管理人さんへのプレゼントを買いに行く


 美来の誕生日を知った翌日、俺はお互いに学校に行く前の朝ごはんの最中に、さりげなく欲しいものがないか聞いてみた。しかし……。


 「欲しいもの……ですか? うーん、特にはないですね」


 といった反応だったので、答えを得ることができなかった。せっかくの誕生日なのだからサプライズにしたいので、それ以上追求することはしなかったけど……これだと俺のセンスがものを言うことになる。


 「うーん……」


 だが俺ははっきりいってプレゼントのセンスがない。元カノの由佳にもプレゼントを渡した際、そう言われてしまうほどだ。なので俺は大学の授業中、ずーっとどうしたものかと考えていた。


 「どうした丹下。なんかずっと悩んでるみたいだが」


 側から見てもぼんやりしていたのだろう。授業が終わると田中が話しかけてきた。


 「まあ……ちょっと誕生日プレゼントを渡したい相手がいるんだけど、何を渡したらいいのかなあって悩んでて」


 「……オメーまさか女か? ああ?」


 「ち、違う! た、確かに渡す相手は女性だけど、決してそう言う間柄ではない!」


 「ほお……。まあこれ以上追求はしないでやろう、俺が俺でいられなくなりそうだからな」


 「よかった……。あ、そうだ。田中はプレゼントを渡すなら何にする?」


 何かと女に縁がない田中ではあるけど、そう言う奴ほど意外と知っていることもある。なので俺は田中に聞いてみた。


 「無難に飲み物とかだろ」


 「……誕生日に?」


 「ああ」


 ……聞いた相手が悪かった。他の奴にも聞いてみよう。


 と言うわけで他の友人にも聞いてみたのだが、どれもこれも参考にならない回答ばかり。……よく考えたら俺らの学校は女子との関わりを持っている人があまりいないのだから、期待するべきじゃなかったんだ。


 仕方がないので、俺はとりあえず駅前にあるお店をふらふらと回って何かめぼしいものがないか探すことにした。


 「……あ」


 「……えーまたこんな風に出会うの〜」


 なんと言うか、会いたくない人ほどひょんなことで出会ってしまう。お店でプレゼントを見ていると、偶然元カノの由佳がそこにいた。


 「私としては泰から連絡してきてくれて会うのが一番いいんだけどなあ。ま、あの後一切連絡くれなかったからまた避けてたんだろうけど」


 「……その通りだよ。そもそもどうしてここにいるんだ」


 「どうしてって……私が通ってるのこの駅から数駅先にある戸田塾大学だよ? だから住んでるところも割と近いんだ〜。てか前に合コンの時に紹介したでしょ」


 「……聞いてなかった」


 「ひっど!」


 だってこっちとしてはこれから会わないはずだった人と予想外の場所で出会っちまったんだから……頭がショートしてた。なので一切話の内容とか覚えてない。


 「ま、そんなことはいいや。それよりも泰は何してるの?」


 「え、えーっと……ちょっとお世話になってる人に誕生日プレゼントを渡そうと思って」


 「それって前に言ってたおすそ分けをくれる管理人さん?」


 「よ、よく覚えてたな。そうだよ」


 「まーたまたまね。ふーん、でも恋愛感情ないとか言ってたじゃん」


 「お、お世話になってるんだから別に渡してもおかしくないだろ!」


 「まーね。んでここで選んでるわけか。……じゃあ私も手伝ってあげよう! 泰もの選ぶセンスないし」


 「……え」


 思わぬ由佳の提案に、俺はキョトンとしてしまった。だがよく考えてみれば、女性の由佳がオススメしてくれるものの方が喜んでもらえるかもしれない。


 「……じゃあお願いするよ」


 なので俺は一緒に選んでもらうことにした。


 「よしきた! それじゃあまずはこの店から出ようか!」


 「え、まだ見てないものもあるんだけど」


 「だってこの店古本屋でしょ! 女の子の誕生日に渡すものじゃないからね!」


 「いや何かレアな本とかあるかもしれないし」


 「大丈夫! それ求められてないよ!」


 そう言って由佳は俺を古本屋から連れ出し、何やら可愛らしいぬいぐるみとかがあるお店に連れて行かれた。こういうお店初めてだからなんか緊張する。


 「この中から選べば多分ハズレはないよ。……ってそういえば歳聞いてなかったね。管理人さんの歳っていくつ?」


 「……」


 ここ、正直に答えるべきなんだろうか。……まあ嘘をついても仕方がない。


 「確かまだ高校二年生」


 「そっかー高校二年生かー若いねえ……え? 管理人さんが?」


 「なんでもお母さんの代理でしてるらしい」


 「なるほどねえ……。つまり泰はJKからおすそ分けをもらっていると」


 「い、言い方どうにかならないか。別に……下心があるわけじゃないし」


 「それは知ってるよ。泰はそこらの大学生と違って下半身で息してるわけじゃないからね。まーとなると……ここら辺のコーナーがいいんじゃない?」


 そう言って由佳が指差すところには、可愛らしいクマのぬいぐるみとかが置かれていた。なるほど、確かに女子ってああいうのが好きだよな。


 でも何が一番喜んでもらえるかな。これとか……いや、あれも捨てがたいし……。


 「……良い顔してるね」


 選んでいる最中、ふと由佳がそう呟いた。


 「? そうか?」


 「うん、少なくても私たちが別れる前よりもずっと」


 「そ、それは……時期が悪かったからだろ」


 「まあそれもあるだろうけど。でも……いや、いいや。終わったことを振り返ってもいいこと無いし」


 何か由佳は言いたげだったけど、本人が言わないと決めたので俺はそれ以上聞かなかった。……俺も、あんまり思い出したく無いし。


 「……こ、これは!」


 「ん? いいのがあった……ってこれ、私らの地元にある変な像じゃん。ぬいぐるみになってたんだ……(誰が買うんだこんなの)」


 そう、どういうわけかうちの地元にある変な像が、なんとぬいぐるみ化していたのだ! 確か連絡先を交換した時、美来は結構好きそうな反応をしていた……よし!


 「これにする」


 「……………」


 「なんだよ?」


 「……ま、まあいいんじゃないかなー」


 心なしか、由佳はあまりいい反応を見せていないように見えた。まあ実際これは変な像だ、好きな人はあんまりいないだろう。けど俺は、これが美来が喜んでくれそうだと思ったから、これにした。


 「今日はありがとう。助かったよ」


 買い終わった後、俺は由佳にお礼をいう。


 「別に大したことはしてないよ。管理人さん、喜んでくれるといいね。それじゃあ、また」


 由佳は手を振って駅の方へ向かっていった。……また会いたくはないけど。


 ――――――――――――


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