管理人さんと一夜を


 「……う、うう……」


 美来は部屋に入ると俺に抱きつくのはやめたが、座りながらびくびくと震えながら雷に怯えている。どうやら相当雷の音が怖いみたいだ。


 「ほらこれ、あったかいお茶。とりあえずこれ飲んで落ち着こう」


 俺は雷を鳴り止ます事なんてできないから、とりあえずできることはなんだろうと考えた結果お茶を出すことにした。……もしかしたらもっといい方法あったかも。


 「あ、ありがとうございます。ご、ごめんなさい……迷惑をかけちゃって」


 ズズズと入れたお茶を入れながら、涙目で美来はそう言う。


 「全然大丈夫。まあ雷って怖いし、仕方ないよ。落ち着くまでここにいていて大丈夫」


 「ご、ごめんなさい迷惑をかけ……ひゃあ!」


 また雷が落ちる音がすると、美来はびくりと反応してブルブルと震え出す。これはなかなかに重症だな……。


 「本当にごめんなさい……小さい頃、近くで雷が落ちるところを見てしまった時からどうしても無理で……」


 ああ、そりゃトラウマになるな。しかも子供の時に見たってんだから怖さ倍増だ。


 「怖いものは仕方がない。まあ多分もうすぐ鳴り止むだろうし、もう少しの辛抱だよ」


 そういって俺は美来の頭をポンポンと撫でる。……な、なんか自然とこんなことしたけどキモがられてないよな……だ、大丈夫……だよな?


 「……それ、落ち着きます」


 どうやら問題ないみたいだ。美来は俺の体にもたれかかりながら、もっとして欲しいといった顔を見せてくる。……なんか、いけないことをしている気持ちになるのはなぜだ?


 「こ、こんなのがいいのか?」


 「泰さんがしてくれるから……え、えーっと……私、昔から頭を撫でられるのが好きで」


 最初の言葉が小さくてよく聞こえなかったが、まあこんなことで落ち着かすことができるのならお安い御用だ。


 そんなこんなで雷は数十分後には鳴り止んだのだが……。


 「……寝ちゃったか」


 雷に怯え続けて疲れてしまったのだろう。美来はスヤスヤと眠ってしまった。何度か起こしてみたのだが結構深く眠ってしまったらしく、起きる気配がない。


 「まあ俺が床で寝ればいっか」


 布団は一枚しかないため、美来を床で寝かせるわけにもいかないので自ずと俺が床で寝ることになる。まあそれは問題ない。


 問題は同じ部屋で寝るってところにある。……離れた場所で寝よう。絶対にないと言い切れるが、過ちがあったら遅い。


 「……ちょっと失礼」


 布団を敷くと、寝ている美来を持ち上げて布団に寝かせる。……改めて寝顔を見ると、ドキッとしてしまうぐらい可愛い。天使がここにいると言われても違和感がない。でもきっと俺以外の男誰もがそう思うだろうから……特別な意味はないはずだ。


 「さてと、俺もさっさと寝よ」


 俺はちゃぶ台を美来との間に置き、硬い教科書にタオルを敷いて横になった。寝心地は最悪だし、夢に経済学が出てきそうだが文句は言ってられない。


 「……泰……さん」


 「ん?」


 寝ようとした矢先、美来が俺を呼ぶ声がした。もしかして目を覚ましたのかなと思って一旦見に行ってみたが、美来の目は閉じたままだった。


 どうやら寝言で俺のことを呼んでいたらしい。一体どんな夢を見てるんだ?


 「……しっかし俺なんかの夢を見てもねえ」


 美来は俺のことを信頼してくれてるんだろう。だからこんな平気で顔見知りとはいえど男の部屋で眠ってしまったのかもしれない。……少なくとも、美来が他の男にもこうだとは考えにくいし。


 「……まあ、俺こそこれ以上ないぐらい頼ってんだけどさ」


 きっと美来がいなければ俺の大学生活は体を壊しまくって上手くいかなかっただろう。だからこそ美来には感謝している。


 「……俺も、もっとしっかりしないとな」


 だが頼りすぎも良くないわけで。俺の方が年上だし、もっと美来から頼りにされるような人間になりたい。


 「……ま、今日は寝よう」


 そんなことを決心したところで、俺も眠くなってきたので寝床に戻る。


 「……泰……さん……す……」


 そんな時、また美来が寝言を言った。すってなんだ? すき焼き? そういえば長らく食ってないな……食べたくなってきた。いや、ここで腹を空かせてどうする。さっさと寝るぞ俺。


 そうして俺は眠りについた。意外と教科書でも眠い時には眠れるらしい。ちなみに、美来は俺が寝付いた後、浅い夢の中でこう呟いてしまったらしい。


 「……泰さん……大好き」


 当然、すをすき焼きと勘違いする馬鹿な俺がこの時それに気づくわけがない。それを知るのは……もっと先の話だ。


 ――――――――――――


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