ルーア

 あぁぁぁぁ!?やっちゃった・・・・どうしよう。

 わたしは後悔と恥ずかしさで丸く縮こまっていた。こんなはずじゃなかったのに、ちょっと様子を見たらそれでやめようと思ってたのに。

 「わたしの・・・ばか・・」


 光を抜けた先でいきなりほかの狩人さんと出くわした時には、危うく銃弾を放つところだった。それはわたしが出くわした狩人さんも同じだったみたいで、首元に迫った銃口にはヒヤッとさせられた。

 「あぁ、すまない。ライバルとは言え女性に銃口を向けるのは恥ずべき行為だった。どうか許して欲しい」

 そう言って深々と頭を下げる狩人さん。同じ女の人なのにわたしのことを尊重する態度にちょっと気持ちが動くのを感じた。

 カッコイイなぁ、わたしもこんな風に。

 そんなわたしに軽く頭を下げると、女性の狩人さんは背中を向けて歩み去ろうとする。わたしは挨拶も碌に出来ていないことに気付いて、その場で声を飛ばした。

 「あの!えっと、ありがとうございました!」

 一体なにに対する感謝なのか、言った本人ですら分からないのに、あの狩人さんは右手をあげてわたしの言葉に返事をしてくれた。それがまたカッコよくて、わたしは溢れ出した感情に動かされるみたいに走り出していた。頭の中にはあの狩人さんみたいに銃を構えて、決めポーズをとる姿を想像するとわたしの顔は真っ赤に染まりあがる。

 「フッ、こんなのわたしの相手じゃないよ。なんちゃって!?」

 そのときのわたしは完全に上機嫌だった。目の前に群がる獲物を狙う目がもう一つあることに気がつかないくらいに。

 「わたしの攻撃に耐えられるかな・・・?」

 腰のホルスターから特製の二丁拳銃を抜き取り構える。

 カッコよく決めちゃうよ。撃鉄を引いた瞬間、わたしの中でスイッチが切り替わる音がした。


 それからナッキングさんの狩りの邪魔をしたうえに嫌なところを見られたわたしは、狩りもしないで太い枝のうえでうずくまっていた。もう狩りなんてできないかもしれない、そんなことを考えていた。

 自分の部屋に閉じこもっているみたいに戦場の音が遠のいていく。もうなにも見たくないし、聞きたくもない。すべてから自分を切り離そうとした。

 「ザーザー・・・あーあー、こちらカゴウだ。ルーア、聞こえてるか?」

 耳元の雑音からカゴウさんの声が聞こえた。わたしは条件反射でその声に反応する。

 「は、はい!?こちらルーア!聞こえてます!?」

 「おぉルーア、よかったよかった。無線を外したりしてたらどうしようかと心配してたんだ。どうだ、調子はいいか?」

 「調子は、まぁまぁですかね・・・」

 嘘でもいいから「絶好調です」なんて言えれば良かったけど、今のわたしにはそれをする余裕がなかった。もしくはもう諦めていたのかもしれない。

 「そうか、ならちょっとばかしオレの話に付き合ってくれねぇか?」

 「え?話ですか・・・?」

 なんだろう、カゴウさんが狩りの最中にこんなことするなんて聞いたことない。ほんとは一人になりたいと思ってたけど、もう少しだけこの声の響きに身を任せることにした。

 「それで話ってなんですか?」

 「おう、聞いてくれるのか?ありがとよ、それじゃあつまんねぇかもしれねぇが最後まで聞いてくれよな」

 そういってカゴウさんは咳払いする。

 「ルーアももう戦場の空気には慣れた頃だろう。戦場ってのは面白いだろ、みんなそれぞれに違った武器と戦いやりかたで日々獲物を狩ろうとしてる。ほんとにスゲーところだよ、ここは」

 「そう・・ですね」

 「オレはこれまでにもスゲー奴らを何人も見てきた、自分の中に決めた獲物を仕留めることにだけ特化して鍛え上げていく奴や、反対に自由気ままで思い付いたことをそのまま形にする奴もいる。

 ナッキングさんのことかな。それと、もう一人はネイルのことだと思う。

 「それだけじゃねぇ、独自の発想で周囲から獲物を引き寄せる奴、そしてそいつらを騙すテクニックを隠し持った奴。いろんな奴がいる」

 これはウーバとオルフェの二人かな。みんなすごいよね。

 「そして、目にもとまらぬ速射で、わかい獲物を狩りつくす奴。それもキュートにな」

 そう、それがわたし。みんながわたしに抱いているであろうイメージ。ほんとはカッコよく狩りをしたいのに、なかなかそれを表に出せないでいる。そうしてみんなの思う狩りを続ければ続けるほど、わたしは固められてしまう。イメージという殻に閉じ込められて、すごく苦しい。

 「だがな、勘違いしちゃあいけないことがある」

 「なんですか・・・?」

 「戦場での戦いやりかたなんてのは、そいつの中身を写すかもしれないが一面に過ぎない。戦場で冷酷になれる奴が日常でも同じとは限らないし、どれだけ優しい笑顔にも隠された闇があったりするもんだ」

 あれ、なんだろうこの話。

 「ルーア、お前がどんな戦いやりかたを見せたとしてもお前を受け入れてくれる場所があることを、人がいるってことを忘れるな。それから、」

 まるでわたしを慰めてくれているような感じがする。

 「時間にはちゃんと帰ってこいよ?みんなが待ってるからな」

 そっか、それでいいんだよね。わたしのやりたいようにやっても、いいんだよね!

 わたしは赤くなった目元を乱暴に拭いて立ち上がった。そのとき頭上に生えた細い枝に頭をぶつけっちゃって「イタッ!?」と声を上げてしまった。それを聞いたカゴウさんは焦った様子でこっちの様子を伺った。

 「どうした!?足滑らせたのか?」 

 「いえ、大丈夫です。それよりもカゴウさん!」

 「おう・・・どうした?」

 「わたしもうちょっとだけ狩り続けてもいいですか!」

 無線の向こうから小さく笑う声が聞こえた。

 「よし、行ってこい!今度はお前のやりたいように、好き勝手暴れちまえ!」

 「はい!」

 わたしは細い枝先へと助走をつけて走り出した。そして枝先でジャンプすると一気に目の前が開け、真下に獲物を確認した。さっきまでカゴウさんの話を聞いている間に、目の端に影を捉えていたおかげだ。わたしはそのまま獲物を狙い撃つ体勢に入る。体を一回転させる間に獲物の周囲を囲い込むように左右とも6発ずつ、計12発打ち動きを止める。通常の拳銃は6発装填でもう弾切れを起こすが、わたしの特製拳銃はひと味違う。引き下がった撃鉄を押し上げると、グリップに内蔵されたマガジンから更に6発の弾が装填される。いわば見た目はリボルバー、でも中身はリボルバーとピストルのハイブリッドという構造になっている。これで間を置かずに更に12発打ち込むことができる。

 太陽の光を背中に浴びながら、わたしは決め台詞で戦闘の幕を切った。

 「ワイルドに決めちゃうよ!」

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