第2話 小鳥

 こんなにうなされた。


 私は一人で、薄暗い森を、とぼとぼと歩いていた。小雨が降る、冷たい道である。かなり長くどこまでも歩いた。薄日が差し始めたと思ったら、また雨が落ちてくる。そんな森であり、道であった。


 一年も二年も、森を彷徨っていたのだ。まれにすれ違う人々は、ときに忙しく、ときに走り去る。そんな道を一人、歩いた。


 二年も半ばを過ぎた頃、微かな鳥の鳴き声を聞いた。また通り過ぎて行くだけのスズメか何かだろうと、ふと鳴き声のする方を見た。

 小鳥が、それはそれは細い枝に捉まり、私を見て鳴いていた。笑顔を浮かべて鳴いているのだった。


 とても綺麗な声で、歌うように私に鳴き声を聞かせる。私はその小鳥をしばらく眺めていた。スズメより少し小さな、美しい小鳥のようだ。とても可愛い姿で枝に捉まり鳴いていた。


 しばらくして飛んで行ってしまったが、私の心に小鳥の声と姿は残っていた。いつまでも残っていた。

 私はまた、森の中を歩き始めたが以来、空は晴れ渡り、森は若葉で満たされた。その小鳥がまたやって来るのを待つようになった。


 たまに聞こえる鳥の声に、耳を傾ける。あの小鳥ではないか。羽ばたく音に目を懲らす。あの鳥ではない。あの可憐な美しい鳥ではない。偶然でも逢えないものかと、一度目にした場所に戻ったり、また別の場所で探したりした。青く輝く大空の下、心地よい風が吹く森の中、私は小鳥ばかりを探した。


 すると、ある雷の日だ、あの小鳥がまたやって来た。私の近くで雨宿りを始めたのだ。小鳥と話をした。私が何を話したかは覚えていないが、無性に心がざわめいたこと。照れてばかりいたことを覚えている。


 小鳥はそれきり姿を見せなくなった。青い空を綺麗に羽ばたき飛んでいったことを覚えている。


 そんな夢にうなされた。



(つづく)

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