管理人さんとデート
「泰さん、デートしましょう」
日曜日。美来と一緒に朝ごはんを食べている最中、美来が少し恥ずかしそうにしながら俺にそう言った。
「いきなりだね。どうしたの?」
「じ、実は……この美術館で私の好きな画家さんの個展をやってるんです。さっき気づいたので急になっちゃったんですけど……も、もし泰さんがよければ、一緒に行きたいなあって。お、お金もそんなにかからないですから」
「なるほど」
思えば夏休みにも誘われたけど、あの時は一緒に行くことができなかった。それに恋人になってから学校が始まったり事件があったりで一緒に出かけることもできなかったし……。
「うん、もちろん」
俺は即承諾した。
「よ、よかったです! それじゃあご飯食べ終わって準備が終わったら行きましょう!」
「オッケー」
と、こんなわけで俺と美来は今日出かけることになった。それにしても……。
「デート、か。夏とはまた違った誘われ方だなあ」
「そ、それは……。い、今は私たち……こ、恋人ですから」
「……そうだね。じゃあ恋人らしく楽しいデートにしよう!」
「はい!」
そんなわけで、俺たちは朝食を済ますとお互い外出の準備を済ます。せっかくのデートなので美来の隣にいて恥じない格好にしようかとしたが……。うーん、やっぱ髪のセットって苦手だ。動画を参考にしてもイマイチうまくいかない。
ただ、実は地道に練習はしてきたのでなんとかそれっぽい形にはなった。服装も俺にしてはまともなものを着て、準備は整った。
それから数分後、美来の方も準備が終わったらしく、ピンポンを鳴らしてくれた。
「お、お待たせしました泰さん。……か、かっこいい……!」
「……美来こそ、めちゃくちゃ可愛い」
美来は俺のことを見てカッコいいと言ってくれたが、美来の方こそめちゃくちゃ可愛い。黒小花柄のワンピースにベージュのカーディガンを羽織った美来は、普段見れない可愛さを出していて……思わずドキッとしてしまう。
「……それじゃあ、行きましょうか」
「……う、うん」
付き合ってそれなりに時間が経つけど、それでもまだお互いの良さにドキドキしながら、家の鍵を閉めて駅まで歩きだ……ん?
「……手、繋ぎたいです」
歩き出そうとした時、美来がもじもじしながら呟く。……思えば、付き合った当初は周りに知られたら困りそうってことで外のデートはできず、未だ外で手を繋いだことがない。
「……これでいい?」
「……はい!」
だけど前に美来の学校付近で抱きしめあったんだ。もう今更何をおそれようか。なので俺は美来の小さな手に自分の手を絡めた。
「……泰さんの手、あったかくて気持ちいいです」
手を握ると美来はにっこりと笑いながら俺の手を褒めてくれた。ああ、やっぱり可愛い。
「美来こそ綺麗な手で素敵だよ」
「え、えへへ……。そ、それじゃあ行きましょう!」
俺も褒め返すと、美来は嬉しそうな笑みを返してくれた。そして俺たちは一緒に手を繋ぎながら駅まで歩き出す。……なんだか、ドキドキするなこれ。
「……いっぱい抱きしめたり、キスしたりしてても……手を繋ぎながら歩くのって……ちょっぴり、ドキドキしちゃいますね」
美来も俺と同じようなことを思っていたようで、美来は笑いながら、でも照れた表情で俺にそう言う。
「俺も……。まあ自慢の彼女を離さないって意思表示にはもってこいだけど」
「! だ、だったら私だって……自慢の彼氏を離さないって意思表示します!」
「あはは。それは心強いよ」
そんな会話を交わしながら、俺たちは駅までのんびり歩いていく。途中視線が何度か向けられている気はしたが……そんなことよりも、今は美来と一緒に歩けてる幸せを噛み締めていた。
そして駅に着くと、運よく電車がちょうど到着したので、俺たちはそれに乗る。それほど混んでおらず、席も空いていたので一緒に座った。目的地までは数十分かかるので、座れて結構嬉しい。
「そういえば美来と電車に乗るのって初めてだね」
「た、確かに……」
レストランに行った時は車で行ったから、何気に二人で電車に乗るのは初めてだ。なので二人並んで席に座るっても初めてだ。
「今日は泰さんと初めてづくしですね」
「ね。ワクワクするよ」
「ふふっ。私もです」
二人で会話をしているうちに、気づいたら目的地の駅に着いていた。やっぱり美来といる時間はすぐに過ぎてしまう。
「美術館はここから数分歩いたところです。それじゃあ行きましょう!」
「えいえいおー」
そして駅の改札を出て、美術館に向かうまでもまた……俺たちは手を繋いで、一緒に歩いて行った。
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