第4話 狭い生活
こんなにうなされた。
私は八畳ほどの一部屋のアパートに住んでいる。そこで気づいたのだが、部屋を囲む四方の壁が徐々に、部屋の真ん中に向って移動しているのだ。つまりは毎秒、毎秒少しずつ部屋が狭くなっているということだ。
はじめはさほど気にしなかった。壁の移動は遅々としており、生活の障害になるということもなかった。しかしこの調子だと何時かは四面の壁が各々、接触し重なりあい、部屋はなくなるだろうことは予想できた。
しかし私の気持ちにはまだ余裕があった。
四方の壁が移動してくるスピードが早くなったと感じ始めたのは、それから数日してからだ。実際、スピードは速くも遅くもなっていない。同じ速度で部屋の中心に向って動いているのだが、部屋の狭さが気になり出すと、焦りからか、壁のスピードが速くなっていると錯覚するようだ。
仕事に出かけている間も、壁は移動を続けている。仕事中、それが気になって仕方がないのだ。ミスも増えた。
「君は、今日でクビだね。部屋のことを心配して、失敗ばかりしているからね」
「はい、分かりました」
と、私は主任の言葉に納得し、工場を出た。
新しい仕事を探さなければ生活ができない。しかし部屋のことが気になって仕方がない。部屋がこれ以上狭くなると生活が出来ないのだ。
急いでアパートに戻った。
部屋はすでに、体を斜にしなければ入れないほど狭くなっていた。私は横向きになり、体を部屋に押し込んだ。しかし座れないのだ。横にもなれない。立ったまま、というか挟まったままだ。
しかし他に行くところもないので、部屋に挟まり、スマホで仕事を探した。スマホの画面が顔にくっついて見にくいし、スマホ自体が小さくなっていることにも気づいた。
「みんな小さく、狭くなっていくなぁ」
私はコンビニで買ってきたソバ、これも以前と比べたら小さくなっていたが、そのソバをなんとか口に入れながら嘆息した。
こんなにみんな小さく、狭くなって暮らすのは大変だ。道も電車内のスペースも狭くなっているのだ。
こういう人が最近、増えてきたと聞いた。
「みんな、大変だろうなぁ」
そんな感じで数ヶ月過ごした。もう部屋は無い。仕事もまだ無い。街も人も狭く、小さくなっている。みんなが小人に見えるほどだ。
そういうふうにして街中に放り出された人たちは沢山いる。みんな困っている。普通の人たちは皆、私たちから見ると小さくなった。道行く小さい人に「邪魔だ、どけ」と言われる。仕方がないので道を空けようとするが、どうにもこちらの体が大きくなりすぎて、上手く道を譲れない。
「すいません」
と、頭を下げる。
そのとき、私と同じ境遇の人が溜め息をついた。小さい人も狭い街も一気に吹き飛んでいった。全部吹き飛んでいってしまったのだ。
小さく狭いものが全部なくなったので、また僕らは普通に戻った。
そんな夢にうなされた。
(つづく)
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