第27話 今さら妻の事を知る
毎日祈っても天使が俺の前に現れることはない。現れるとしても直接と言うより例えば夢の中なのかも知れないが。それに仮に話す機会があったとして本当の事を教えてくれるかは分からないし奇跡を起こしてくれるかも分からない。一応咲子ちゃんにも聞いてみた。彼女の経験上やり直し後の人生において天使と対面したことはないらしい。
今の俺には選択肢が五つある。別に難しい話じゃない。綾香ちゃんか咲子ちゃんかスーミかそれ以外の誰かか。あるいは一生誰とも添い遂げることなく生きるか。冷静に考えるとスーミだけはあり得ない。選択してはいけない。最も失敗する可能性が高い。……ただし現実は。きいちゃんの事をふっ切るためにスーミと会うことにした筈なのに気付けばまた会う約束をしてしまっている。自分でも分かる。馬鹿な行動だ。しかしきいちゃんともう一度会えるかもしれないというゼロに等しい可能性に触れた途端に確かに俺の生きる力みたいな物が復活したし不眠症も一気に解消された。間も無く夏休みも終わる所だったのでそれは非常に助かったのだが結局自分がどうすれば良いかは分からないままだ。
「ねぇ前田君、何だか出会ったときより顔色良くなってない?隈が無くなってるよね」
どうすれば良いか分からないとか言いながら綾香ちゃんに内緒でスーミとデート。罪悪感?もちろんある。
「っていうか結構連続して遊んでるけど、彼女さん大丈夫なの?私は恋愛に寛容だけど、別に人様の関係を壊したい訳じゃないんだよね」
「スーミの所は?彼氏はどんな感じなの?」
「うちの所は普通だよ」
「普通って?」
「まぁ要するに、話に聞いてる前田君の彼女ほど真剣じゃないってこと。お互いにね。多分、こうして前田君と会ってる事がバレたとしても、別れて終わり」
「少なくとも、どちらかが相手を好きだから付き合い始めたんじゃないの?」
「それはもちろんそうよ?なんならコクったの私からだし。ただ、漫画やドラマで見るようなさ、トキメキ?って言うのかな。そういうのは感じたことない。ぶっちゃけ恋愛感情自体感じたことないもの」
……俺がそうであったようにスーミもそうだったのだ。多分俺と付き合っていたときも結婚をしてからもずっと。俺達は似た者同士だったのだ。
夏休みは間も無く終わるが外はまだ暑い。俺達は大型デパートの中を当てもなく彷徨う。
「前田君ってさ、童貞なの?」
「そうだよ。少なくとも今世ではね」
「プフフ。またその話?前世では私と結婚してたんでしょ?私ってどうだったの?」
「セックスに関しては好きでも嫌いでもなかったかな。決して尽くすタイプじゃなかったね。子供が生まれて少ししてからしなくなった。求められないのは、楽といえば楽だったなぁ」
……それは普通の事だったのだろうか。子育てに不満はあったが別に不仲という程ではなかったように思う。しかし例えば自分の両親を見た時に彼らは仲が悪いが俺は3兄弟だ。あまり考えたい事ではないが俺とスーミよりはセックスしていたのだろう。そしてやり直し前の人生において父親の浮気がバレた後でも離婚していない。
「……前田君、本当に凄いわね。自分でもそうなりそうな気がするもの。真面目に占い師とか向いてるんじゃない?」
「スーミは処女なの?」
「気になる?なっちゃう?さて、私はどっちでしょうか。どっちなら嬉しい?」
「あー。うん。一応処女の方が嬉しいけど、これまでのやり取りからすればその可能性は低いんだろうね。経験人数二人って所かな」
「……前田君すごっ。ここまで来ると流石に引くよ?」
「いや、今のは当てずっぽうだけど……」
「それはそれで酷くない?」
……当たりかよ!俺が引くわ!聞いた事なかったし適当に言っただけなのに!っていうか中学二年で経験人数二人ってヤバくね?不良グループじゃん。
「まぁ、話は少し戻ってさ。何が言いたかったというとね、別に恋愛感情なんかなくてもエッチ出来るしなんなら気持ちいのね。それじゃ駄目なのかな」
「駄目じゃないけど、嫁に欲しいとは思わないな。性病とか怖いし」
「ちゃんと避妊すれば大丈夫だよ。そうじゃなきゃ、世の中性病で溢れ返ってる筈だもの。いわゆる水商売系?の仕事も成り立たないと思う」
「性病は置いておくとしても、それじゃあ、スーミは幸せになれないよ。もっとこう、普通に恋とかしてさ。愛を知った方が良い」
「そんな事言われても、分からないんだもん。それとも、前田君が教えてくれるの?」
「いや。実は俺も分からないんだ」
「何でやねん!面白いなもう!……まぁ、前田君が誰かの事を本当に好きになったりと
か、あんまり想像出来ないなぁ」
「失礼な。そんな事ないと断言も出来ないけど」
「歩くの疲れてきたね。またカラオケ行っちゃう?」
「行く行く」
「乗ってるんだけどノリ悪っ!」
……可もなく不可もなく。決断を先送りにして。ただダラダラとスーミと過ごす。それはとても心地が良かった。俺達は似た者同士なのだ。それを理解した上で俺が歩み寄るべきだった。
全部、俺が悪い。妻の不出来も含めて全て俺が。
眠れない夜に、何度頭をよぎっただろう。しかしスーミの事を本当に知る内に分かってくる。
……相手に責任を求めない。それは一見素晴らしいことだ。責任感がある。確かにそうだ。だが一方で。
それは相手の事を無視した行動なのだ。一人で完結させようとしているだけ。楽な道だ。相手を変えるよりも自分を変える方が遥かに容易なのだから。
……ああ。なんで、もっと早く。どうしようもなくなる前に気付けなかったんだろう。
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