管理人さんとテスト勉強


 「丹下くん、これからしばらくシフトを増やしてもらうことってできるかな?」


 塾のバイトが始まる前、塾長からそう声をかけられた。


 「大丈夫ですけど……何かあるんですか?」


 「もうすぐ近くの中高で中間テスト期間に入るから、生徒のコマ数も増えていくんだ。だからシフトを増やしてほしいと言うわけだよ。特に丹下くんは生徒の評判がいいから尚更お願いしたいんだ」


 そうか、もうそんな時期になるのか。去年まで高校生だったから中間テストのめんどくささは鮮明に覚えている。それと、中間テストで結果を出した時の喜びも。


 「了解です。じゃあ今からの授業が終わった後に増やす分を教えてもらっていいですか?」


 「ありがとう! それじゃあ後で伝えるよ」


 と言うことでこれからしばらくバイトのシフトを増やすことになった。まあまだ大学の授業もそれほど難しいことをしているわけではないし、増やした分給料ももらえるから特に問題はないだろう。


 よし、生徒がいい成績を取れるよう頑張ろう。


 そしてあっという間に授業が終わり、増やす分のシフトも決まり俺は帰宅した。思ってたよりシフトの数が多くなってしまったが……まあ若いしなんとかなるはず。とぼんやり思いながら歩いていると家に着いた。


 「ふう、疲れた」


 部屋の中に入ると、荷物をおいて床にゴロンと寝転ぶ。家に帰ると疲れがどっと出てしまってついこうしてしまうんだ。


 「……あ」


 そんな風にゴロゴロとしていると、ピンポンとインターホンが鳴る。きっといるのは……。


 「こんばんは、丹下さん」


 管理人さんに決まってる。大体バイトがある日は決まっているので、管理人さんはそれを覚えておいてくれて、なおかつ終わった頃合いにおすそ分けを渡しに来てくれる。ほんと、俺にはもったいないぐらいいい人だ。


 「こんばんは管理人さん。すみません、今日もおすそ分けもらっちゃって」


 「いえいえ、丹下さんこそ毎日ちゃんと食べてくれてるみたいですし、私としても作りがいがあります。それにアルバイトも大変そうですし、少しでも力になりたいですから」


 「ほんとありがとうございます。まあこれからしばらくシフトも増えるのでもっと頑張らないといけないですけど」


 「お仕事が増えるんですか?」


 「近くの中高でもうすぐ中間テストの期間に入るらしいんで生徒のコマ数も増えるらしいんですよね。……あ、となると管理人さんも中間テストが迫ってますか?」


 「う……そ、そうです」


 苦い顔をして管理人さんはこくりと頷く。おそらく中間テストに自信がないのかもしれない。実際前に勉強を見たとき、あまり勉強ができるようには見えなかったし。


 「じゃあもし管理人さんがよければ……俺が勉強見ましょうか?」


 だから一つ提案をしてみる。


 「え!? そ、そんな……丹下さんにまたご負担をかけるわけには」


 「俺こそこうしてほぼ毎日おすそ分けをもらってますよ。だからまた恩を返したいんです。いいことをされたらいいことを返していった方がお互いのためにもなるでしょうし……も、もちろん管理人さんが余計なお世話だと思ったら話は別ですけど」


 「そんなこと……あるわけないです。そ、それじゃあまた、お願いしてもいいですか?」


 「もちろん! じゃあ今からします? それとも違う曜日にします?」


 「今からでも……大丈夫ですか? ちょうどわからないところがあったので」


 「オッケーです。じゃあ場所は……」


 「……丹下さんの部屋でも大丈夫ですか? これからおすそ分けをお渡しする時に、勉強も教わりたいので」


 「なるほど、その方が楽ですし大丈夫ですよ」


 よかった、変なものとかまだ買ってなくて。まあそもそも管理人さんには荷物の整理を手伝ってもらったから今更なところはあるけど。


 「ありがとうございます! それじゃあ勉強道具持ってきますね」


 そういって管理人さんは一旦勉強道具を取りに自身の部屋に戻る。さてと、その間に俺もペンとか用意しとこ。


 「お待たせしました」


 お隣さんなのであっという間に管理人さんはやってきて、勉強会が始まる。


 「ここがわからなくて……」


 「なるほど、この英文は………………って風になってるんで………………こういう意味になると思いますね」


 「! そうだったんですね……だとこの英文も同じように解けばいいですか?」


 「そうです! それを意識して問題を解いていってください。わからないところがあったらすぐにいってくださいね」


 「はい!」


 今回管理人さんに教えたのは英語だったが、前回の数学よりはできているものの穴があるのは確かだった。でもきっと地頭がいいのだろう、俺が教えたことをすぐに吸収してくれていってくれる。


 「いい感じですね。このペースで続けていけば英語はいい点取れるようになるかもしれないです」


 「ほ、本当ですか?」


 「はい、きっと管理人さんならできますよ。俺も管理人さんがいい点取れるよう精一杯教えるんで。……あ、も、もちろん俺が教える生徒全員にいい点取れるよう指導してますけど」


 なんか管理人さん限定にしてしまうと変な意味に捉えられてしまうかと思い、言葉を付け足した。……余計な心配かな?


 「ありがとうございます。それじゃあ私も丹下さんに教えてもらったことを無駄にしないよう頑張りますね」


 そうしてもう少し教えて時間も時間だったので、俺たちは勉強会をおひらきにした。


 「……うま」


 そしてその後にもらったおすそ分けを食べたが……なんか、前よりも美味しくなってる気がするのは……気のせいなのだろうか。


 ――――――――――――


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