管理人さんとレポート作成
大学生になって変わったことはたくさんあるけど、その中の一つにテストの方法がある。高校までは必ず先生の作ったテストを解いてその結果を元に成績をつけられていたが、大学になるとレポートという方式がある。
レポートは何かと早めにテーマを発表され、それなりに猶予のある期間の中で作り上げるわけなんだけど……。
「……終わらない」
大学に入って初めてのレポート作成をする俺は、大苦戦を強いられていた。別に期限が迫っているわけではないのだが……多分、このままだと永遠に悩み続ける羽目になりそうだ。
「……そもそも家だと集中できないのかもなあ」
家でコツコツやろうと計画していたのだが、進んでいないのでそういう結論に至る。まあお金に余裕のある大学生は優雅にカフェでレポート書くって聞くしなあ……俺もカフェ行きたい。たまにはかっこつけたい。
もちろんそんな金がないから家でやってんだけど。
「大学の図書館もなあ……」
だったら大学の図書館でやれよって話だけど……静かすぎてあんまり好きじゃない。……うーん、悩ましい。レポートと同じぐらい悩ましい。
「ん? ……あ、もうこんな時間か」
部屋のインターホンが鳴り、ふと時計を見てみるともうもうそんな時間だった。
「こんばんは、泰さん」
俺が扉を開けると、そこにはいつも通り美来がいた。最近はわざわざここで料理を作ってもらっているから、もう部屋に入れることも躊躇しなくなった。
……まあ、よき隣人としての関係だからこそここまでできるんだろう。
「こんばんは。今日もありがとう」
「いえいえ。泰さんには健康でいてもらいたいですから。……あれ、今ってお勉強の最中でしたか?」
「うーんまあ。大学の課題レポートを書いてたところ。一文字も書けてないけど」
「なるほど。確かにレポートって大変そうですからね、どんなテーマなんですか?」
「日本経済と海外の比較について」
「……難しそうです」
美来はレポートのテーマを聞いてキョトンとしてしまった。事実俺もあんまりわかってないから苦戦しているわけで、難しいテーマを与えられてしまったと思う。まあその分期間は長く与えられてるけど。
「じゃあお邪魔にならないように私の部屋で料理を作った方がいいですか?」
美来は気を使ってくれてそう提案してくれる。……でも実際今まで一人でやってても何の進歩もないのが現状だ。なら。
「いや、大丈夫。美来が良ければここで料理を作って欲しい」
美来にいてもらった方がいい。誰かいた方が捗るかもしれないし。
「そうですか? ならここで作っちゃいますね」
というわけで美来が料理をしている中、俺はレポートを書くことになった。……あれ、意外と進む。美来が料理を作る音がちょうどいい効果音となっているのかもしれない。
それと、妙に落ち着ける。……近くに美来がいるから? いやいや、それは関係ないだろ。……多分。
「泰さん、もうすぐ晩御飯できますよ」
「オッケー。今片付けるね」
晩御飯が出来上がることには結構な文字数を書くことができた。これなら期限に間に合わないなんてこともなさそうだな。
「どうですか、進み具合は?」
「結構進んだよ。これなら終わりそう」
「それは良かったです! それじゃあ食べましょうか」
そして今日も相変わらず絶品な美来の晩御飯を食べさせてもらい、洗い物を一緒にやってまたレポートに取り組む。ちなみに美来は何やら取りにくるものがあるらしく、一旦自分の部屋に戻っていった。
「……あれ、さっきまでいい感じで進んでたんだけどな」
間を空けたからか、また進みが悪くなった。うーん、やっぱ勢いって大事なのかなあ、それとも……美来がいないから? いやいや、そんなわけない。人のせいにするな俺。
「泰さん、コーヒーを持ってきました。もしよろしければお入れしましょうか?」
レポートに詰まっていた中、美来が戻ってきてコーヒーを持ってきてくれた。
「じゃあお願いするよ」
「はい! ちょっと待っててくださいね」
美来はふんふんと可愛らしく鼻歌を歌いながらコーヒーを淹れてくれた。……あれ、なんかまたいい感じに進み出した。
……やっぱ俺、美来がいた方が集中できるんじゃないか?
「お待たせしました。ここに置いておきますね」
「ありがとう。……そ、それとさ……もし良ければ、しばらくここにいてくれないかな。あ、あと30分だけ」
我ながら年下、しかもJK相手になんてことを頼んでいるんだと思う。けど美来がいると落ち着けるのは確かだし……もう少しだけ、いて欲しいと思った。
「……はい! 全然構わないですよ。……私も、一緒にいたいので」
「……え?」
なんかいま一緒にいたいとか聞こえたような……。
「あー! え、えーっと……た、たまにはもっと一緒にいたいなーってことです!」
「……そ、そうなんだ」
なんかあんまりニュアンスが変わってない気もするけど……ま、いっか。細かいことは気にしない。気にしても美来が困るだけだろうし。
というわけで俺は美来に見守れながらレポートの作成を進めていった。結局美来は30分過ぎてもいてくれて、奇跡的に1時間でレポートは終わった。多分これ以上の成果はない。
「今日はありがとう美来。いてくれたおかげでレポートが終わったよ」
「そ、そんな……私は別に何もしてないです」
「いやいや、側にいてくれたし。それが助かったんだよ」
「そ、そうですか……? な、なら良かったです! お役に立てて」
美来は顔を赤くして笑顔でそう返した。
「それじゃあおやすみ」
「はい、おやすみなさ……」
お互いに就寝の挨拶を済ませようとした時、ゴロゴロと雷の音がした。あー、もしかしてこれから雨が降るのかな? 窓とか閉めておかない……え?
「か、雷……!」
「ちょ!? み、美来!?」
雷に怯えてしまったからか……美来は俺の体をぎゅっと抱きしめて離さない
「……も、もっと……い、一緒に……いてください」
ついで、怯えた表情をしながらこの言葉。……こんなことされたら、一緒にいないわけにはいかない。
「……わ、わかった」
そんなわけで、また美来が俺の部屋に入ってきた。……え、これ一晩過ごすこととかには……ならんよな?
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