管理人さんの誕生日


 プレゼントを買って、迎えた美来の誕生日当日。ここ数日プレゼントの気配に気づかれないため必死に隠し通してきたが……それもようやく今日で終わる。


 ただ、当日を迎えるとそれはそれで悩み事というものがあって。それは一体どこのタイミングで渡せばいいのかってことだ。朝渡そうと思ったけど、俺が臆病であるため結局渡せず学校に行った。


 そして夕方。今日は塾のバイトもないので早めに帰ることはできたが……いつ渡すかは一向に決まらない。


 「……やばいな」


 多分このまま延々と考えていたら絶対渡せない。今日渡すことに意味があるんだ、翌日に持ち越しなんてしたらもう俺は愚か者の極みだ。となれば……もうここで覚悟を決めてしまおう。


 「……よし」


 俺は自分の部屋の玄関前で気合を入れ、美来の部屋のインターホンを鳴らす。プレゼントはちょっと大きいので、一旦自分の部屋に置いてある。


 「……」


 だが返事が返ってこない。ああ、もしかしたらまだ学校から帰ってないのかもしれないな。よし、それじゃあ後で改めて渡すことにしよ


 「あれ、どうしたんですか泰さん?」


 「う、うわあ!」


 うと思った矢先。自分の部屋に戻ろうと振り向いてたらちょうど家に帰宅した美来がきょとんとした表情で話しかけてきた。な、なんてタイミングなんだ……。


 「そ、そんなに驚かなくても……」


 「い、いやーまあちょっと」


 「それにしても泰さんから私の部屋にインターホン鳴らすなんて珍しいですね。何かありましたか?」


 「え!? えーっと……」


 おいおい俺、ここで逃げてしまったらもう渡すタイミングなんてないぞ。ここが勝負どころだ。もういい加減に覚悟を決めろ!


 「……ちょっと一旦美来の部屋で待っててくれないかな? 取ってくるものがあるから」


 「え? わ、わかりました」


 意を決して、一旦美来には部屋に行ってもらい、俺は自分の部屋に戻ってプレゼントを取りに行く。ここまできたんだ、あとは渡すだけ……渡すだけ……。


 そして俺はプレゼントを持って美来の部屋のインターホンを鳴らす。


 「お待たせ」


 「いえいえ……あれ? それは……」


 「この前、たまたま学生証を見たときに知ったんだけど……今日、誕生日なんだろ? だから……プレゼント渡そうと思って」


 「……! そ、そんな……わ、私、別に誕生日とは祝わないので気にしなくてよかったのに……」


 美来は予想外の展開だったこともあり、驚きを隠しきれずにいた。予想通り誕生日を自ら祝ってもらおうとはしてなかったようだから、美来にとって余計なお世話だったかもしれないけど……。


 「やっぱり誕生日は誰かに祝ってもらった方がいいかなって思ったんだ。……それに、俺が美来の誕生日を祝いたかったから」


 やはり理由はそれに尽きる。


 「……あ、ありがとうございます! ……私、誰かに誕生日をお祝いされたの久しぶりなので……ちょっと感動しちゃいました」


 「まあプレゼントが美来のお気に召すかが……少し心配だけど」


 「きっと大丈夫ですよ。泰さんが選んだものなら、私はなんだって嬉しいです」


 「そ、そう言ってもらえるとこっちが嬉しくなるな……。まあ、これがプレゼント」


 「わあ! 二つもあるんですね」


 俺が持ってきた大きい箱と小さい箱を見て、美来は目をキラキラと輝かせる。最初はぬいぐるみだけだったのだが、あのあと由佳からラインが来てコスメを買っておけと言われたので、追加となった。


 コスメはどうやら鉄板らしい。……やっぱあいつ俺の選んだぬいぐるみじゃやばいと思ったんだろう。


 「あ、開けてもいいですか?」


 部屋の中に入り、うずうずしながら美来は聞いてきた。


 「もちろん」


 「そ、それじゃあこの小さいほうから……あ、コスメですね!」


 「女の子に渡すならこれが無難だって話を聞いたけど……俺全然詳しくないから自信ないんだけど、これでよかったかな?」


 「全然問題ないですよ! ありがとうございます。それじゃあこっちの大きな箱も開けますね」


 そして美来はもう一つの方、大きい箱を開け出す。……今更ながらすごく不安になってきた。あの時はなんかピーンと来てこれしかないと謎の確信をしてしまったけど、よく考えたら変な像のぬいぐるみだし……。


 「……!」


 美来は箱の包装を外し、ぬいぐるみとご対面した。


 「ど、どうかな?」


 「……!!! か、可愛いです!」


 どうやら俺は余計な心配をしていたようだ。美来はぬいぐるみを見るやぎゅっと子供のように抱きしめて、天使のような柔らかく、そして無垢な笑みを浮かべる。


 その姿に、俺の心臓がドクンとしてしまったのは……きっと、あまりにも美来が可愛かったからだろう。たとえ恋愛感情がなくても、この姿を見てしまったらそうせざるを得ない。


 「これ、泰さんがラインのトプ画にしてる像ですよね。……私、すごく好きだったので、すごく嬉しいです!」


 「よかった……喜んでもらえて」


 俺はホッと胸をなでおろす。


 「……きっと私、これからこれ以上の誕生日がない気がします」


 「そ、そんな大げさな」


 「本当ですよ。……だって、それぐらい素敵なプレゼントでしたから」


 「……そう言ってもらえると光栄だよ」


 「ふふっ。それじゃあお夕飯の準備をしますね。……あ、そうだ。後で泰さんの誕生日も聞かせてくださいね」


 「え! い、いや別に俺は……」


 「私がお祝いしたいんです」


 「……わかった。後で教える」


 こうして、俺の美来への誕生日プレゼントを贈る計画は無事成功を収めた。ちなみに、のちに俺たちは何度もこれ以上ない誕生日を一緒に過ごすのだが……それはまだまだ、先の話。

 

 ――――――――――――


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