幸せを隠しきれない


 大学が始まった。久しぶりということで少し緊張感を持ちつつも、久しぶりの授業に少しだけワクワクしていた。まあ初回の授業は大体ガイダンスだからすぐ終わるんだけどさ。


 「おすー丹下。……随分と幸せそうだな」


 「え」


 ちょっと早めに教室に入ると先に田中が席に座っていて、その隣に座って挨拶されるとなぜか幸せそうだと言われる。


 「な、なんでそう思う?」


 「顔に出てる」


 「そ、そんなに?」


 「ああ。……どーせ俺が車貸した時にドライブした人とうまくいってんだろ? かーにくいねえ!」


 そこまで見抜かれているとは。……まあ、事実俺は毎日美来と幸せな生活を送っているし、最近は美来が俺に誕生日ケーキを作ってくれることが決まったからそれが待ち遠しくてもう……。


 「ま、でも俺もそろそろいい加減彼女できるだろうし醜い嫉妬はしないぜ」


 「お、もうすぐできんの?」


 「今度の飲み会で作るんだよ」


 「あ……」


 つまりまだ目処が立ってないってことね。田中が彼女を作るのはまだまだ先の話になりそうだ。


 「ちなみにお前もこさせるかな」


 「え。俺誕生日の日は絶対無理だぞ」


 「……ああ、そういえば9/30誕生日かお前。安心しろ、俺としては残念だが飲み会はその三日前ぐらいだ」


 「まあならいっか」


 「……なあ、どうしたら彼女作れんだ?」


 「……時の運じゃない?」


 「ふーん。……お、きたきた」


 そんなたわいもない話をしているうちに他の同級生もぞろぞろとき始めて、いよいよ授業も始まっていった。やっぱり授業は退屈なものもあればそうでないもの、色々あるけど……大学生してるなあって実感が湧く。


 そしてそのあと、俺はバイトに直行する。


 「こんちゃー先生。……うわ、めっちゃ幸せそうじゃん」


 「なんか会う人みんなに言われるなあ」


 今日も授業を受け持つ宮川さんからも、幸せそうだと言われた。そんな顔に出てるのか俺……道ですれ違う人に不審者とか思われてたら嫌だな。


 「幸せのオーラが溢れ出てるって感じだよ。いいねー彼女さんとイチャイチャライフ送ってんだねー」


 「……まあ。もうすぐ誕生日だし、それを祝ってもらえるからね」


 「え!? そうなんだー。私もなんかプレゼントしたいけど……もうすぐオーディションだからなあ」


 「オーディション?」


 「うん、役のね。主役のだからめっちゃ頑張んないといけないけど」


 「へえ! じゃあ頑張って! 俺も応援してるよ」


 「うんありがと!」


 「んじゃ授業やるよ」


 「はーい」


 宮川さんも頑張ってるんだなあ。俺もそれを支えれられるよう授業をしていかないと。


 そんなこんなで今日も授業をして、バイトを終える。にしてもそんなに顔に出てるのかと思い、俺は帰る前に一旦トイレにある鏡で自分の姿をまじまじとみる。……うーん、思ってたより普通。


 ただ少し表情筋が柔らかくなった……かな?


 思えば美来と一緒にいる時なんて大体笑ってるし。そりゃ柔らかくなるわ。ほんと、俺が思っている以上に美来との日々は俺にとって幸せな時間なんだろうな。


 そんなことを考えながら帰宅すると、今日も出迎えてくれた。


 「お帰りなさい、泰さん」


 「ただいま、美来」


 美来は可愛らしいエプロンをつけて、何やら口元にクリームをつけていた。……ああなるほど。


 「美来、ちょっとごめんね」


 「え……あ」


 俺はポケットからテッシュを取り出して、美来の口元についていたクリームをとる。少しいきなりだったこともあってか美来は驚いていたけど。


 「クリームついてたから。ケーキを作ってたの?」


 「あ……ば、ばれちゃいました。泰さんが帰ってくるまで練習で作ってたんです。……まだまだ改善の余地がありそうですけど」


 「練習までしてくれてるんだ」


 「や、泰さんには絶対に私が一番美味しく作ったケーキを食べてもらいたいですから」


 「……ほんと、俺は幸せ者だ」


 「……そ、それは私もですよ!」


 美来はそう言うと俺にぎゅっと抱きついてきた。


 「いきなりどうしたの?」


 「……したくなったので」


 「……可愛いなあ」


 俺もぎゅっと美来のことを抱きしめて、お互いに外にも関わらず抱きしめ会う。誰かに見られたらとても恥ずかしいが、それでもついついしてしまう。


 「……それじゃあご飯にしましょう。……家の中で、続きをしてもいいですか?」


 「……もちろん」


 こうして、俺たちは晩御飯を食べるために美来の部屋に入る。その時でさえ手を繋いでいたんだから……バカップルここにありって、誰かが見たら思うだろうな。


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