管理人さんと夏を涼しむ


 「暑すぎるだろ!」


 八月。太陽が意図的に人を苦しめているかのようにめちゃくちゃ暑い季節を迎えてしまった。現に俺もかなりダメージを食らっており、道端で配ってるうちわをブンブン振って暑さをごまかしてる。


 そもそもこのアパートはクーラーがない。買おうにも先月免許合宿に行ったことでバイトもできず金だけ持ってかれてしまったので金がないし……。


 「……アイスでも買おうかな」


 でも結局暑さに耐えることができず、アイスを買うことを決断した。だってこのままだと干からびて死んじまうからな。


 「さーて……あ」


 家の扉を開けていざコンビニに行かんとする時、ちょうど美来が外に出て何かしていた。


 「こんにちは泰さん。お出かけですか?」


 美来はちょっとラフな夏服を着て、何かの作業をしていたが俺に気づくと手を止めて挨拶してくれた。……はあ、こんなことでも少しドキッとしてしまった。


 「まあアイスを買いに。暑すぎるから。美来はなにしてるの?」


 「私はドアに風鈴をつけてるんです。せめて雰囲気だけでも涼むことができたらなあって」


 「おーいいね。確かに風鈴って聞いてるだけで涼しくなるもんなあ」


 「そうなんですよね。あ、もう一個あるので泰さんのドアにもおつけしましょうか?」


 「え、いいの?」


 「はい! 泰さんがアイスを買ってる間につけちゃいますね」


 「……じゃあお願いするよ」


 「任せてください!」


 美来の善意に甘える形で、俺の部屋のドアにも風鈴をつけてもらうことになった。まあこれで多少気持ちは涼しくなるだろう。というわけで俺はコンビニにアイスを買いに行った。


 「……これだな」


 少し悩んだ末に俺は買うアイスを決めて、レジでお会計を済ましてさっさと帰った。寄り道とかできる暑さじゃないし、それに……アイスが溶けたらいやだ。


 「おかえりなさい、泰さん。風鈴の方は今取り付けが終わりましたよ」


 帰るとすでに美来が風鈴をつけてくれて、風が吹くと気持ちよくて涼しい音が響いている。


 「ありがとう。それじゃあお礼と言ったら安っぽいけど……これ」


 俺はコンビニで買ったパピコを取り出して、美来に片方渡す。本当はハーゲンダッツでも奢るべきなんだろう。だけど悲しいことにそんな余裕もなく……情けねえ俺。


 「ありがとうございます! 私パピコ大好きなので嬉しいですよ! ……それじゃあ、ここで一緒に食べませんか? 部屋もどうせ暑いですし、なら風鈴の音がよく聞こえるここの方がいいと思うんです」


 「そうだね。じゃあ一緒に食べよう」


 というわけで、俺たちはアパートの廊下で一緒にパピコを食べることになった。うんうまい、やっぱ暑い日にはアイスだ。


 「そう言えば泰さん、本免でしたっけ? その試験は受かったんですか?」


 「うんバッチリ。……まー流石に仮免で落ちて本免でも落ちるのは情けなかったし」


 ……あと、美来が近くにいたってのもあるけど。


 「おめでとうございます! じゃあもう車を運転できるんですね」


 「まーそうだね。……あ、そうだ。美来って車で行ける場所で行きたいところある?」


 「行きたい場所ですか? ……たくさんありますけど、一番は憧れの写真家さんの旦那さんが経営してるレストランですね。そこの料理がとっても美味しいらしいんです。……でもいきなりどうしたんですか?」


 「……いや、この前一緒に美術館行けなかったし……代わりになるかわからないけど、一緒にどっか行きたいなあって……思って」


 アイスを食べているのに体が熱くなってしまった。しかも言葉は詰まるし。もうちょっと自然な誘い方ってのがあるだろ。はあ、これは断られても仕方がない……


 「……! 行きたいです! 絶対に行きたいです、泰さんとなら、どこでも!」


 と思っていたけど。美来は俺の予想をはるかに上回る好反応。目をキラキラ輝かしてこっちを見てくれる。……よかった。


 「それじゃあそのレストランに行こうか。まだ俺運転に自信がないし、あと金もないからすぐには行けないけど……夏休み中には間に合わせるから」


 「全然大丈夫ですよ。私の方は特に用事はありませんから。……ドライブ、楽しみにしてますね!」


 美来の屈託のない笑顔。それを見たときまたドキッとしてしまう。……どうやら俺は俺が思っている以上に美来のことが好きらしい。


 よし、バイト頑張って金を稼ぐぞ。倒れない程度に。


 「……あ、泰さん口元にアイスがついちゃってます」


 「ん? どこらへん?」


 「えーっと……ここですね」


 「!」


 美来はポケットからハンカチを取り出して、俺の口元についてたアイスを取ってくれた。不覚にも結構近い距離になってしまったのでまーた情けなくドキドキしてしまう。


 ……俺、とことんおかしくなったなあ。


 「取れました!」


 「あ、ありがとう……。そ、それじゃ美来も食べ終わったみたいだし、アイスのゴミ捨ててくるわ」


 「じゃあお願いしますね」


 一旦間を置きたい俺は、ゴミを捨てるという理由でその場から離れる。


 「……顔、熱いや」


 だから当然知るわけがない。美来もアイスを食べたにも関わらず、体が熱くなって、ドキドキしてしまったことを。そして……美来がそろそろ俺に対しての好意が抑えきれなくなってきたことを。


  ――――――――――――

 書き終わった後気づきました。涼んでないじゃんと。


 よろしければレビュー(星)やフォローをよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る