一緒にいるよ


 「ここまで来れば大丈夫かな」


 俺は美来を連れて一旦美術館から離れて、ゆっくりできる場所に移動する。……それにしても、あの人は一体なんだったんだ。美来を連れ出す時、すごい形相で俺にこと睨みつけてたし。


 ただ、今はそれよりも気にしなくてはいけないことがある。


 「美来、大丈夫?」


 あの時の美来の表情は、今までで見たことがないぐらい恐怖に支配されていた。それに手を繋いだ時も体が震えていて……きっと、あの人は美来にとって会うのが辛い人なんだろう。


 「だ、大丈夫です。ご、ごめんなさい……泰さんに迷惑をかけちゃって」


 「美来が謝ることなんてないよ。俺が美来を一人にしちゃったのが悪いし……。……あれ? 腕痛むの?」


 「い、いやこれは……」


 「見せて」


 「……はい」


 ちょっと強引だったかもしれないけど、腕を痛そうにしている美来を放っておくわけにはいかない。美来も素直にしたがってくれて、腕を見せてくれた。


 「……腫れてる。これ、あの人にやられたの?」


 「……」


 美来は言葉にこそ出さないけど、コクリと頷く。ここまでするなんて、思った以上にあの人は美来と会わせてはいけないようだ。すぐさま俺は近くにあった水道でハンカチを濡らして、ベンチにお互い座ってそれを美来の腕に当てる。


 「帰ったらちゃんと手当しよう」


 「だ、大丈夫ですよ。これぐらい全然問題ないです」


 美来は精一杯、平気を取り繕って笑顔で俺にそう言ってくれる。実際腕は大したことがないのかもしれない。だけど美来の笑顔は……俺がいつも見ているものとは明らかに違う。


 「俺はそう見えないよ。美来がこんなに怯えてるのに、それを放っておくなんてできない」


 「そ、そんな……泰さんに迷惑が……」


 自分が酷い目にあったのに、それでも俺のことを心配してくれる。本当に、美来は優しい。そんなところも、俺が好きなところだ。でも……。


 「それぐらい平気だよ。俺は美来の彼氏だから、美来が嫌なことも一緒に背負っていくつもりだし」


 「で、でも……」


 「美来だって、俺の親父のこと聞いた時それを受け止めてくれただろ? お互い様だよ、俺たちはいつだって」


 俺は美来の腕を冷やしながら、もう片方の手で美来の頭をさする。そして美来が安心できるよう、自分なりにいい笑顔で……こう言った。


 「嫌な思い出は無理に思い出さなくてもいいよ。でも、悲しい時にも俺を頼ってほしいな。そのためにも、俺は美来と一緒にいるんだから」


 「……っ!」


 それを聞いた時、安心してくれたのか……美来はポロポロと、俺の胸元で涙を流し始めた。きっと、俺が思っている以上に抱えていたものがあったんだろう。それを流し出すように、美来は涙を流し続ける。


 「……わ、私……本当に……怖かったです……。もう……二度と会いたくない……。……またあの人とあったら……泰さんと……離されそうで……嫌……」


 「俺が美来と離れるわけがない。いつだって、一緒にいるよ」


 今度は背中をさすりながら、泣いている美来を見守る。


 「約束するよ。指切りしよう、俺がいつでも美来を守るって」


 「……うん」


 俺と美来はお互いに小指を絡ませて、約束のまじないをした。これは、俺にとっての誓いだ。もう二度と、美来にこんなことにさせないように。


 「……やっぱり、私泰さんが大好きです」


 涙が止まって、落ち着いてきた美来はいきなりそういう。


 「いきなりだね」


 「言いたくなっちゃったんです」


 「じゃあ俺も美来大好き」


 「もう……えへへ」


 こんな風に、お互いじゃれつくことができるぐらいに美来は回復してくれた。やっぱ美来はこうやって笑ってる顔が、一番可愛い。この笑顔を守るためにも、俺が頑張らないといけない。


 「じゃあ腕のこともあるし、家に帰ろっか。そのあと画集を二人でみよう」


 「はいっ! じゃあまた……」


 「もちろん」


 俺たちはまた、手を繋いで駅に向かって歩き出した。ああ、やっぱり美来の手の温もりはとても心地よくて……笑顔が絶えないや。


  ――――――――――――

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