管理人さんと演劇を観に行く
日曜日。今日は由佳に招待された演劇を観に行く日だ。もちろん美来も一緒に。
「私、演劇を見るの初めてなのでちょっとドキドキしてます」
「俺も初めて。あんまり演劇を見る機会ってないからね。でも由佳がどんな演技をするのか正直想像できないなあ」
「きっと素敵な演技をすると思いますよ。だって由佳さん、とってもいい人ですし……あ、ここじゃないですか?」
演劇が行われる会場は俺たちの最寄駅から近くにあるホールなので、割とすぐついた。とてもでかいホールってわけじゃないけど、それでもそれなりに人が集まる広さだ。それに、結構俺たちと同じ観客と思われし人がいる。
「ここだね。それにしても結構人いるなあ。こんな人まで演技するとかすげえ……っいて! 誰だ……あ」
会場入り口前で、そんなことを思っていると、ふと後ろから背中を叩かれる。誰かと思って後ろを見てみるとそこには……。
「やほーお二人さん。来てくれてありがと。にしても、仲良く二人で手を繋いでラブラブだねえ」
「ほんと、焼いちゃいますよー二人を見てると」
「ゆ、由佳! そ、それに宮川さんも!?」
そこにいたのは由佳と宮川さんだった。由佳はなんとなくそうだろうと思っていたけど、宮川さんは予想外だった。あ!
「も、もしかして演劇のオーディションってこれのこと?」
「そう! ちなみに私もちょこっと出るんだー。先生、ちゃんと私のことも見てね」
「なるほどなあ……。にしても二人仲いいね。俺のことも由佳から聞いたの?」
「うん、そうだよ。それに私と由佳さんシナジー会うし、それにすっごい珍しい共通点あるからね」
「共通点?」
「先生には教えないよーだ」
珍しい共通点ってなんなんだ? でも二人が仲良くしてるってのはいいことか。
「気になるなあ。あ、そういえば由佳は出るの?」
「うん。準ヒロインとして出るよ」
「へえ……結構重要な役みたいだな」
「そうだよ! だから言ったでしょ、泰を泣かすって」
「そんじゃ期待してるよ」
「どんとこい!」
大役を任されているというのに、由佳は緊張した面持ちを見せることなく明るい。ほんと、すごいな。俺が同じ立場だったらきっと今頃緊張してガクガク震えているに違いない。
「美来ちゃんも楽しみにしててね! 絶対楽しませるから!」
「は、はい! 楽しみにしてます!」
「じゃ、そろそろ準備に行きますか由佳さん!」
「うん、行こっか。それじゃ舞台で会おうね、二人とも」
そういって二人はホールの中に入っていき、準備をしに行った。
「二人ともなんだか自信満々でしたね」
「それだけ面白いってことなんだと思うよ。俺らも中に入ろっか」
「はいっ!」
そして俺らも会場の中に入って入場の手続きをすませる。やはりお客さんは結構な数いて、俺が思っている以上にこの演劇は注目されているのだろう。なんだか俺の方が緊張してきたな。
「わあ……人がいっぱいです。私、こんな人の前に立つって想像しただけでも怖くなっちゃいます……」
「俺も……。ほんと、あの二人はすごいな」
「そうですね……。あ、そろそろ始まりそうですよ」
「じゃあ行こっか……ん?」
開始時刻が近づいてきて、ホールの中に人がぞろぞろと入っていく。俺たちも入ろうかとした時、ふと由佳が俺のことを手招きしている姿が目に入る。今すぐこいってことか?
「由佳さん、多分泰さんに用があるんだと思います。行ってあげてください」
「……うん。ちょっと行ってくるね」
美来もそれに気づいたらしく、俺に行って来いと行ってくれた。なので俺は急いで由佳の元に駆けつける。ちょっと視線を集めてしまった気がするけど、今は気にしてる場合じゃない。
「どうした? 何かあったのか?」
「いや、そうじゃないよ。ただ、泰の顔を近くで見たくなっただけ」
「なんだそれ。緊張してるのか?」
「……そうだよ。さっきは明るくしてたけど……ほんとは、今すぐ吐きそうなぐらい、緊張してるんだ。こんな人来るなんて思ってなかったし」
どうやら由佳もこの観客数は想定外みたいで、緊張しているようだ。実際、由佳の体、少し震えている気がするし。そのプレッシャーを、俺が代わりに担ぐことはできないし、一緒に背負うこともできない。でも……。
「由佳はこの時のために頑張ってきたんだろ? なら大丈夫だよ」
心を落ち着かせる言葉を投げかけることぐらいは、できる。
「……はあ。優しいねえ泰は」
「ありがと。ま、今俺にできることがあればできる限りするよ」
「……じゃあ、抱きしめてって言ってもしてくれる?」
「……」
何を言い出すかと思えば、それは予想以上だった。由佳がまだ俺に好意があるかどうかはわからない。不安が変な方向に向いているだけかもしれない。だったら、してあげれば由佳の助けになるかもしれないけど……。
「できない。俺には美来がいる」
「……だよね。ごめん、変なこと言って」
今の俺は美来しか見ることができない。もう二度と、すれ違ったりしたくないから。
「でも、これはできる」
「っ! 痛った!」
でも、気弱なやつに気合を注入するぐらいならいい。俺は由佳のおでこに加減をしつつデコピンをした。
「気弱な由佳はらしくないぞ。これで目を覚ませ」
「……だね! ありがと、元気でたよ。じゃ、覚悟決めて行ってくるね。私の活躍、とことん目に焼き付けてよ」
「もちろん」
そして由佳は舞台裏に、俺は観客席に向かう。そして演劇が始まっていくわけだが……吹っ切れたこともあってか、由佳の演技はそれはもう素晴らしくて……宮川さんも、ちょい役とは思えないぐらいいい演技で……。
「最高でしたね! とっても面白かったです!」
「ああ、本当に面白かったね!」
演劇が終わった後、俺と美来は興奮が冷めずにそんな感想が自然と出てくるほど、めちゃくちゃ面白かった。
★★★
(……ちっ。つまんな。抱けよあそこで。せっかくあの女の彼氏が浮気してるって写真を撮ろうとしたのに……)
演劇が行わている会場の近くにあるカフェ。そこで一人の女子高生がコーヒーを飲みながら、隠れてスマホのカメラで撮った写真を振り返りながら、そう思う。
(ま、いいや。今日は三橋大学の奴から金を巻き上げようとしに来たら、たまたま見つけただけだし。欲張ったらダメ)
コーヒーをすすりながら、女子高生は時計を見て時間を確認する。
(それに私の狙いは……あいつの今住んでる家知ることだし。それさえわかっちゃえば……)
「あはっ。楽しみ〜」
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