第3話 “シニガミ”
「やっと病院に着いたね」
「さっきからうるさいわね! 私はお母さんとお父さんが事故に巻き込まれたと聞いて、頭の中が混乱してるんだから……」
「少しでも気がまぎれるように話し掛けてるのに、ミカちゃんはずっとボクのことを無視するんだから」
「この状況で冷静に話なんて聞けるわけないでしょ!」
「あっ、そこの病室に両親が居るよ。医者や看護師は居ないみたいだね。どうして居ないかっていう細かいことは気にしない。こっちの方が都合が良いからね」
「何よ、都合が良いって。ここの病室だね。お母さん! お父さん!」
「意識が無くてベッドで寝ているね」
「目を覚ましてよ……。お母さんとお父さんが居なくなったら私はこれからどうすればいいの……?」
「追突してきた相手は飲酒運転だったんだって。それで事故に巻き込まれるなんて本当に最悪だよね」
「この時代になってもお酒を飲んで運転するなんてバカなんじゃないの! どうして何も悪くない私のお母さんとお父さんが……」
「ほら、人生に絶望することが起こったでしょ」
「うるさいわね! それ以上言ったらマジでぶっ飛ばすから!」
「あぁボクの言葉が悪かったね。ごめんね。でも、ボクが居るからお母さんだけは助けられるよ」
「どういうこと? お母さんだけ? じゃあお父さんは?」
「お父さんは助からないよ」
「何を言ってんの? お父さんも助けてよ。あんた天使なんでしょ!」
「天使でも無理なことは出来ないよ。ほら、死神が居るのが見える?」
「えっ? 死神?」
「ミカちゃんはボクが見えるから、死神も見えるようになっているはずだよ。ほら、お母さんの足元に死神が居るし、お父さんの枕元に死神が居るでしょ」
「キャー! 私、死神が見えるようになっちゃった……」
「足元に居る死神は呪文を唱えれば追い払えるけど、枕元に居る死神は追い払えないんだよね」
「思い出した! 呪文をお父さんに教えてもらったことがある。でも、それじゃお母さんは助かってもお父さんは助けられないじゃん」
「だからさっきから、ボクはそう言ってるでしょ」
「あんた天使なんだから何とかしなさいよ!」
「ちょっとミカちゃん落ち着いてよ」
「あっ! 良いことを思い付いた!」
「ミカちゃんどうしたの?」
「お父さんのベッドを急いでクルッと反対にすればいいんじゃない? そうすれば死神は枕元じゃなくて足元に来るはず!」
「いやいや、そんなうまいこといかないでしょ」
「私やってみる! このまま何もしないままだと後悔するから。それに」
「それに?」
「もしお父さんが布団で寝ていたら私1人では動かせないけど、この病院のベッドだったらベッドの足にキャスターが付いてるから急いでクルッと反対に出来る!」
「なるほど。ミカちゃんよく気がついたね」
「まずは、お母さんの死神から追い払う」
「ミカちゃんがんばれー!」
「アジャラカモクレン、イキテイレバナントカナルヨ、テケレッツノパー!」
『ギャー!』
「キャー! 死神が喋ったー!」
「まぁ、天使のボクが喋るぐらいだから死神も喋るよ」
「ビックリしたけど、これでお母さんの死神は追い払った。あとはお父さんの死神を追い払えばお父さんも助けられる」
『ワシを無理矢理に追い払うなよ』
「キャー! こっちの死神が喋ったー!」
『そんなことをしていいと思っているのか?』
「 (死神に言われて手が震えるほど恐いけど) 私がお父さんのことを助けるんだから!」
『もしワシを追い払ったらお前を呪ってやるぞ』
「ミカちゃん本当にいいの? 死神がミカちゃんを呪うって言ってるよ」
「う、うるさいわね! 死神だろうが誰に何を言われても、それでも私はお父さんを助けたい!」
「ミカちゃんカッコイイ!」
「いくよ。ベッドを急いでクルッと反対にして、よし今だ!」
「ミカちゃんがんばれー!」
「アジャラカモクレン、イマヲタノシクイキテヤル、テケレッツノパー!」
『ギャー! 覚えてろよ!』
「私は、どんな困難や絶望を感じることが起きたとしても最後の最後まで絶対に諦めないから!」
「これでミカちゃんのお母さんとお父さんは助かったけど、死神を敵に回して本当に大丈夫? どんなことをされるかわからないよ」
「その時はその時よ。また考えるから。それに」
「それに?」
「私には天使が居てくれるから大丈夫。いざっていう時は私を助けてくれるでしょ?」
「なんでボクが?」
「ねっ、天使なんだから助けてくれるでしょ?」
「わ、わかったよ。でも、いざっていう時だけだからね」
それから数年が経ちました。
ミカは結婚して、ケンジロウとの子どもを妊娠しました。そこへ、ミカを呪うと言っていた死神が訪れたのです。
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