第9話 イジメられっ子とデートしてみる
「おはよう、綾香ちゃん。俺は今着いた所だから気にしないで」
まぁ実際待ち合わせ場所に先にいたのは綾香ちゃんの方だったからむしろ俺が気にしろ。一応五分前に着いたんだけどね。っていうか電車同じなんだから一本早いやつに乗らないと先に着けないんですけど。
「……」
「止めて?何言ってんだコイツみたいな顔しないで?冗談だよ冗談。ハハッ!(裏声)」
「あ、いえ。本当に来てくれたんだなって思って。感動してました」
感動しなくて良いから笑って?裏声、かなり似てたでしょう?
「そりゃあ俺から誘ったんだから当然で、むしろ心配していたのは俺の方だ。ぶっちゃけかなり強引でキモい誘い方だったなって反省してたところ」
「そんな事ないです。正吾君のお陰で友達も出来ました。私の親、いわゆる転勤族で、3年に1回くらい引っ越ししてて、小学生の途中からあんまり友達いたことなかったから」
「……それは良かった。そしたらもう俺の目的は達成したようなものだけど、折角だから予定通りランチでも食べに行こうか」
色々考えてたけど当日の俺は焼肉を食べたい気分だった。働き始めてから気付いたけど俺の地元では結構リーズナブルにランチをやっているお店が多いのだ。
……と思ったけど予定変更。綾香ちゃんの着ている服はなんとなく高そうで焼肉の匂いを付けたらダメな感じがする。さすが転勤族。
「何か食べたいものある?」
「いえ、私は何でも大丈夫です。正吾君のおすすめのところが良いです」
確かに。町を案内するという名目で来ているのだからここは俺が決めるべきだな。どうしようかな。うーん、うん。インドカレーにしよう。
「じゃあ、インドカレーでも食べようか。今日は綾香ちゃんの転校祝いってことで奢るから、好きなもの頼みなさい」
「いえいえいえいえ!とんでもないです!こんなに良くしてもらってその上奢って貰えません!なんなら私が出しますから!今日のお礼です!」
「まぁまぁ、そう言わずに。可愛い女の子に奢るのが俺の数少ない趣味なんだ」
そんなわけないけど、もうゲームとかにお金を使う感じでもないからお小遣いの使い道がないっちゃない。あえて言うなら先投資って感じ。
「…………!?」
あわわわわって感じで口をパクパクさせて狼狽える綾香ちゃん。女の子は誰もが王子様を求めているのだ。それがまだろくに経験もない中学生ならなおさらで要するにチョロい。いや、別に騙そうとかそんな気は一切ないんですけど。
真っ赤になって喋らなくなってしまった彼女の手を引いて目的地に誘導する俺。彼女が落ち着くまでしばらく無言で歩き続ける俺達。もう少しで到着だなって所で彼女が言う。
「……何で正吾君は私を助けてくれたんですか?」
一度、君の暗い人生を見てるからとは流石に言えないので俺は適当にはぐらかす。
「誰かを助けるのに理由がいるかい?」
「ファイナルファンタジーですか?」
……恥ずかしっ!しかし俺はこの程度じゃあ狼狽えないぜ?なにせアラサーだからな。
「結構、ゲームとかするの?」
「ああ、いえ。父がやってるのを横で見てます。印象的な台詞だったから覚えていました」
綾香ちゃんのお父さんとはうまい酒が飲めそうだ。
「……今まで誰かが助けてくれたりとか無かったので。あまり良い思い出もないですし。すみません。正直、何か裏があるんじゃないかって。だから本当はここに来るのも怖かったんです。嫌な想像をしてしまう。例えば正吾君は罰ゲームか何かで私を誘ったんじゃないかって。浮かれている私を見て、皆が笑うんです」
……。ああ、この子は、前の学校でもイジメられてたのか。少し我慢すれば転勤でリセットになるから、親にも言えずにいたのかもしれない。
「まぁ、疑って掛かる方が正解な気もするね。仮に本当に善意だったとしても謝ればすむ話だ。人に優しくできる人間は心に余裕があるから、それくらいじゃ気にしない」
「……」
彼女は見定めるように俺の方を見る。
「ただね、全く裏がないと言えば嘘になる。ギブアンドテイクだよ。この一連の行為は、俺にとってもメリットがあるんだ」
「……それは何ですか?」
彼女の目が絶望の色に染まりかける。
「馬鹿じゃないかと思うかも知れないけど、俺は未来のお嫁さんを探してるんだ。こうやって君と話すことで、同時に俺は綾香ちゃんが嫁候補になりうるかをチェックしてるんだ」
「……あの、え?」
俺の言葉の真意を図りかねているようで彼女は随分困っていた。彼女が復旧する前に目的地のインドカレー屋に着いたので一先ず中に入る。
「さぁ、お好きなメニューを選びたまえ。ただし、ランチメニューからね!」
インドカレーって何故か単品で頼むと割高だよね。
「あ、はい……」
彼女は未だ復旧の見込みが立っていないが頼んでおかないと進まないしお店の人も困るし。俺は既に決めている。パニールパサンダ。チーズとナッツベースの甘めのカレーだ。ナンはガーリックに変更しよう。
彼女は少し悩んでからホウレン草のカレーのセットを注文した。それらが届くまでの間ひたすら沈黙もしんどいものがあるので俺は会話を試みようとするが先に口を開いたのは彼女だった。
「すみません。良く理解してないんですけど、つまり正吾君は私と付き合うために私を助けた、ということで良いんでしょうか」
正確に言えば、助けるついでに一応嫁になりうるかを判断しとくって感じだが余計な事を言う必要もないだろう。
「そうだね。概ねその理解で良いよ」
「そしたら、あの、また分からなくなるんですけど、何でですか?私別に可愛くないし、根暗だし、正吾君と釣り合っているようにはとても思えません」
「最終的にそれを決めるのは俺だし、俺だって君に釣り合ってるかは分からない。釣り合いどうのこうので言えば、そもそも人間に大した違いなんてない。一部の天才様から見たら、俺も君も等しく毛虫みたいなものだよ。それでも理由がないと納得できないならそうだね、綾香ちゃんの大きな胸は十分に魅力的だと思う」
俺は大真面目な顔で宣言する。話の流れから冗談じゃないと判断したのか、彼女も真剣な顔で確認してくる。
「胸、ですか?」
うん。ぶっちゃけ確認しなくても良くない?
「そう。胸だ。知らないかもしれないけど、男子の9割は巨乳の子が好きなんだよ。君のそれは生まれ持った才能だ。素晴らしい」
何か良く分からないけどグラビアのスカウトの如く力説する俺。これ、外見がおっさんのままだったら完全に事案だよね。
「そうですか……。あの。ありがとうございます。自分でも気にしてて、嫌だなって思ってて。その、最近はいやらしい目とかも気になり始めてて。でも、お陰で少し自信が付きました」
……ふぅ。納得してもらえたようで良かった。いや、割りとマジで危なかったと思う。コミュニケーション能力って大事なんだなって思いました。まる。
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