管理人さんの涙
「……どう、して」
家に帰った私は、部屋の隅で体育すわりをしながらそう呟く。今日は泰さんの帰りが遅かったから迎えに行こうと思ったのが……まずかったのかな。
泰さんに抱きついてた人、きっと宮川さんだよね。泰さんが塾で教えてるって言ってたけど……もしかしたら、そこで関係が進展しちゃったのかもしれない。
でも、宮川さんは誰が見ても素敵な人だから。美人だし、明るくて人当たりもいい。私とは大違いだ。そんな人に、惹かれない男の人なんて……いないよ。
それに、泰さんだって素敵な人だから。優しくて、かっこよくて、たまにおっちょこちょいで、私のわがままも聞いてくれて、それに私のことを大切にしてくれた。そんな人に、惹かれない女の人なんて……いないよ。
思えば私はこの半年ちょっと、恵まれ過ぎてたんだ。本当は、泰さんみたいな素敵な人と恋人になれるはずがなかったんだ。それでもあんなに幸せな時間を過ごせたんだから……もう、十分幸せ。
だから泰さんがもっと幸せになれる……な……ら……。
「……っ」
なんて、泰さんの幸せを願って、自分をいい子にして思ってもいないことを言ったって、私の本音はごまかせない。
「……もっと……もっと……泰さんと一緒に……いたいよ……」
堪えきれなくなった涙、そして本音がポロポロとこぼれていく。
「……もっと……もっと一緒に……楽しいこと……したいもん」
秋になって紅葉が出始めたら、一緒に見に行きたかった。冬休み、一緒に旅行をしたかった。温泉とか、行けたらいいなって思ってた。それにクリスマスにイルミネーションを見に行けたらって……。
そんな幸せな未来、きっと実現するって思ってたから。
「私の方が……泰さんのこと……大好き……だもん」
宮川さんがどれだけ泰さんのことを好きでいるかは知らない。だけど……絶対、絶対に私の方が泰さんのことが好きだから。私は世界で一番……泰さんのことが大好きだもん。だから……。
「だから……泰さんを……私から泰さんを……奪わないで……」
涙の量はどんどん増えて、もしかしたら口に出した言葉はうまく言えてないかもしれない。だけど……もう、私は泰さんがいないと……ダメだと思う。
あの時、あの光景を見てしまった時から……胸がずっと痛い。それはきっと私が泰さんがいなくなるのが怖くて……辛いから。
「……!」
ふと家のチャイムが鳴る。そしてその後、聞き慣れた声が聞こえてくる。
「美来! 開けてくれ!」
泰さんの声だ。……もしかしたら、あれは勘違いで、誤解を解くために来てくれたのかもしれない。……だけど、ドアを開けられない。
怖い。泰さんから私をもういらないって言われるのが。大好きな人から、好きじゃないって言われるのが。だから……私はただただ閉じこもるだけ。それでも泰さんは何度も声をかけてくれるけど……私が、勇気を出せなかった。
「……どうしたら……いいんだろう」
そして泰さんの声が聞こえなくなった後、私はそうポツリと呟く。わからない。泰さんと一緒にいるためには……行動しないと行けないはずなのに、何をすればいいのかわからない。
……このまま、私たち……別れちゃう……の……かな?
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