6スラ 庭の木陰でドンジャラホイ! スライムさん
どんじゃらほいって何よ?
その囃子はどうなんよ?
なんか土着にそんな囃子とかあったんか?
素で思いついたんなら普段の思考が見てみたいぜ。
「ごろごろー♪ ごろごろー♪」
「…ナニしてんだ? ベル。」
現時刻0700、目標クリア!
そして要救助者が囚われた部屋へ突入を敢行した
そこには要救助者がベットの上でバンザイムーブよろしくゴーロゴロと高速に行ったり来たり。
幼児の奇行を目の当たりにしてマイガッ!なんて叫ばないスライムさんの鋼の精神は瞠目に値する。
「んふー♪ ごろごろー。ごろごろーしてたー。」
「…おう。そうか。楽しけりゃいいわ。」
「うん! たのしー!」
素晴らしいローリングを見せるベル。ベットを縦横無尽にローリング。
横ロールだけだから縦横無尽じゃないじゃん、なんて言ってはいけない。
横無尽なんて熟語はないのだよ。大人の事情なのだよ。オトナ、汚い!
まるでローリング石のように、転がりイズマイライフとバレルロールをキメそうな勢いに私など下々の賤民は、肉ジャガー食いたい。などと思ったりしなかったりするのですよ。
あれ?ローリング止まってら。なんかマクラを縦においてるぞ?
ま、まさかあれは夢枕の構え…!?
知っているのか!ライどん!
…ニアミス、だと?
「んふー♪」 ギュッギュッ
「んふー♪」 ギュッギュッ
「んふー♪」 ギュギュギュッ
「んふっにょっ」 ギュッ ズルッ コロリ スポーン
枕の角を内側に詰める尊い奉仕に時を費やしていたベルは、慈愛の心を理解しないマクラ角の反発にあい、ズルッと手を滑らした。
その勢いは登山鉄道のスイッチバックより早く、コロリと前転を強要するに至る。
そして読み込みマップがでかすぎて異常に長いロード画面を持つゲームより素早く1回転を決めた。
夢枕の構えからマクラが艦砲射撃の如くスポーンと発射されたのだった。
放物線を描く砲弾は、幼児の奇行を放置し専用籠の中でマターリと寛ぐスライムさんを直撃した。ぼふっ!
「んふー♪ すらいむさんぼふっしたー♪」
「ああ、音だけな…。なんでマクラがここにある?」
「とんでったー。」
「そうか、飛んだのか。今度から飛ばないように気ぃつけな。マクラだって飛ばされちゃかなわんだろ。」
「うん、わかったー! きおつけるー。」
さすが、スライムさん。その深い慈愛の心は無機物であるマクラの気持ちすら理解する!
その慈愛は確かにマクラに届いた。マクラ角には届かなかったが。
毎夜、圧死の恐怖に耐え孤独に職務をこなすマクラは感涙で枕を濡らした。
コンコンコンコンと4回、ドアをノックする音がする。
「失礼します。お嬢様、スライムさんさま、ご朝食の支度が整いました。食堂へお越しください。」
「はーい。」
「おう、ありがとさん。つーか『様』いらねぇよ。お笑いネタみたくなってんじゃねーか。」
「失礼いたしました。では、以後、『スライムさん』とお呼びいたします。」
ナチュラルにスライムさんに対応したよね。
そりゃ家長から通達はあっただろうさ。
そんな裏側事情。
夕べぶりの食卓である。扉バーンでまた叱られる流れは鉄板だ。
「おはよう、スライムさん。」
「おう、おはようさん。」
朝の挨拶を一回り。いちいち書いてるのが面倒だから省略したわけではない。ホントだよ?
「スライムさん、夕べはありがとう。」
「僕からも礼を言うよ。おかげで妻がますます魅力的になった。」
メグは、お肌ツルリン艶ツヤッツヤになっている。
まぁ、夜の生活頑張ってくれたまえ。
君たちの合体技がダダッダとガッキーンして国民増加に繋がるからな。
「スライムさん、あそぼう!」
「あそぶー! あそぶー! つんつん!」
ローズとベルは、ごちそうさまの後すぐさま遊びに駆け出す子供のようだった。
うん。子供だったね。しかたないね。
ベルはつんつんがライフワークだもんね。
「んじゃ、庭いこーぜ、庭。昨日気になってたんだよ。熊とか。」
あと、グッドデザイン賞な芝生も。
尺カット。
庭。広い。なに、どこの公園よ?家族連れキチャウよ?カップルがウフフしちゃうよ?
そして、熊。あとウサ吉にニャン次郎、馬之助、およびコケッ子。そして小屋の上に仰向けに寝てる犬。OH!ピーナッツ!
