管理人さんと美術館……の前に


 歩くこと数十分。俺たちは目的地である美術館に着いた。美術館の周りは広くて近くには公園があったりと、自然豊かで素敵なところだ。


 「いい場所だね、ここ」


 「はい! 私、ここの美術館が一番好きなんです! だから泰さんと一緒に来れて……とっても嬉しいんですよ」


 「う、嬉しいこと言うなあ……」


 ウキウキと語る美来にそう言われて、俺もついつい照れてしまう。手を繋ぎながら言われたので嬉しさは倍ぐらいになってる。


 「えへへ。じゃあチケットを……あ。まだ空いてないみたいですね」


 「ほんとだ。結構早く来ちゃったからね。それじゃあ公園で時間を潰そうか」


 まだ美術館が空いてなかったので、俺たちは近くにある公園で時間を潰すことにした。お、移動販売とかあるんだ。


 「結構いろんなもの売ってるんだ。ホットドックとかケバブとか……あ、タピオカもある」


 移動販売店は美術館よりも先にやっているようで、俺たちと同じく暇を持て余した人たちがそのお店で買ってベンチに座って飲み食いしている。それを見てるとなんだか俺も何か買いたくなるなあ。


 「何か俺たちも買って時間潰そうか。美来は何か欲しいものある?」


 「欲しいものですか? うーんと……」


 美来はお店を見回してはどれにしようか悩んでいる。その姿はまるで小さな子供みたいで……やっぱり美来は可愛い。


 「……あれ、がいいです」


 欲しいものが決まったようで、美来はきになるお店を指差す。そのお店というのは……。


 「タピオカかあ。よし、買おうっか」


 タピオカだった。ブームは過ぎ去ったけど、なんだかんだ飲み物として美味しいからなあ。てなわけで俺は自分の分と美来の分を買って、公園にあるベンチに座る。


 「これがタピオカ……!」


 「あれ、美来は初めて?」


 「は、はい。飲んでみたいなとは思ってたんですけど、おしゃれな人が飲むものだと思って敬遠してて……」


 「美来も十分おしゃれなのに」


 「! え、えっと……そ、その……ありがとうございます。……もう、本当に泰さんは褒め上手です」


 思ってたことを素直に言っただけなんだけど、美来はあたふたと照れる反応をした。そういうところもほんと可愛い。


 「そ、そういえばタピオカって飲む前にいんすたぐらむ? でしたっけ。に写真をあげるんですよね?」


 「そんな決まりはないけど……まあ、一時期流行ってたね。今はそんなにいないんじゃない?」


 「そ、そうなんですか!?」


 「多分。俺はインスタに全然投稿しないし繋がってる人もそんなおしゃれな人いないからわかんないけど」


 「へ、へえ……」


 美来は目を丸くしながらタピオカを見つめる。そんなに意外だったのか……。


 「……せっかく、泰さんと一緒に写真を撮れると思ったのに……」


 美来は小さな声でそんなことを言う。多分心の声が漏れちゃったんだろうけど……ああ、なるほど。どうやらタピオカを写真に撮るのは建前で、美来は俺と写真を撮りたかったようだ。それなら別に……理由なんていらない。


 「じゃあ撮ろうか」


 「え、あ、き、聞こえてました!?」


 「うん」


 「あ……。そ、それじゃあ……お願いします」


 美来はスマホを取り出して、カメラを起動する。そしてそれっぽい形で俺との写真を撮ろうとするが……なかなか角度がうまくいかない。俺も写真全く撮らないからなーんもアドバイスはできず……。


 「……」


 とった写真は盛大にぶれた。一応誰かはわかるんだけど……なんだろう、若干残像になっていることが余計変な写真になっている。だけどこれはこれで……。


 「……ふふっ。面白いですね!」


 「ほんとそうだね。こりゃ面白い」


 面白かった。美来もそう思ったらしく俺たちはお互い笑い合う。いい写真を撮るよりも、お互い楽しめるんだからそれでいっか。俺たちの愛情は、いつだってわかりあってるんだから。


 「タピオカ飲み終わったらもう一回挑戦してみましょうか!」


 「そうだね。今度はうまく撮れるかな? それともこれよりも面白いのが撮れたりして」


 「ふふっ。後のお楽しみですね。……あ、美味しい!」


 タピオカを美味しそうに飲む美来は可愛い。……あ、そうだ。


 「……あ、や、泰さん!?」


 「ごめん、可愛くてつい撮っちゃった」


 ついつい俺はタピオカを飲む美来を自分のスマホで撮ってしまった。美来の姿をカメラに収めたのは初めてだけど……美来がとことん可愛いことが証明されてしまった気がする。


 「じゃあ次は私が撮ります」


 「え……ってもう撮られたし」


 仕返しに俺も美来に写真を撮られた。さっきの美来と違い、驚いてあほ面してる姿なので……いいのだろうか?


 「……この写真の泰さん、可愛くていいですね」


 「間抜けな面してるだけじゃ……」


 「そこもいいんです!」


 「なるほどなあ」


 美来も俺のいろんな姿を受け入れてくれてるようだ。ま、美来が気に入ってくれてるならいいや。


 そんなこんなで、俺たちは美術館が開くまでタピオカを飲んで、その後呑気に公園をブラブラしながら……写真を撮ったりした。


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