第6話 雨どい

 こんなにうなされた。


 わたしはアパートの窓辺に吊るされていた。ふらふらと揺れて、端に纏められているカーテンに触れては離れ、離れては触れを繰り返している。

 わたしはてるてる坊主になっていたのだ。

 自分では自由に動けないので、風に身をまかせて揺れ動き、部屋のなかを見たり、窓の外を眺めたりする。いわば番犬のような見張りもする。


 もちろん仕事はそれだけではない。わたしは雨が降らないようにしなくてはならない。これが本職なのだ。これは見張りなんかよりはるかに難しい。


 雨の前には風が吹くから、私は激しく揺れ始める。くるくる回る。間もなく雨が降りますよ、と告げるだけなら、それこそ犬でも風鈴でもできる。わたしは予想される雨を止めなければならないのだ。しかしいっこうに止め方が分からない。

 だからいつも、わたしは大きく揺れて、雨が降りませんようにと祈るのだ。


 ある日のこと、いまにも雨が降りそうな雲行きに、わたしは身構え、風に吹かれて祈っていたら、洗濯物が飛んできて、わたしに覆い被さったのである。

「前が見えなくなりました」

 洗濯物の重さで、わたしの体も重くなり動きが鈍る。

「雨が降り出してしまいます」

 わたしは洗濯物に動きを止められたまま、そう呟いた。


 洗濯物は生乾きで重い。

「邪魔です」

「邪魔ですか?」

 洗濯物はそう答えただけで、わたしの上から動こうともしない。

「どいて下さい」

「無理です。わたしは乾かなければなりません。下に落ちたら乾きません」


 ポツポツと雨が降り出したようだ。見えないが、そう思う。

「降ってきたようですよ」

「またわたしは洗濯されなければなりませんか」

「そうなるでしょう」


 洗濯物は体いっぱいに力を入れた。それと同時に落ちていった。

「やっといなくなりました」

と言った瞬間、わたしの体は宙に舞い、屋根の雨どいにスッポリと入り込んだ。


 激しくなった雨が、雨どいを勢いよく流れる。わたしはわざわざ流れやすく傾く雨どいをくるくる回まわりながら流れた。


 地面に落ち雨水に浸かって、洗う前より汚れているだろう洗濯物が、安心して雨に打たれていた。


 そんな夢にうなされた。



(つづく)

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