管理人さんと朝ごはん
母親の襲来によっていろんなことがあった昨日、結局あの後は管理人さん……もとい美来に寝て早く体調を万全にしなさいと言われたのでその通りにし、夜にはもう熱も下がったので一人で居られると判断され、美来も自分の部屋に帰っていった。
そして翌日。
「おはようございます泰さん」
「……お、おはよう。あ、あれ……その格好は一体?」
日曜日の早朝。美来はエプロン姿でうちにやってきた。
「朝ごはんを作ろうと思いまして」
「……そ、それはありがたいけど、随分といきなりというか……」
「泰さんのお母さんから健康を見守ることを任されましたから。それに昨日、ラインでこんなメッセージが来たんです。【もしかしたら泰は朝ごはんを食べていないかもしれない】って」
「……う」
さすが母さん。俺が朝ごはんを食べない習慣があることを見抜いてやがる。……だってめんどくさいんだもの、朝ごはん作るのも食べるのも。
「思えば私、泰さんに朝ごはんのおすそ分けは渡していませんでした。なので今日から……迷惑でなければ、なるべく近くで朝ごはんを作ろうと思いまして」
なるほど、そういうことだったのか。……確かに、美来が朝ごはんを作ってくれれば俺としても助かる。けれどまたそんなにお世話になるのは……という気持ちもあるわけで。
でも美来はきっとこういうに違いない。「私がしたいからするんです」って。だから……。
「わかった。ありがとう、助かるよ」
俺は素直にその善意を受け取ることにした。
「じゃあ早速作りますね。今日はオムレツを作ろうと思っているんですけど、それで大丈夫ですか?」
「もちろん」
「よかった! それじゃあ台所お借りしますね」
そういうわけで、美来は俺の部屋で朝ごはんを作り始めた。……まあ、風邪をひいた時もここでおかゆを作ってもらったから何を今更って感じだけど、エプロン姿をしていると……なんか、こう、ドキドキしてしまう。
って何を考えているんだ俺は! いけないいけない、変なことを考えるな。とりあえず俺はちゃぶ台の上を片付けて準備しておこう。
「昨日はいろいろありましたね」
美来は料理をしながら、俺に声をかける。
「……あー。確かに、ごめんね、うちの母さん馴れ馴れしくて」
「いえいえ、素敵なお母さんだと思います。それに、母の温もりみたいなものも感じられましたから」
「ただうるさかっただけだと思うけど」
「それも母の温もりだと思います。私は一年ぐらい自分の母と会ってませんから、ちょっと心がポカポカしてしまいました」
「心がポカポカ……」
「あ! え、えっと、その……へ、変な言い方でしたか?」
「いや、可愛い言い方だなあって」
「う、うう……き、聞かなかったことにしてください」
美来は恥ずかしがってしまい、そんなことをいう。でも本当に可愛い言い方だなあって思ったんだけど……まあ本人が嫌だっていうならこれ以上あれこれいうのはやめとこ。
「そ、それよりもそろそろオムレツが出来上がりますよ。もう少し待っててくださいね」
そう言って美来は手際よく料理を作っていく。卵が焼ける音はなかなかに心地よくて、それを作っているエプロン姿の美来の後ろ姿を見ていると……。
「……これが奥さんを持つってことなのかな」
ふとそう思った。別に美来に対してそう言った恋愛感情を抱いているわけではない。ただ、この状況はなんだか……そんな場面に見えてしまったのだ。
「……ふぇ?」
あれ、なんだか美来が顔を真っ赤にしてこちらを振り向いている。……え、まさか。
「い、今の……聞こえてた?」
「……はい」
美来はゆっくりと縦に首を振る。
「……」
う、うわあああああああ! な、なんてことをしてしまったんだ俺は! やばい……穴が入ったら今すぐ入りてえ。
「ち、違うから! 今のはついそう思っただけで……特に深い意味とかないから!」
慌てながら俺は弁明をしていく。我ながら情けないぐらいあたふたしているが、あらぬ誤解をさせてしまってはいけないからこれぐらいしなければ。
「……そ、そうですよね。すみません、変な誤解をしちゃって」
「い、いやこっちこそ」
なんとか誤解は解けたようだ。よかった……。
「では朝ごはんにしましょう」
そう言って美来はオムレツを盛ったお皿をちゃぶ台に乗せて、ご飯を食べる準備を整える。
「わあ……美味しそう」
それを見て、思わず俺はよだれが出てしまいそうになる。特にふわふわとしている卵が食欲をそそるのだ。
「しっかり食べて元気をつけましょうね」
「もちろん。それじゃあいただきます!」
食前の挨拶を済ませ、オムレツを食べ始める。やはり美味しくて、ふわふわの卵が口の中でとろけて、幸せな気持ちになれる。
「本当に、泰さんは美味しそうに食べてくれますね。見てると嬉しくなります」
「それも料理が美味しいからだよ」
「そう言ってもらえるともっと嬉しいです。……あ、そういえば美味しいパンがうちにあるんですよ。今取ってきますね」
そう言って美来は一旦席を外して自分の部屋に戻っていった。
「……ん? これって学生証?」
ふと床を見ると、美来の学生証が落ちていた。さっき立ち上げる際に落としてしまったのかもしれない。戻ってきたら渡せばいいだろう。
「……あれ、この日って」
つい誕生日を見てしまったのだが……なんと偶然。それは明後日だった。一切そんなことを言われなかったので、全く知らなかったけど……。
「……何かプレゼントした方がいいよな」
知ってしまった以上、お世話にもなっていることで俺はそう思った。
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