3スラ OH! イッツ アメージング! スライムさん

「すらいむさん。ぱぱとままにいってもいい?」

「あ? いいぜ。」


スライムさん喋るネタバレの件についてなのだが、

ベルの言葉足らずでも、さすがはスライムさん。

ちゃんと会話を繋げる奥ゆかしさ。

あれ?何か「ボク、喋るのバレたら捕まっちゃうよ~』とか気色悪いこと言ってなかったけ?

いいんです。スライムさんは人類など超越した存在。

バレるのも捕まるのも些事なのです。

むしろ捕獲不可能。


「やったー! やったー! やったーわーん!」

「おい、妙な事口走るんじゃねぇ。」

「んにゅ?」


ブルブル、怖いよー怖いよー。検閲怖いよー。

天の声はまだ聞こえてないな、まだ大丈夫、まだ大丈夫、よし!


「どうせなら、パパママをビックリさせようぜ。」

「びっくり? びっくりするの?」

「そうそう。晩飯の時にオレを連れてけ。」

「ばんめしってなーに?」


5歳児、且つ良いとこの育ちでは晩飯と言う言葉は使わないようだ。


「あー、すまん。ばんごはんのことだ。」

「そんでな? オレをテーブルの上に置け。」

「ごはんのときにおいちゃいけないんだよー。」

「綺麗なスライム拾ったからみんな見て、とか言っとけ。」

「わかったー。」

「で、だ。パパママが飯食ってるときにオレが話しかけるんだ。するとどうなると思う?」

「んふー。んふー。んー。わかんないー。」

「フフフ。それはな。食べてるものを口からブーッするんだ!」

「くちからぶーっ? ぶーっ! ぶーっ! ぶーっ、みたい!」

「そうだろう、そうだろう。」


こうしてチョットした悪戯を敢行することを決定する。

大人げないと言うことなかれ。

スライムさんはヒトとは違うのだから。

人間の尺度に当てはめてはイケナイ。


ベルはブーッが何なのかはよく分かっていないが。

口からなんか出る!ってとこが琴線に触れたようだ。


多分、世間一般の夕食時くらいの時間。

コンコンコンコンと4回、ドアをノックする音がする。


「失礼します。お嬢様、ご夕食の支度が整いました。食堂へお越しください。」

「はーい。」


やっぱりか。やっぱりメイドがいるのか。

金持ち喧嘩せず?ウルセー喧嘩買えやコノヤロー!

