良い人
「おすー泰。お久」
「あ」
平日の昼間。今日は美来がちゃんと学校に行ってるので昼時は暇になる。なので俺は暇つぶしに外で散歩をしていたんだけど……偶然、そこで由佳にあった。
俺と美来が付き合い始めてからは初めての再開になる。
「微妙な反応だなあ。泰と美来ちゃんを繋ぐ架け橋的な役割をしたんだからもう少し讃えるように返事してよ」
「それは感謝してるけどさ……。はいはい、わー由佳様と出会えて感動だー」
「苦しゅうない苦しゅうない」
なんだこの茶番。なんか由佳も満更じゃなさそうに喜んでるし。
「んで、結局付き合ったの? 報告しろって行ったのに一切連絡くれないじゃん」
あ、忘れてた。最近ずっと美来のこと考えたから……なんて理由はさすがに言えないので、言い訳せずに謝ろう。
「ごめん、すっかり忘れてた」
「やっぱり。どーせ美来ちゃんのことで頭いっぱいなんでしょ」
「……う」
言い訳しないで謝ったってのに結局見透かされてたから意味がない。由佳は冷やかし風に笑いながら痛いところを突いてきた。
「幸せだねえ〜。もうキスしたの?」
「え、言わないとだめ?」
「言わないと報告しなかった罰でこれからスタバを奢らせる。いいじゃん、恋話しよーよ。そこのベンチ座ろ」
相変わらず由佳の勢いを強く、押し切られる形で俺はベンチに座らされ、恋話をさせられる。由佳はそりゃあもうウキウキで目を輝かせてるし。
「で、キスしたの?」
「……まあ、一応。それなりには」
「それなり? それって一回とかじゃないってことだよね。絶対私と付き合ってた時よりしてんじゃん」
「う」
回数を誤魔化したつもりだったんだけど、結局由佳にはバレる。事実今日の朝も……行ってきますのキス、したし。
「青春してんねー。どっちからするの?」
「そこまで聞くのかよ!」
「あ! その反応は泰もしてるね!」
「ぐ……」
俺がわかりやすいのか、それとも由佳の勘が異常に冴えているのか。ズバズバと見破られてしまうから体に熱が溜まる一方だ。そんな俺を由佳はニヤニヤしながら見ているわけだが。
「えー私の時は全然してくれなかったのに〜。ほんと、バカップルしてんね〜幸せ者だ〜いいな〜」
「……まあ、ほんと俺は幸せ者だよ。付き合う過程でも、由佳が手伝ってくれたし。由佳がいなかったら俺は美来と付き合えてなかったかもしれないから……そういう、良い人に恵まれたって面でも幸せ者だ」
「……ふーん。ありがと」
由佳は少し驚いた顔をしながら、さっきまでのテンションとうって変わって落ち着いた様子でお礼を言ってきた。
「あれ、テンション低くなったな? どした?」
「いやー。泰って天然女たらしだなあって思って」
「は?」
「なーんでもない。ま、とにかく幸せそうでよかったよ。あ、そうだ。今度美来ちゃんと一緒にこれ見に来てよ」
由佳はカバンからある一枚のビラを俺に渡す。
「ん……演劇の公演? 演劇やってたのか?」
「うん、東京来てから小さな劇団に入ってたんだよー。まあここら辺の大学生だったり、あとめちゃくちゃスタイルの良い生意気なJKもいたり、若い人ばっかりだけどみんなで頑張ってるんだー」
「へえ……一ヶ月後ね。じゃあ行かせてもらうよ。由佳の演技がどんなのか見てみたいし」
「お、私に注目するなんて良いとこ見てんじゃん。期待してもらって良いよ〜泰泣かせてやるから」
「すげえビックマウスだな。期待して待ってるよ」
「任せろい!」
それから、由佳が楽しそうに演劇について話すのを聞いていた。再開した時は若干気まずかったところもあったけど、話していると少しずつ楽しくなってきた。
元々付き合っていたぐらいの仲だ。人としての相性がいいんだろう。
「でねー……ってもうこんな時間じゃん! ついつい話し込んじゃった」
そんな風にベンチで過ごしていたら、いつの間にか数時間経っていた。
「そんじゃ泰には美来ちゃんがいるし、ここでお暇にしよう。今日はありがとね、楽しくおしゃべりできたよ」
「こっちこそ。思ったより楽しく喋れたよ」
「思ったよりってなにさ。まー泰が美来ちゃんと付き合って幸せオーラ全開だから、こっちも話しやすかったけど」
「え、そんなに?」
「うん、ダダ漏れ。赤の他人が見ても【ああ、こいつ彼女いんな】って思うぐらい」
だから宮川さんに初っ端からばれたってことか……。もっと外では気を引き締めないとな。
「最後にこれあげる」
「うん? ……は、はあ!?」
由佳がカバンから取り出して俺に渡してきたものは……男女の関係を一歩、というか何歩も前進させるための必需品。由佳は平然とした顔で渡してるけど、渡された俺は驚きで目が見開いてしまう。
「どうせ泰のことだからしてないでしょ?」
「し、しないだけだ! そ、そもそも向こうは高校生だぞ!」
「泰が私と付き合ってた時も、高校生だけど」
「……い、いや、結局しなかっただろ」
「まあね。だからウブな泰くんのためにプレゼントしてあげるってわけ」
「よ、余計なお世話だ! そ、そもそもなんで由佳が持ってるんだよ!」
「私? まあー……もしかしたらの時のためかな。でもそれ無くなったから。ほらはよ受け取れ! 持ってる私が恥ずかしいわ!」
半ば無理やり俺はいたずらがバレた子供みたいな、無邪気な笑顔を見せる由佳からあれを受け取らされ、仕方なく俺はそれを受け取る。
ぜってーどっかのゴミ箱に捨てねーと……。流石にまだ無理だろ……。
「捨てたら恨むよ。私がバカらしいじゃん」
「……」
思考が読まれてた。……仕方ない、家の絶対バレないところに隠しておくしかないな。
「そんじゃーね。……そうだ、一つ忠告しておくよ。前の泰はちょっと女の子を寄せ付けない感じがあったけど……トラウマがなんとかなったからか、それが無くなってる」
「そ、そうなの?」
言われてみれば、確かに美来が一緒にいてくれるって言ってくれたのを聞いてから、確かにバカ親父のことを意識することは格段に少なくなった。よくわかるな、由佳。
「うん。だから……気をつけたほうがいいよ。泰、結構いい男だから」
「それ美来にも言われたな。でも俺には美来がいるし」
「とことんバカップルだねえ。まあ、それなら大丈夫か。そんじゃ、ばーい。またねー」
最後に少し真面目な顔になったものの、結局由佳はいつも通り元気よくなって俺に手を振りながらどこかに行った。
にしても変なものを貰ってしまったなあ……。
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