好きだから
美来と話すことができずに1日が過ぎてしまった。もはや日常だった朝も訪れることなく、ただただ俺は一人でご飯を食べて、大学に行った。
大学に行くと友人たちには「え?」って表情された。おそらく昨日まで幸せオーラ満載だったのが負のオーラで満ち溢れているからだろう。ここで笑う奴がいなかったのは、救いといってもいい。
で、その状態だからあんまり行きたくなかったけど……景気付けの意味もあったんだろう。俺は飲み会に連れて行かれた。
「おすー田中くん。それにやす……え」
その飲み会に参加していた由佳にもやっぱり……「え?」って表情をされた。
「なんかこいつ今日一日中こうなんだよ。だから今日はこいつの景気付けってことでぱあっとやろうかと!」
「……へ、へえ」
そんなわけで飲み会が始まるけどもちろん俺は全く楽しめない。だけど楽しませようとしてくれている友人のご厚意を無駄にするわけもないので、必死に絞って笑顔を出して、なんとかそれなりに楽しい飲み会になって終わった。
だけどそれを察したある人に、帰り道止められた。
「ねえ泰。待って、何があったの?」
「……あ、由佳。帰り道こっちじゃないだろ……なんでいんだよ」
「先にこっちの質問に答えて。何があったの?」
由佳は普段見せない真剣な表情で俺に話しかけてくる。ああ、もうこれは答えない以外の選択肢はないな。
「実は……」
俺は昨日起こったことの顛末を由佳に話す。生徒に告白されたこと、それを偶然美来に見られてしまったこと、それ以来話すことができていないこと。
「……そっか。なかなか大変だったみたいだね」
由佳はそれを聞くと、俺の背中をポンポンとさすりながら同情の言葉を投げてくれる。……ほんの少しだけ、吐き出したことで落ち着いたかもしれない。
「でもさ、これからどうするの?」
「……これから?」
だけど、由佳はただ励ますだけじゃなかった。
「確かに偶然が重なった不幸な出来事だと思うよ。だけどさ、これからの対応次第でそれは覆せるんじゃないかな? ……それとも、泰はそんなに美来ちゃんのことが好きじゃないの?」
「そ、そんなわけない! 俺は……美来が大好きだ」
「……でしょ。ならその思いちゃんと美来ちゃんにも、その女子高生にもいった方がいいよ。気まずい雰囲気になったカップルがどうなるか……知らないわけじゃないんだし」
「……」
その通りだ。このままズルズルいって、何もせずにいれば……俺たちは自然と別れてしまう。それだけは、絶対に嫌だ。俺はもっと……美来と一緒にいたい。楽しいこと、嬉しいこと、まだまだ一緒にしたいから。
「まずはちゃんと女子高生に断りを入れないとね。これ以上話がややこしくなるのは困るだろうし。あとは美来ちゃんとどう喋るかだけど……うん、どうしよっか」
「……意地でもどうにかする。……まだ、考えはないけど」
「そっか。まあ泰が考える方がいいよね。決意したみたいだし、よかったよかった!」
「……ほんと、ありがとな。由佳がいなかったら……どうなっていたことやら」
「……ま、泰が幸せなのが一番だし。それに……美来ちゃんだから許せるところあるし」
「え?」
「こっちの話。じゃあ頑張って。私もできる限り協力するよ」
そういって由佳は手を振って自身の帰路につく。本当に、由佳には感謝しかない。このままズルズル嫌な思いを引きずるよりも、どう現状を打開するかに方向を導いてくれたから。
「……よし」
俺は自身の頰を叩いて、決意を固める。絶対に、美来と離れたくないから。
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