人生やり直した俺は結婚とかいう運ゲーをクリアする

てんこ

第1話 そうして俺は人生をやり直す

「おめでとうございます!これまで真面目に頑張ってきたご褒美として、本来ならこのまま死んでしまう所を、何と!何とですよ!年齢の半分から人生をやり直せる権利をプレゼント致します!オマケに今すぐご契約頂いたお客様には漏れなく、無料でチート能力もお付けします!ごめんなさい、それは嘘です!ウェーイ!」


 ……気付くと俺の目の前には、すげぇテンション高い天使みたいなヤツが通販番組っぽい説明口調で捲し立てていた。一段落付いたのか天使は俺の反応を待ちながら踊っている。いや、なんで踊るの?

 俺は記憶を辿る。確か社用車で取引先の会社に向かう途中、急に飛び出してきた子供を避けて電柱に突っ込んだはず。経費削減のために車は軽自動車だったから耐久性なんてもちろんなくて目の前に迫る電柱を見て死んだわこれ、と思ったのだった。

 天使は相変わらず踊りながらこちらのチラチラとこちらの反応を伺っている。すげぇムカつくけど言ってることは本当なのだろう。何故ならば人ならざる雰囲気が半端ない。具体的には後光でハッキリ顔が見えない。


「ええと。つまり、俺は死んだってことですか?」


「ウェーイ!」


 ウェーイじゃ分かんねぇし人の死でテンション上げんな!


「……ええと。人生やり直すとかは良いんで、素直に生き返らせて貰えませんか?」


 30歳になった所でようやく仕事も楽しくなってきたし妻も子供もいるし子供まだ小さいし。勘弁して本当。


「無理です!」


 何で!?生き返らせる方が簡単そうじゃね!?


「現実の貴方はグチャグチャです!そこから無傷なんて奇跡を人々に見せる訳にはいきませんし!」


「……じゃあ、人生のやり直しを、年齢の半分とかじゃなくて良いから、一週間前くらいにしてもらえませんか?」


「駄目です!」


 駄目ってなんやの……。


「ええと。それは何故?」


「貴方の運命的に、15年以上前からやり直さないとどっちにしても30歳くらいで死ぬからです!」


 ええ……。なにそれ……。


「……一応確認ですが、天使さんの提案を受け入れない場合にはどうなりま」


「すぐに、死にまぁす!」


 そんな、アムロの名言みたいに……。


「とまぁ、ここまでふざけてきましたが、それは貴方にこの提案を後ろ向きに捉えて欲しくないからです。実際、貴方は良くやってきたと思いますよ?自分を周囲の一部とみなして、全体の幸福のために動ける人間はそうはいません。その末路がこれでは、あまりにも報われない。貴方は、もう少し自分勝手に生きても良いと思います」


 ……。やば。なんかうるっと来てるんだけど。そうかな。俺はただ、自分が正しいと思った事をしてきただけなんだけど。でも誰かにそれを褒められたこともなかったなぁ。ああ、つまり、今までずっと自分を殺してたって事なんだろうな……。


「さて、そろそろお時間です。実の所、貴方に選択肢はありません。神の決定は絶対だからです。でも忘れないでください。これはひとえに、貴方の幸せを願っての事です。思う存分、第二の人生をエンジョイしてください」


「……分かりました。正直な所、未練はあります。俺は俺なりに、これまで頑張ってきた。出来ることならそれをなかった事にしたくない。子供の成長だって見たかった。俺が死んだ後でどうやって生きるのかも心配だ……。それでも、道半ばで死ぬよりは、やり直す方が良いと思う」


「その意気です!ご家族の心配はしなくても大丈夫だと思います!奥様は貴方の生命保険額を増やしてますから!7千万円降りますから!今頃ほくそ笑んでいることでしょう!」


 え?そうなの?いや、それはちょっと酷くない?流石にほくそ笑んではなくない?


「それに、何もかもがなかった事になる訳じゃないです。貴方の今の記憶も、経験も、そのままです。チートと言うには頼りないですが、それらを生かせば、きっと幸せに辿り着けるはずです!ウェーイ!」


「うぇーい」


 天使がハイタッチしてくるから仕方なく俺もノリを合わせる。だが彼の言う通りだ。身に起きたことを前向きに考えた方が良い。……いや、天使は絶対ふざけてると思うけど。光の者だから根が陽キャなのかもしれない。


 それがやり直しの合図だったのか、俺の体は徐々に消えていく。それと同時に意識も微睡み、そして俺は……。






 ……見覚えのある天井。懐かしい。実家の匂いがする。体が軽い。疲れもまるでない。鏡を見た訳じゃないが分かる。俺は若返っている。というより、若い自分の中に意識が入り込んだと言うのが正しい所か。ああ、本当に人生をやり直すのか。マジか……。

 起き上がって周りを見る。畳の部屋に布団。両親は既に起きている。隣で弟がまだ寝ている。天使は中学生からと言っていた。確かその頃兄は高校生で兄だけは自分の部屋が与えられていたはず。当時から別にズルいとは思っていなかった。裕福な家庭でないのはこの頃には理解していたし、家もそんなに大きくなかった。子供ながら仕方ないと思っていたのだ。うーむ。天使の言う通りかも。昔から俺は色々と遠慮していた節があるな……。


 起きて居間に行く。今日が何曜日か分からないが、学校がある可能性の方が高いだろうし。というか、天使は年齢の半分と言っていたが俺は今何歳なのだろう。独り立ちしてから新聞の契約はしていなかったが、実家では取っていたはず。それで確認しよう。


「正吾!今日は入学式だから車で送るわ。早く食べて準備しなさい!」


「……」


 ……なるほど。つまり中学1年生からやり直しか。まぁ半端なタイミングでやり直しさせられても困る。確かに今ならどんな道でも進める状態だろう。グッジョブと思うべきなのだろうか。でも、なぁ……。ここからかぁ……。


 ……幸せへの道のりは、中々に長そうだ。


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