合コンで、元カノと出会う


 「……はあ、なんでこうなるんだ」


 「まあまあいいじゃねーか。パーっとやろうぜ」


 大学が終わり、数日ぶりにサークルに顔を出したらなぜか女子大との合コンに参加させられることになった。どうやら俺が来ていない間に勝手に話が進んでいたらしい。


 「そもそもなんで俺が参加することになってるんだ」


 「そりゃあいつもバイトばかりのお前を労ってのことだ」


 「嘘だ」


 「……し、仕方ないだろ! 他のメンツ見てみろ、どいつもこいつも俺みたいに男子校出身でろくに女子と喋れない奴らだぞ? だったら恋愛経験豊富なお前を呼ぶのは当たり前だろ」


 「あのな……俺は豊富なんかじゃないぞ。……確かに一人付き合ってた人はいるけどさ」


 「一人いたらもう経験豊富なんだよ!」


 「無理があるからなそれ!」


 女性に対してちょっと過度な思いを抱きすぎなのではないだろうか。


 「にしても全然相手はこないけど、本当に来るのか?」


 「く、来るはずだ。もし来なかったら……泣く。俺ら全員で奴らの大学前で号泣しようぜ」


 「それはマジで勘弁してくれ。……ちょっとトイレ」


 一旦俺は席を外し、店のトイレに向かう。そういえば管理人さん今頃どうしてるかな。連絡先を知っていれば今日はいないことを伝えられるのだが……なんかそれだと下心があるとか思われてしまうのが怖い。


 ……俺は一回女性関係で失敗してるからなおのこと。


 なんてことをトイレでぼーっと用を足しながら考えてしまった。まあ今日はせっかく誘ってもらったんだし楽しめるだけ楽しもう。


 「ふう……あ、す、すみません……え」


 「……え、ええ!? こ、こんな偶然ある!?」


 手を洗って少し呼吸を整えた後、扉を開けるとちょうど女子トイレの扉も開いて人とぶつかってしまう。すかさず俺は相手に謝罪をするが……その人物は、俺にとって関わりの深かった人だった。


 「ど、どうして由佳がここに……」


 俺がこの場であった人物は高田由佳。高校時代、俺と付き合っていた元彼女だ。高校の時と違い、ショートカットの毛先を少し青色に染めていて、そして女子大生によくあるワンピースを着ていたけど、付き合いが長かったからかすぐわかった。


 「うーん、これから三橋大学の人たちと合コンなんだけど……いやー、泰はいないと思ってたよ。まあどうせ参加してくれって頼まれたから来たんだろうけど」


 「……その通りだ。それにしても由佳が東京の大学にいるだなんて知らなかったよ」


 「だろうね。だって泰、私と別れてから一切関わろうとしてこなかったもん。私だって東京行くことが決まった時結構騒がれたからどこかで聞いてるはずだよ? よっぽど私を避けてたんだね」


 「……」


 間違いない。高校三年の夏、俺たちは長年続いた交際にピリオドを打ったわけだけど、それ以来俺は自分の勉強に打ち込んでいたこと、そして何より関わることが怖かったから。だから俺は一切由佳の卒業後の進路について知らなかった。いや、知ろうとしなかった。


 「私さ、なんだかんだ大学入っていろんな合コンに参加してるけど……やっぱ泰って相当いい男なんだなって実感したよ」


 「……いきなりなんだよ」


 「泰ってさ、いつでも優しいし勉強もできるから頼りになるし。でも生活力がないからたまに母性をくすぐってくれるところもあるからー。絶妙なバランスだったんだなーって」


 「……ほ、褒められてるのか?」


 「うん、一応」


 全然褒められた気はしないが、由佳は何かと言い方がきついのでそれが原因だろう。


 「でも安心したよ。泰ってほんと生活力ないから無事に生きてるのかなあって思ってたけど、すごく顔色もいいし全然問題なさそうだね」


 「……そ、そうか?」


 「そうだよ。多分高校の時より顔色いいよ。どしたの? もうこっち来て彼女でもできた?」


 「……できるわけないだろ。俺が住んでるアパートの親切な管理人さんからおすそ分けをもらったりしてるから、それで食生活は助けられてる」


 「ほへーこっちにも親切な人がいるもんだ。ちなみに男、女?」


 「……女」


 「へー。恋愛感情は?」


 「な、ない!」


 由佳には言えないが管理人さんはまだ高校生。恋愛感情を持つと色々とまずいし、そもそも管理人さんに恋愛感情を抱いていない。……感謝はしてるけど。


 「ふーん。なら良かった」


 「よ、良かった?」


  由佳は少しクスリと笑ってそういう。一体何が良かったのかさっぱりわからない俺はキョトンとした表情で問いかける。


 「ねえ泰。私とよりを戻さない?」


 「……は?」


 狭い通路で、由佳は一歩俺に近づいてそういう。思わず俺は声に出して間抜けな声を出してしまうぐらい、その発言に驚いてしまった。……一体どういうことだよ。


 「高三のあの時はお互いにうまく行かなかったし、受験もあったから別れちゃったけど……今はもうお互い大学一年生。付き合い始めた時に戻れると思うんだよね。どう?」


 「……」


 確かに高三の時みたいに色々と人生の分岐点に立たされているわけじゃない。今は比較的自由だ。でも、あの時俺は由佳から別れようと言われた時……


 心の底から、安心してしまったんだ。


 「……無理だよ。俺はもう彼女は作らない」


 「……そっか。でも気が変わったらまた連絡してよ。私に彼氏がいなかったらいつでも大歓迎!」


 「……相変わらず自由だなあ」


 「それが私だもん。そんな私のこと、昔は好きだったでしょ?」


 「……そうだな」


 「さてと、そろそろ泰のお友達も待ってるだろうしいこうか。こっちの連れもそろそろ来るし。じゃあまたね」


 「……ああ、また」


 先に由佳が座席に向かい、俺は少しタイミングをずらしていった。その後俺たちは何事もなかったかのように、他人のふりをして合コンをしていたのだが……俺の方はご飯の味が一切しないほど、気まずかった。


 ――――――――――――


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