管理人さんにイタズラされる


 美来と一緒にドライブすることが決まったので、俺は金を稼ぐべくバイトに勤しんだ。夏期講習の時期ということもあって生徒もたくさんいるから仕事には困らない。……もちろん、体に無理がない程度にやるけど。


 とはいえやっぱり疲れるものは疲れる。家に帰ったらすぐに寝転んでしまう。下手したらご飯も食べずに寝てたかもしれない。


 「大丈夫ですか泰さん? また無理しちゃダメですよ」


 そんな俺を、いつもの如く部屋にやってきてくれる美来が心配してくれた。


 いつぐらいに帰るかを予め伝えているので、俺が帰った時に来てご飯を作ってくれる美来にはほんと頭が上がらない……。


 「うん、気をつける。また美来に看病してもらうわけにはいかないし」


 「そう言って無理をしちゃうのが泰さんです。また具合が悪そうになったらすぐに止めますからね」


 「あはは……ほんと気をつけるよ」


 一緒にご飯を食べながらそんな会話を交わす。にしても結構俺の性格も知られたなあ……。


 「ふう、ごちそうさま。……よし、やるか」


 ご飯を食べ終わり、食器を洗い終えると俺はカバンから持ち込んだバイトの仕事を始めようとした。まあこれは中学生の数学のテストを採点するだけだからさっさと終わるんだけど……。


 「……ふぁあ」


 眠い。めちゃくちゃ眠い。ご飯を食べ終わったあとというのもあるんだろう。眠気が酷くて全然採点が進まない。


 「泰さん、とっても眠そうですけど大丈夫ですか?」


 「うーん……大丈夫じゃない。けどこれ今日中に終わらせたいんだよねえ」


 「なら少し仮眠を取ってください。私が30分後ぐらいに起こしますよ」


 「うーん……じゃあお願いするよ」


 半分眠っているような状態の中で、俺は美来に起こしてもらうことをお願いした。そして俺は数秒で眠りについてしまう。


 「……ん」


 ふとちょっとだけ意識を覚ますと、なんか頰が何かに触れている気がした。俺の部屋は美来が来ることが多いので散らかしたりはしないし、そもそも物がさほどないから当たるものもない。


 じゃあ何が当たってるんだ? そう思ってゆっくり俺は目を少し開ける。


 「……ん?」


 うっすらと見えたのは指。どうやら俺の頰をプニプニと触っているようだ。……え、でも誰の? ここにいる人ってのは限られているわけで……。


 「……何してんの美来?」


 「ひゃあ!!!」


 眠気がそれなりにとれて、目を覚ました俺は目を開けて美来に問いかける。すると美来はあからさまにあたふたとし出した。


 「え、えっと……そ、その……泰さんのほっぺた触ってました。ご、ごめんなさい変なイタズラして起こしちゃって」


 どうやら本当に美来が俺のほっぺたをプニプニしていたらしい。イタズラっていうほどひどいことされてないしそこまで慌てなくてもいいと思うけど。


 「眠気はばっちし取れたし問題ないよ。でも俺みたいな冴えない奴の顔触っても楽しくない気がしたけど……」


 「そんなことないです! 泰さんの寝顔……とっても可愛かったもん……」


 「!」


 寝顔が可愛いと言われたこと事態初めての経験なんだけど、それに加えて美来に言われると……ずっと寝顔を見せてあげたい気持ちすら湧いてくる。


 やばい、めっちゃ嬉しい。


 「だ、だから……いっぱいプニプニしちゃいました。ご、ごめんなさい」


 「いや、そんな謝らなくてもいいよ。……でも、そんなにほっぺた触るのっていいの?」


 俺自身人のほっぺたを触ったことがない。単純に興味がなかったから。……でも、今回ので興味湧いた。


 「……触ってみます?」


 「え」


 美来は俺の手を持ってほっぺたを触らそうとしてきた。……正直、触ってみたかったので、俺は抵抗することなく触らしてもらう。


 「……ん」


 ぷにっと美来の頰を触ると、少し美来が嬉しそうに反応してくれた。それもあってか触り心地はとてもよく、美来の気持ちがわかってしまう。


 これは確かに何度も触りたくなってしまうな……。


 「どうでしたか?」


 「……確かに、これはハマる」


 「そうですよね。……もっと触って良いんですよ?」


 「……!」


 美来が甘い笑顔をこちらに見せてそう言ってくる。……なんか、ほっぺた触ってるだけなのになんかいけないことをしてる気分になるな。


 そう思ってるのにまた触った俺はもうどうしようもない。


 「……あ! 俺採点やらなきゃ!」


 このままだと沼に入ってしまうと危機察知した俺は、とっさにそういう。もう目は覚めたし、本来の目的をこなすべきだ。


 「あ! そ、そうでした! ……ご、ごめんなさい」


 「あ、謝ることないよ。……まあ、続きはいつか」


 「……じゃあ次は頭撫でて欲しいです」


 「え」


 なんか追加の要求が来てしまった。……俺も撫でてみたいけどさ。美来が物欲しそうにそれを言うので……心臓はドキドキしまくりだ。


 「……わかった。またいつか」


 「……! 楽しみにしてますね!」


 なんだか、どことなく美来が積極的になった気もしなくもない。そう思いながら、俺は採点を進めていった。


 ――――――――――――


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