ベルはスライムさんを抱える。


「あら、お嬢様。それはスライムですか? 綺麗ですね。しかし、お食事の場にお持ちするのは宜しくございません。」

「みてー。きれいなのー。みんなにみせるのー。」


キラキラおめめで訴えかけられれば、仕方ないなぁと許してしまう彼女は悪くない。

皆に見せてからスライムを下げれば良いだけと判断したのだろう。


「仕方ないですね。お見せになられましたら、お下げしますからね。」

「やったー! あいがとう、えま。」

「はいはい。」


ガチガチ中世専制君主制ではないので、メイドはお仕事であって権力やら何らに媚び諂う必要はない。

なので言葉使いもキメるとこ以外はわりと緩めなのだ。たぶんイヤンとか言うぞ。

そして、ベルは舌っ足らずっ子なのだった。今更だがな。


「ごはんー!」


バーンと勢いよく扉を開く。良く叱られないな。


「お嬢様、扉はゆっくり静かにお開き下さいませ。」


あ、叱られた。


「そして、皆さまをお待たせしているときは『おまたせいたしました』と仰るのですよ。」

「はーい。おまたでいたしすまた。」


それはいけない。単語に危険を孕んでいる。カードならツーペアの役が決まってる。

ほら、みんな苦笑い。


「ぱぱ、まま、ねーねー、みてみて! きれいでしょ! すらいむさん!」


スライムを天に掲げる幼児。

照明に照らされ透明な蒼が煌めく。

まるで質の良い宝石のようでいて、目が離せない深い蒼。

穏やかに、そして染み渡る。そんなカンジを演出。

そして、さも当然のように食卓の空きスペースへ鎮座させる。


「やぁ、やぁ、凄いね。スライムだよね、それ。この辺りの魔力脈の影響かな?」

「あら、ホント綺麗ね、宝石のようよ。」

「うわー、すごーい。どこで拾ってきたのベル?」


父、母、姉の順。

両親30代、姉10歳くらいと思ってくれればよろし。


「すらいむさんはすごいんだよ! ぽよんぽよんだよ!」

「んふー♪ つんつんしてもぼふってしないんだよ!」


ご自慢のスライムさんをツンツンしてポヨンポヨンさせる。

透明なスライムは基本ゲル状なので丸い状態は珍しいのだ。

そう。最初から研究所などの要捕獲案件だったのですよ?

もちろん、そんなことくらいスライムさんは


なし崩し的に食事が始まる。

見た目の良い珍しいスライムであったために、テーブルからの退去命令は発令されなかったのである。

この家の食卓は、大きめの丸いテーブルに円になって座るようになっている。

食事も大皿料理から取り皿に取っていくスタイルだ。

なので、テーブルマナーもコース料理などのガチガチ作法はない。

あれだ。肘を付かないとか、迷い箸、刺し箸イクナイってやつと同レベルだ。

唯一、ねぶり箸だけはシュチュエーションで!ってアダルティーな作法がある。


君たちに言っておこう。

幼児はマルチタスクではない。

そしてトコロテン式だ。

新しい情報が入ると古い情報はウニョンと押し出される。

故に、食事に夢中でスライムさんのビックリ計画を忘れていても仕方がないことだ。

それよりもスライムさんの沈黙が気になる。

彼の深淵たる深さを持つ思慮とニワトリ7億8千万羽に匹敵する知性から紡がれる戦略眼は、「まだここではない」と訴えているのであろう。

そこ、ニワトリは3歩で忘れるとか言うんじゃない!

7歩くらいは持つと断言する!

鳥類哀れみの令だ! コケッ!


まったり食後のお茶タイムに突入してしまった。

今日は取れたてイチゴで作られたミルクセーキのようだ。

赤いツブツブ入りだ。間違ってもブツブツと言ってはならない。


スライムさんは女性陣に人気だ。

ツルツルスベスベお肌にあやかるためにペタペタペッタンと触られまくっているのである。


「しかし、丸くなっているスライムなんて、凄く珍しいね。胞子を出す兆候もないし、これが通常のようだね。」


パパンが分析っぽい台詞をはき、みなの注目を集める。

そこでグイーとミルクセーキ。

他人が飲み物を飲むとついつい自分も飲んでしまう自然現象が発生した。

みんなでグイーと。


「ぷるんぷるん ボク、わるいスライムじゃないよ。」


縦にミョーンと伸びる演出付きだ。

この絶妙のタイミングはスライム界でも、このスライムさんあり、と呼ばれるほどのスライムさんならではであろう。


「ブフォッ」

「ブパッ」

「グェヘッ、ゴホッゴホッ」

「すらいむさんはよいすらいむさんだよ。」


父、母、姉、妹の順。

姉はどうやら器官に入ったようだ。

娘さんが立ててはいけない音を出している。


「アイヤ、シャ、シャベッター!!」


誰だオマエ。あ、パパンですか、そーですか。


「な、な、え? スライム? え? え?」


ママン、プチパニック。先ほどの噴出でナイス虹でした!


「ゲヘッ、ガホッゴホッ」


姉、無理スンナ。


「あははー、みんなすごいへーん!」


ベルさん、この惨状でマイペース過ぎです。


「おー、おまえら落ち着つけ?」


皆の視線がスライムさんへ集中する。

黙っていても注目を浴び、言葉を発せば民衆が崇める王の如く威風堂々たる姿はスライムさんならではだ。


「オレの名は『スライムさん』だ。」

「スライム、で止めるなよ。ちゃんと『さん』くれろや。」

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