管理人さんと美術館デート
「わあ……広い」
美術館が開館したので、俺たちは早速チケットを買って中に入る。美術館にあまりこない俺は内観の素晴らしさに感嘆してしまった。はへーこんなにすごいものなのか。
「すごいですよね、ここの美術館。建物自体も芸術的です」
「その通りだよ。ほんと、美来とこれて良かった」
「! ……泰さんにそう言ってもらえると……嬉しいです」
相変わらずこんなやり取りをしながら、俺たちは展覧会をやっているブースに入る。中は薄暗く、そして静かな空間が広がっていた。でも何より……。
(すっご……)
中に展示されている絵を一目見た時、俺の中で無音の絶叫が響き渡る。俺はそんなに絵をみる人間じゃないけど、どうしてかこれは直感的にすごいと思ってしまった。
「……この人、やばくない? なんか……見てるだけで感動しちゃった」
俺は他に見ている人の邪魔にならない程度の声で、美来にそういう。
「そうなんです。この方の描かれる作品はどれも自然と心を打つんですよ。……でも良かった。泰さんが気に入ってくれて」
「良い絵だからね。他も見て回ろっか」
「はい!」
と、初っ端から大きな衝撃を受けてから、俺たちは二人一緒に展示会を堪能した。流石に中で手を繋ぐのは他の人の邪魔になるかもしれないし、絵を見るペースも違うので一旦別行動になったけど。
ただ。
(……この絵一番良いな)
男女がベンチに座ってお互いを見つめ合う作品。語彙力がない俺はそうとしか説明できないが……不思議と惹かれるこの作品を、じっと見ていると。
「あ、泰さんもこの絵がお気に入りですか?」
隣に美来がやってきた。
「あ、うん。なんとなくだけど、この絵いいなあって」
「私もこの絵が一番好きなんです」
「……ははっ。やっぱ俺ら似てるなあ」
「……ですね。実は家にこの絵が載ってる画集があるんです。帰ったら泰さんにお貸ししますね」
「ほんと? ありがとう美来! なら二人で見ようよ」
「……わ、私も……そのつもりでした」
「やっぱり。可愛いねほんと」
「! だ、だって……泰さんが大好きですから」
結局、俺らはこんなやり取りをブースの中でもついついしてしまう。もちろん邪魔にならないようにだけど。その後も俺ら二人は好きなだけ作品を堪能していき、気づいたらもう午後をとっくに過ぎていた。
「いっぱい見ちゃいましたね」
「それだけ良かったからねえ。あれ、そのチラシは?」
「じ、実は……この画家さんが審査員をする絵のコンテストが開催されるそうなんです。その詳細が書かれたものなんですけど……興味があって」
「いいじゃん! 参加しなよ美来」
「か、考えてみますね。まずはお昼ご飯にしましょう」
「そうだね。何か美来は食べたいものある?」
「食べたいもの……。じゃ、じゃああそこのお店がいいです」
「あれは……」
美来がリクエストしたのは、美術館の中にある和食レストラン。おお、美味しそうなメニューが揃ってる。
「ここの炊き込みご飯はとっても美味しいんです!」
「じゃあそこにしようか。俺が奢るよ」
「え!? そ、それはダメです! 私がおごります!」
「でも彼女に払わせるのは……それにいっつもご飯作ってもらってるし」
「今日は私が来たいって言ったので……せめて、ここで泰さんをおもてなししたいんです」
「……わかった。じゃあお願いするね」
「はいっ! 任せてください!」
そんなわけで、俺は美来にお昼ご飯を奢ってもらうことになった。美来は炊き込みご飯のセットを頼んで、俺は焼き魚のセットを頼んだ。
「美味しい!」
料理は割と早くきて、俺たちは早速食べる。その際美来が美味しいと言って食べている姿がもう本当に可愛くて……。俺ももっと料理して言わせたいなって思ったぐらいだ。
ちなみにデザートがお互いついてるセットを頼んだのだが……俺はきな粉餅、そして美来は抹茶パフェを選んだ。その際美来がもぐもぐとパフェを食べている姿もまた……可愛い。
「あれ、どうしたんですか泰さん? 食べないんですか?」
「いや、その……美味しそうに食べてる美来が可愛くて……見てた」
「! も、もう……じゃあ今日の晩御飯は私が泰さんのその姿、じっと見てますから」
「それはいつもじゃない?」
「いつ見てもいいんです!」
「敵わないなあ」
デートだからかこんなやり取りをいつもよりたくさんして、昼食も食べ終わってしまった。楽しい時間ってほんとあっという間だな。
「じゃあ次はどこ行こう……ごめん美来、ちょっとトイレ」
「わかりました。じゃあここのソファーで待ってますね」
「ありがとう。ちょっと待っててね」
次はどこ行こうかという時に、タイミング悪くトイレに行きたくなってしまった。なので一旦俺はトイレに行ったんだけど……。
「……勇気を出して……泰さんをお誘いして良かった………………え?」
「あれ〜、柏柳さんじゃーん。中学校卒業以来だね〜……あ、卒業式来てなかったね貴女! キャハハ!」
タイミングが悪いのは……それだけじゃなかった。美来にとって、思い出したくもない過去の象徴である人と……出会ってしまったから。
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