貴女しかいない
「……」
二日、学校をサボった。今日も正直行く気にはなれない。……だけど、私は元々サボり癖があるから……休みすぎると、学校を退学になってしまう。それは母との約束を破ることにもなるから……行くしかない。
「……」
だから私は学校に行くことはできた。だけど、泰さんと話すことは全然できない。何度も話しかけようとした。だけどその声を出そうとする時、文字を送ろうとする時……私の心の奥で、悪魔が囁く。
【どうせお前なんて求められていない】
泰さんに直接言われたわけじゃない。なのに私は勝手に自分で自分にそんな呪いの言葉をかけてしまう。どうしてここまで自分を卑下してしまうのかわからない。でも考えるに……やっぱり、自分に自信がないから……かな。
「……」
思えばずっと自分に自信がなかった。勉強もできないし、運動もできない。絵を描くことは好きだけど、世の中には私よりもっと絵が上手い人はたくさんいる。
でも……泰さんが私のことを好きって言ってくれたから。だからこんな私でもいいんだって思えた……。
ああ、ダメだ。どんなに考えないようにしても、私はどうしても泰さんのことを考えないわけにはいかない。やっぱり、大好きだから……。
「あ、あの!」
「……!」
そんな考え事をしている間にあっという間に1日は過ぎて、放課後になった。学校に来たとしても、今日も誰とも話さない、そう思っていたのに……。
宮川さんが、話しかけてきた。今日、ずっと避け続けていたのに……。
「……あ、ちょ、ちょっと!」
私はとっさに逃げてしまった。明らかに敵意があったわけじゃない。宮川さんは私に優しく話しかけてくれたのに……どうして、反射的に逃げ出しちゃうんだろう。
「ま、待って!」
それでも宮川さんは追いかけている。学校の人にも不思議な目で見られていることに気づくぐらいの余裕はあったけど、運動が苦手な私は徐々に距離を縮められる。
「……捕まえた」
そして私は学校を出てちょっと先の空き地で、宮川さんに手を掴まれてしまう。私はもう体力の限界を迎えていて、とても抵抗する力は残っていなかった。
「……話しよう。先生に抱きついた私と話したくない気持ちはわかるけど、いつまでもしないわけにはいかないでしょ?」
「……」
その通りだ。いつまでも逃げ続けられる問題じゃない。……つくづく、自分が情けないと思う。
「聞いたよ。先生と柏柳さん、付き合ってるんでしょ?」
「……はい」
「……だよね。……昨日、先生と話をしたんだ。……私、振られた」
「……え?」
言葉を詰まらせながらも、宮川さんは私に淡々と事実を伝える。……二人が付き合い始めるって話じゃないってこと……だよね? 私の心は正直だ。それを聞いた時、安堵した。
だけど……同時に思う。泰さんのことを信じられなかった、自分の不甲斐なさを。
「だから先生と話してあげて。寂しそうにしてたよ」
「……む、無理です」
「……は?」
言葉が勝手に出ていた。宮川さんの反応は辛辣だった。だけど……これはきっと私の心が漏らした本音なのかもしれない。
「……わ、私……泰さんのこと……信じてあげられなかったから……だから……もう、泰さんにふさわしく……ない……から」
こんなの、本心だなんて認めたくない。泰さんのことが大好きで、もっとずっと一緒にいたいって思っているはずなのに。どうして、口は勝手にこんな言葉を吐き出してしまうんだろう。
「やめて」
「!」
そんな不甲斐ない私を怒った表情で宮川さんは見つめる。
「私、ほんとは腹の中煮えくり返りそうなの。先生が好きな相手がどうして私じゃないんだろうってね。今だってそう。だから昨日、正直言うと先生のこと奪おうとした」
「……」
「だけどね、昨日の先生の姿みたら……敵わないなって思ったよ。あの人の頭、柏柳さんのことでいっぱい。どこにも私が付け入る隙なんて、なかった」
「……」
「だから、貴女しかいないんだよ! 先生を幸せにできるのは! なのに……ふさわしくないなんて思ってもないこと、言わないで! 柏柳さん、先生のこと大好きなんでしょ!」
「…………!」
その言葉は、私のジメジメした考えを吹き飛ばしてくれた。……そうだ、私は泰さんのことが大好き。それだけでいいはずなんだ。これ以上、他に考えることなんてないんだ。
「……う、うん……わ、私は……泰さんが……大好き。世界で一番、大好き!」
情けないぐらい涙を流して、人目を一切気にしないで声を上げてしまった。自分で勝手に被った殻を、破ったからかな。宮川さんのおかげかな。やっぱり泰さんが大好きだからかな。その答えを考える前に。
神様は時に、優しい展開をプレゼントしてくれる。
「……み、美来」
「……や、泰さん……」
下校途中の私と会うために来てくれたのか。それとも宮川さんが呼んでくれたのか。答えはこの時わからなかったけど……。
「泰さん!」
私は泰さんに思いっきり抱きついて、泰さんの温かい胸でまた泣き出す。泰さんも優しく私のことを抱きしめてくれて……ああ、やっぱり、落ち着くなあ。
「……ごめん。もっと早く、話せばよかった」
「……私もです。……私こそ……泰さんのこと疑っちゃって……ごめんなさい」
「……いいよ。美来とこうしてまた喋れたんだから。俺にとってこれ以上の幸せなんてない」
「……私もです」
人目を一切気にしないで、私たちはずっと抱きしめあう。
「……もう、離しません。ずっと……一緒にいたいですから」
「……俺も、離さないよ」
結局、この時私たちは数十分この空き地で抱きしめあっていた。……辛い日々をしばらく過ごした反動かもしれない。……でも、この出来事があったからこそ、一層私たちの仲が……より深まったのかも。
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