舞台袖もまた舞台
「ここにいたんですか」
カゴウが控室の壁に寄りかかり、一人物思いにふけっているのを見つけた。いつもならメンバー一人ひとりに戦果を聞いて回っては労いの言葉をかけているが、今日は行わないようだ。
「今日はみなのところに行ってやらないのですか?」
私が聞くと彼は小さく笑い、語りかけるような声で喋った。
「今日は何か得るものがあったらしい。今行って割って入る必要もないだろう。そうだろう?」
「えぇ、そうですね」
私は彼の隣に立ち、壁の向こうで今日の喜びを語り合う面々の顔を思い浮かべた。今日は彼らにとって忘れられない日であり、大きな成長のきっかけとなるだろう。それには時として誰かの後押しが必要にもなる。それをこの人はよく知っている。
「あの手際はさすがでした。お見事です」
「まぁな、オレにかかればどんな獲物も手の平の駒よ」
「そうではなくて!」
「あ?じゃあそれ以外に何があるってんだよ・・・?」
はぁ、全くこの人は。
「ルーアのことですよ、あなたの言葉がなければ最悪武器を捨ててたかもしれない。そのことを言ってるんですよ」
私の言葉を聞いてもなお、彼は緩めた表情を変えようともしなかった。
「あれはオレの功績じゃねぇさ、心配してわざわざ相談しにきたあんたのおかげだ。そうだろ?」
「はぁ、なら私だって一人では答えを導き出せなかった。誰のおかげでもない、ということでいいですか?」
「あぁ、そういうものだよ」
バタン!?
「あ!?なんだ二人ともここにいたんだ。なにこそこそ隠れてんの、みんな待ってるよ」
「あぁ、オルフェ。今日はやけに調子がいいな。なにか嬉しいことでもあったか?」
「まぁねぇ、カゴウさんも早く来なよ。ナッキングも聞きたいでしょ?」
私は何も言っていないが、彼女がそんなことを気にするような子ではないことは分かっている。だから今日はとことん付き合ってやろう。その心が満たされるまで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます