第2話 1/64の出会い

「俺と付き合ってくれないか」


 中学一年生から人生をやり直して約三ヶ月、俺はクラスの女の子に告白した。特に好きだとかそういう感情がある訳じゃないしロリコンでもない。じゃあ、何か。それは単純に前の人生において結婚の重要性を痛感したからだ。そして、自分の要求に見合う子と結婚するには、とにかく数を打つしかない。どう言うことか。例えばだが、相手への要求仕様として容姿、頭の良さ、性格の良さの3つの項目に対して平均以上を求めるとしよう。平均以上と言うことは、各項目に対して50%の確率でそれを満たしている人間がいる事になる。分数で表せば1/2だ。したがって、要求仕様が3つならそれら全てが平均以上である人間は(1/2)^3=1/8の確率で存在する。


「え……?私なんかで良いの?」


 良いの良いの。結婚まで至るかと言われればその可能性は低いと言わざるを得ないが。


 え?1/8の確率だったら割と直ぐに満足できる相手に出会えるんじゃないかって?甘いな~。こっちが1/8の確率の人間を求めるってことは、相手だって俺に1/8を求めるって事だ。今回のお付き合いはOKを貰えたが、断られる事だって当然ある。結婚ならなおさらだろう。つまり、相手が俺の要求を満たしつつ、俺が相手の要求を満たしている確率は、(1/8)^2=1/64ってこと。

 え?それだったら、結婚するまでの期間だけ相手にとって都合の良い自分を演じれば確率は1/8のままじゃないかって?はぁ……。これだから童貞は。共同生活で自分の事だけ考えて上手く行くはずないだろう?どうしたって我慢する事は出てくる。お互いのスペックがお互いの要求を満たしている状態が、一番軋轢が生まれにくいだろう事は自明だ。

 それにしても1/64……。奇跡って程じゃないけど、リアルに考えると難しい。各々がそれぞれの仕様を満たしているかを判断するのに少なく見積もっても半年は掛かるだろう。と言うことは、浮気をしない前提で単純に考えれば、ベストな相手と結婚するには32年の歳月が掛かるのだ。無理ゲーなのだ。

 まぁ確率だから?そりゃ10人目でベストに出会える場合もあるけど、逆に言えば、100人と付き合ったって出会えないこともある。


「良かった~。じゃあさゆちゃん。早速、今日は一緒に帰ろうか。来週どっか行く?」


「うん!どこ行こっか~?」


 とか適当に話しながら、通学の帰路にて俺はさゆちゃんが俺にとってベストな相手かどうかの情報を密かに集めて行く。ちなみに俺が相手に求めたい平均以上は次の3つだ。


①顔

 一般にルックスで言えば、顔に加えてスタイルとかも含まれるだろうが、もう、顔だけで良い。太ってても良い。別に乳もいらん。太ってて貧乳はちょっとキツいが。ぶっちゃけセックスなんかどうせ飽きるから、そういう意味では美人だろうがブスだろうがどうでも良いのだ。それでもある程度の顔を求める理由はただ一つ。子供である。人生のやり直しが始まってしまったのはもうどうしようもないのだが、やはり未練はあって、俺は結構子供の事は可愛かったのだ。今度も可愛く生まれてほしい。


「ねえ、正吾君は、何で私と付き合おうと思ったの?」


「いや、単純に顔が超好みだったんだよね。超可愛い。超タイプ」


「え~?もっと中身とかさぁ」


 とか言いながらも満更ではない様子のさゆちゃん。

 まぁ、正直言えば超ではないけど。それでも顔が一定の基準をクリアしていた事は確かだから嘘ではない。大人になると化粧で誤魔化せちゃうから、付き合う前に素を見ようと思ったらせいぜい高校生くらいまでだよね。っていうか、中身なんて実際に付き合ってみないと分からないし。

 ああ、そうそう、俺が相手に求める要素の説明の途中だったな。続いてはこちらです!


②家事能力

 特に料理。これ、やっぱり大事だと思う。人生のやり直しにあたって前の嫁に関しては特に思うところはないというか、同じ過ちを繰り返す気はまるでない。しかし、あえて褒める点を挙げるなら、料理の腕は良かったのだ。健康的に生きて行く上で自然と栄養バランスを考えながら作れるレベルが望ましい。 

 

「あとなぁ、健康的な感じ?いつもお母さんに美味しい物食べさせてもらってそうな感じがする」


「え~?そんなの分からなくない?あ~、でもうちのお母さんって、野菜とかもやたら国産かどうか気にするんだよねぇ。私はカップ麺とかジャンクな物も好きなんだけど、あんまり食べさせてもらえなくてさぁ」


 良いねぇ。これなら料理の方も期待できそうだ。なんやかんやそう言うのって、やっぱり親の影響受けるからなぁ。国産気にできるって時点で、そこそこ裕福だ。育ちが良いって大事だよね。まともに子育て出来るかとか、そういうことにも響いてくるし。


「いや、良いお母さんだと思うよ。うん本当。さゆちゃんも、そういう風になりたいとかある?」


「うちは共働きだからいつも親も忙しそうにしててさぁ。出来れば私は、子供が出来たら子育てに専念したいなぁって思ってるんだよねぇ。って、付き合ったばっかで気が早いっていうか重いっていうかごめん忘れて!」


 専業主婦志望かぁ。うーん。これは。判断が難しい。やっぱり、そこそこ付き合ってみない事には分からないかぁ。

 ちなみに俺が求める最後の条件はこちらです!


③根性

 ここに来て急に毛色が変わったなと、そう思う人もいると思う。だが、とても大事なのだ。子供が生まれると、女は変わる。少なくとも子育てを乗り越えられるだけのキャパシティが必要というか、要するに根性がないと駄目なのだ。豹変するのだ。そして相手の事を判断する上でこの項目だけは非常に難しい。正確には子供が生まれなければ分からない事を、事前に推測しなければならないのだから。

 難しいよなぁ。例えばだけど、体育会系の部活を乗り切ってるとか、受験戦争を生き抜いて一流大学に入れたとか?そういうことが評価の参考になるだろうか……。これに関しては、もう少し自分の母親とか、彼女の母親とかを良く観察する必要がありそうだ。


「いやいや、今のうちから将来のビジョンを立てておくことは大切だと思うよ。やろうと思えば大人になってからだって道を変えることは出来るかもしれないけど、負荷が大きすぎる。実質中学生の今が最後だよ。それ以降は軌道修正なんて出来ない」


「……はぁ~。正吾君のそういう大人っぽい所良いよねぇ。知ってる?正吾君の事を好きな子、結構多いんだよ?」


 まぁ、中身は30だからな。そりゃあ、本物(?)の中学生に比べたら大人だわな。それにしても良い事聞いた。俺の事を誰が好きかも後で聞いておこう。


 相手のレベルが俺の要望を満足しているかを判断しながら、同時に俺のレベルに相手が満足しているかも確認しなければならないのだ。時間は有限である。


 数は多い程良いし、判定までに掛かる時間も短い程良い。



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