第3話 龍星
こんなにうなされた。
私はいつもどおり、布団で仰向けに寝ていた。ふと足下の違和感に目を覚ますと、無数の蛇が、私の足のくるぶし辺りで鎌首を上げている。徐々に膝、股の方へと向ってくる。何十匹もの蛇がヌメヌメと絡み合いながら、体を潤ませ、私の胸まで迫ってくるようだった。
私は蛇を払いのけようと、足を動かそうとするのだが、まったく動かない。手も動かない。体を反転させることも、上体を持ち上げることもかなわない。金縛りというやつだったろう。
声を挙げようにもかすれて出ないのだ。
間もなくこの蛇たちは、私の顔を這い回ることになるだろう。
そのとき突然、私の体が実に重々しく、ゆっくりと宙に浮いた。ほんの五十センチ程度だ。固まったまま浮いたのだった。
蛇たちは数を増していたが、私の体から滑り落ち、布団の上で鎌首を上げながら私を目がけて、数千の舌を伸ばしては引っ込め、引っ込めては伸ばし、ご馳走を前にして、舌なめずりをするように待ち構えている。
「布団に落ちたら、奴らに何をされるか分かったものじゃない。大変だ。浮いてなきゃ」
私は必死に体をくねらせ、宙にとどまった。体が空中で反転した。蛇たちは正面で笑って私を狙っている。また反転した。無数の舌が背中を這う。
そのとき窓から満月が見えた。月に映る私の姿が、赤々とした蛇に変わっていた。
「龍神だ」
そう思った瞬間、天井が大きく開き、夜空に輝く数限りない星が見えた。
「龍神となったいま、私はあの星を集めるべきではないか」
「早くしないと、月が消えてしまう」
と、急いで星に手を伸ばそうとするが、とどかない。星は一つひとつ静かに消えてゆく。東の空が染まり始める。星がまた消える。月も薄くなってゆく。龍神の姿も霞んでゆく。
「もうダメだ」
朝が近づいているのだ、そして蛇も近づいていたのだ。
私は汗だくになり、一匹の蛇を掴んだ。私は擦れ声を挙げた。すると無数の蛇たちはとぐろを巻き、動きを止め静かになっていった。
蛇は次々と光を放ち、一匹一匹、明けの空へと泣きながら昇ってゆく。早速、今晩の星になるための準備に取りかかり、次の龍神を探し始めた。
そんな夢にうなされた。
(つづく)
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