき、なんと握ったではないか。

彼の誇らしげな顔はヤり遂げた漢の顔だ。

三国志系シミュレーションであれば!

劉備選択序盤、武将兵糧全部もって袁紹地方荒らしまくって不毛の地にするかの如く。

趙雲でるまで放浪略奪は続くよ!


ちんまい勇者に続き、ちんまい賢者とかちんまい僧侶とか、もういいや。ちんまいのが次々と小枝にまとわりつく。

彼らの行動原理を考えてはいけない。

人とは違うのだよ、人とは。

人とは同じにならないぞ!と卒業アルバム辺りにこっぱずかしい台詞を書き残し、迎えた将来が下っ端で冴えない労働者だったその他大勢とは根本的に違うのだ。


クマもっさり小枝。

ソローリソーロリと引き抜く。

ベルさん、細かい作業もできたんですね。それがビックリです。


「つれたっ!」 クマもっさり。つんつん以外の小枝活用。

「おう、釣れたな。大猟だ。」


スライムさん、その字面は狩猟扱いですか。

ここ禁猟区じゃないよね?

ヤベッ、後でマップ確認しねーと!


「やー、すごーい。クマがいっぱい生ってるみたい。」

「くまぶどー。10えんです。」


ベルさんや。それだと熊の武術に聞こえますがな。

そして安っ!業界最安値更新中!

円なのは気にすんな。

10ピコセマイオスとか変な単位だしたってパッと見判らんだろ?

1ピコセマイオスは1000ピコセマイウス、どんな価値か読めんよな?

むしろ覚える価値がござらんでごわすそうろうザマス。


話を戻そう。


熊武術は鉄毛熊が起こした格闘術だ。

武器による攻撃は全て、スンゴーイかったーいとJKに撫でられる体毛で逸らし、懐に入り必中の一発、もとい必殺の一撃を放つ殺動物術だ。

彼らの前ではいかなる物も、ちょっと熟れすぎて中身スカスカになったスイカに等しい。

黒い熊毛に白い道着がチャーミング。

1レッスン2時間週3回 月額6,500円 駅徒歩5分。

今なら体験入門1カ月無料。

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広告費?貰ってないよ?ホントだよ!ホントだよ!だよ!



「あなた方は我々をどうするつもりなのですか。」


なんか、ちんまいのから理知的な言葉が出てきた。予想GUY!


「んゆー? あそぶー!」

「そうね。一緒に遊んでくれるかしら。」

「オレたちゃどーもしねーよ。子供たちとちょっと交流が持てたらなと思っただけさ。」

「なるほど。仰ることは理解いたしました。我々は人族の目には映らず自然の摂理と共に平穏に過ごしてきました。」

「ん?なんだい。余計なことしちまったってか?」

「いえ。我々を認識出来るのであれば人族との交流が生まれるのも、また自然の摂理。喜んで受け入れましょう。」

「はーい! よろこんでー! んゆ? なんかもぞもぞしてる。」


ベルさん、それは居酒屋ですよ。知ってる単語拾っただけでしょ。

そして、このお話で一番まともな会話が出来るキャラのポジション臭い、ちんまいやつら。プンプン臭うぜ。


「んじゃ、自己紹介な。オレはスライムさん。見ての通り大いなるスライムさんだ。」

「ベルは、マリアベル・フォークス。ベルなの! 5歳!」

「私はローゼリア。ローズと呼んでね。」

「我々は個体に名称はありません。お好きに呼んでいただいてかまいません。」

「一族として呼ぶのであれば、トランシルベスタファミリーとお呼びください。」


うおいっ!名前!

混ざってる、パチモンと混ざってる!吸血筋肉クマになる!

そして話題を変える幼児。一族名は興味ナッシング。


「どんじゃらほいってなにー?」

「ドンジャラホイですか? ええ、それはドンジャラホイのことです。」

「ん? なんだ? ドンジャラホイってのはナニを指してるんだ?」

「ドンジャラホイです。」

「……そうか。ドンジャラホイか。」

「はい。その通りです。」

「んふー? んふー?」

「結局、良く判らないわね。」

「んふー? んゆー? もぞもぞ。」


みごとな会話のキャッチボールである。

キャッチボールなのに魔球を使っているのである。

それを受け取るスライムさんは「マジ、ゴールデングラブ賞じゃね?」と野球小僧達が鼻汁ブバッと吹き出しながら心震わすナイスプレイ!

キャッチからのトリプルアクセル越しに振り返らず返球する様は失禁モノです。


そして最後に前話のタイトル再回収。



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