管理人さんだけが知っていたい


 「ただいま」


 「お帰りなさい、泰さん」


 塾のバイトが終わり、家に帰る際美来に連絡しておいたので、俺が帰るぐらいに美来が自分の部屋でご飯を作ってくれた。


 今日は昼に俺の部屋でお互い過ごしていたので、夜は美来の部屋で過ごすことになったわけだ。


 「凄く良い香りがしてるね。これは……すき焼き?」


 「そうです! 泰さんが元気になれるよう作ってみました!」


 とびきりの笑顔で可愛らしくそう言う美来を見るだけで元気が出るけど、夜ご飯がすき焼きってのはさらにテンションが上がる。


 「ありがと。ほんと美来には助けられてばっかりだ」


 「それはお互い様ですよ。それに……私は泰さんが大好きですから。大好きな人が喜んでくれること……たくさんしたいですもん」


 少しもじもじしながら、最高に可愛いことを言われてしまった。これはなんと言うか、彼氏冥利に尽きると言うか……とにかく、本当に嬉しい。


 「そう言ってくれてほんと俺は幸せ者だよ」


 「え、えへへ……。そ、それじゃあご飯にしましょうか」


 そして俺たちは一緒に食卓に座ってすき焼きを食べ始める。やっぱり美来の作る料理は美味しくて箸が進む進む。


 「相変わらず美来の料理は美味いね。プロ並みだよ」


 「泰さんにそう言ってもらえて嬉しいです!」


 俺が帰ってきてからずっとニコニコしてる美来だけど、料理を褒めると更に幸せそうな顔をしている。かく言う俺も自分で分かるぐらい笑みがダダ漏れなんだけどさ。


 「何か工夫してるの? 今度自分で作る時に参考にしたいや」


 「工夫ですか? 確実に言えることは……泰さんへの愛情を込めること……です」


 「!」


 ……なるほど。それは最高のアドバイスだ。確かに俺も美来に対してできることだし。事実俺が今食べている美来の愛情が入ったすき焼きはめちゃくちゃ美味い。


 「は、話を変えましょう! 体がもっと暑くなっちゃいます!」


 流石の美来も好きを伝えすぎてオーバーヒートしたのか、恥ずかしそうにあたふたして強引に話を逸らしてきた。こう言うところも可愛いんだよな、美来は。


 「そ、そう言えば塾のお仕事はどうでしたか?」


 「あー……」


 話をしておいた方が良いのかな? 美来の同級生と思われるJKを受け持ったことを。でも美来はあまり学校が好きではなさそうだし、何より余計な心配をさせるのも良くないしなあ……。


 「……泰さん。何か悩んでますか?」


 「え」


 そう悩んでいた最中に、美来がこちらが悩んでいることを察したのか心配そうにこちらを見てきた。ああ、やっぱり美来には隠し事はできないな。


 「……まあ少し。今日から美来と同じ年の女の子を受け持つことになったんだけどさ、その子多分美来の同級生なんだよね」


 「……な、なるほど。確かに私が通ってる高校、それなりに近いですからね。お名前はなんて言うんですか?」


 「確か宮川さん……だったかな」


 「……あ。確かに同級生です。それに……同じクラスですね」


 「わお。世界って狭いなあ」


 宮川さんがサボり癖のある可愛い女の子がいるって言ってたから予想はしてたけど、まさか当たるとは。つくづく世界の狭さを感じる。


 「宮川さん……とってもスタイルがよくて、明るくて、美人で……素敵ですよね。…………」


 宮川さんを褒める言葉を発していくと、次第に美来は意気消沈してしまった。


 「どうしたの? ……もしかして、あんまり仲良くない?」


 「い、いえ! 宮川さんとは全然関わりがないので泰さんが心配するようなことはないですよ」


 それは安心して良いのか悪いのか判断しづらいなあ。まあ事実美来はあの手の人は苦手だろうし何ら不思議ではないけど。


 「……ただ、そう言う素敵な人に泰さんの魅力を知られちゃったら、嫌だなあって思っただけです」


 心細そうな顔をしながら、美来は俺のことを見てそう言った。なるほど、そう言うことか。


 「それは大丈夫じゃない? 俺別にかっこよくないし」


 何せ都会の大学生と比べたら俺は服装をそれほどこだわっているわけじゃない。同じバ先にいるイケイケな同僚と比べたらその差は歴然としている。だから生徒の関心もそっちに向くだろう。


 「そ、そんなことないです! 泰さんは世界で一番かっこいいです!」


 だけど、美来はそう思ってないみたいだ。


 「そう? それは大げさじゃない?」


 「大げさじゃないです。少なくとも私は、泰さんが一番だと思ってます」


 真剣な顔で美来はそう語る。


 「……まあ、俺が世界で一番可愛いと思ってる美来がそう言ってくれるなら、ありがたく受け取るよ」


 「! ……そ、そうやってさりげなく褒めてくれるところも大好きです」


 恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに美来は笑った。ああ、俺こそこう言うところが大好きなんだよなあ。ほんと、俺こそ世界で一番可愛い彼女を持って幸せだ。


 「だから……泰さん。他の女の子のところに行っちゃ嫌ですよ」


 「いくわけないよ。美来がいるんだから」


 「……信じてます。……それと、ご飯食べ終わったら……もう少し、一緒にいませんか?」


 「……うん、いいよ」


 俺もこうして美来と一緒にいたら、まだまだ一緒にいたくなったし。こうして俺たちは夜ご飯を食べ終わった後も、しばらく一緒にいたのだった。


  ――――――――――――


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