植木でございます。ええ、植木職人の匠の技が光る見事な刈り込みでございます。
地方ヤンキーが鬼ゾリおなしゃースって注文にくるくらい良い刈りです。
「おー、すげぇな、この熊。5mはあるぜ。」
「トランザム大陸のマルカジーリベアよ。」
「くまー! くまー!」
「丸齧りかよ!」
「そうよ。動物意識学者の話だと、『オマエノ アタマ マルカジーリ』って感情がでてるんだって。」
「まんまかよっ! 物騒すぎるだろ、その思考!」
「まるかじりー! まるかじりー! んふー!」
つんつん つんつん
つんつん つんつん
「おいおい、ベル。いつの間に小枝ひろってきたんだ?」
「まるかじりのあしー。おちてたー。」
熊の足元辺りに転がってたようだ。植木職人が剪定した枝を残すとは思えない。
いつかのベルが小枝を置いたのであろう。
隠しもの忘れさることリスの如く。
そのことわざ、ナンて戦国時代?
「ベルは、ほんとにつつくの好きねぇ。」
「うん! つんつんするー!」
只今、アリ帝国侵略前線基地が攻撃を受け防衛中。
巨大な攻城兵器は砦の門をいとも容易く打ち砕き、尚も執拗な攻撃を続ける。
『大隊長!第一防衛ライン壊滅!第二防衛ラインもう持ちません!ご判断を!』
『…やむを得ん。第三防衛ラインへ撤退だ!そこで隊の立て直しを行う!』
だが、神の悪戯か攻撃が止む。
『助かったのか…オレたちは…』
「もう、ベルったらアリの巣をつついちゃだめでしょ。アリさん困っちゃうわよ!」
「んへへー。わかったー。つんつんしないー。」
ベルは見つけたアリの巣穴をツンツンえぐりえぐりしていた。
姉に諭されやってはいけないことなんだと素直に聞いた良い子だ。
扉バーンはルーチンなのでプログラムアップデートまで修正は入らない。
ベルはツンツンえぐりえぐりしたアリの巣穴を元に戻すべく優しく土をかけて踏み固めた。
一日一善。善哉善哉。
「スライムさーん、危ないよー。」
ローズははらはらドキドキだ。
なにせスライムさんが熊に登って顔面攻撃中だ。
熊が窒息するのが早いか、スライムさんが齧られるのが早いか。
あるいは――。
…うん。勿体付けたが何も浮かばない。スルー推奨。
「落ちちゃうよー。」
「へーき、へーき。こんくらいの高さなんか問題ねぇぞ。アララットウ山くらいの高さからフリーフォールしたこともあるんだぜ。」
8,000m級である。
そらよっ!と、ポーンと飛び降りるスライムさん。
受け止めようとするが目測誤るローズ。たぶん球技向かない。
ポイーンポイーンとボールのように、しかもポイーンの王者バレーボールくらいのポイーンで事も無げに胴体着陸をした。
「な? 全然平気だろ?」
「もー、びっくりしちゃったじゃない! パシャンてなっちゃうかと思ったのよ!」
「わりぃ、わりぃ。スライムさんは頑丈にもなれるんだぜ?」
おや?面白そうなイベントごとに真っ先に反応しそうな幼児がおとなし過ぎるぞ?
熊の足元でしゃがみ込んでおられるが。
再度のアリノスコロコロリ作戦中か?
いやいや、先ほど内部修正が入って実行コマンドは削除済だ。
んじゃ?なにしてんのー?
「どしたー、ベル。何かあったかー?」
「あな! くまさん!」
「え? またアリさんの巣を見つけたの?」
「くまさん!」
幼児は振り向きもせずただ一点を注視する。
穴と熊が繋がらない。はっ!アナ…クマ、穴熊か!
「足に隙間があるな。ん? 奥にナンかいるぞ?」
「くまさん!」
「え? どこどこ?」
枝の生えっぷりは大自然にまかせっきりだったのだろう。
枝と枝の隙間が大きく開いた場所がある。
中は空洞のように開けている。
つっても5mのクマの足からすると正味60cmのスペースしかない。
もぞもぞと。
手足を交互にバタバタしながら踊っているように見える。
盆踊りのように。
それはクマ。ちんまいクマ。
田舎の青年団とか村娘とか、そんな服を着ている。
商品棚に陳列されるようなデフォルメ。
そして。
耳を澄ませば歌なのか掛け声なのか謎の音が聞こえる。
どんじゃらホイッ ドンジャラホイッ どんじゃらホイッ ドンジャラホイッ
5cmくらいのデフォルメクマが怪しい儀式さながらに輪になっていた。
「トランシルヴァニアファミリーみてぇだな。」
スライムさんが終盤でブッ込んできた謎のファミリア。
いったい、その正体は……
詳しくはWEBで!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます