管理人さんとスーパーでお買い物


 「……何を買えばいいんだ?」


 日曜日の夕方。大学もバイトもない俺は近所にあるスーパーに足を運んだのだが、そこでかれこれ数十分悩み続けている。


 そもそもどうしてスーパーにいるのかというと、それは単純な話だ。俺が自炊をしようと決めたから。


 今まで管理人さんが美味しいおすそ分けをくださってくれてるおかげで俺の健康状態はすこぶるいい。だけどやっぱり頼りっぱなしというのは良くないよなあ、と思ったのがことの経緯だ。


 ……あと、俺が作った料理で管理人さんに恩返しできれば、ってのもある。


 しかし今まで全く料理を作ってこなかった俺だ。一体何を買えばいいのか、それすらよくわからず悩み続けているのが現状である。


 「あれ、丹下さん?」


 俺が目の前のトマトを見つめている中、聞き慣れた声が聞こえてくる。


 「あ、管理人さん」


 声が聞こえた方に振り向いてみると、そこにはスーパーのかごを持った管理人さんがいた。すでにいくつか食材が入っており、どうやら管理人さんも買い物の途中みたいだ。


 「丹下さんもお買い物の途中ですか?」


 「まあそんなところですね……。ぶっちゃけ、自炊しようと思ったんですけど何を買えばいいのかわからなくて、途方にくれてる状況ですけど」


 「なるほど……。でしたら手伝いますよ。私の方はもうレジに持っていくだけなので」


 管理人さんは優しい。だから俺が困っていることを知るとすぐに助け舟を出そうとしてくれた。管理人さんの負担を減らすべくしようとしていることなのに助けてもらっちゃ本末転倒な気もするが……。


 「それじゃあお願いします」


 多分このままだと自分で延々と悩むだけだろう。それならいっそ管理人さんに教えてもらった方がいいに決まってる。だから俺は管理人さんに手伝ってもらうことにした。


 「はい! じゃあまずは何を作るか聞かせてもらってもいいですか?」


 「あー……管理人さんの好物って何ですか?」


 「わ、私ですか? 私は炊き込みご飯が好きですよ。あとお味噌汁も好きです」


 渋いな。てっきり可愛らしい見た目をしているから洋食が挙げられるのかと思ったけど……。


 「でもどうして私の好きな食べ物を聞くんですか?」


 「……えーっと、その」


 管理人さんはキョトンとした表情で俺に疑問を投げかける。そうじゃん俺の馬鹿野郎! 直接聞いたら怪しまれるのは当然だろうに……はあ。でももう今更誤魔化しても仕方ない。


 「……管理人さんに料理を作ろうと思ってたんです。いつもお世話になってるし、たまには俺が料理を作ろうかと思ったので」


 「……!」


 それを聞いた管理人さんは顔をポッと赤くして、恥ずかしそうにしている。かくいう俺も結構言ってて恥ずかしい。


 「そ、そんな! 私だって丹下さんに勉強を教えてもらいましたし……」


 「まだ理由があって。俺、毎日管理人さんの美味しいおすそ分け貰ってたら、俺もこんな美味しいご飯作れたらなあって思ったんです。だから、そんなきっかけをくれた管理人さんに食べてもらいたいんですよ」


 「……ありがとう、ございます。……そこまで言われちゃったら、断る方が失礼ですね。それじゃあ今日は一緒に食材を買って、一緒に料理を作りましょうか」


 「え、一緒に!?」


 思わぬ提案に俺はびっくりしてしまう。


 「丹下さんには美味しいご飯を早く作れるようになってもらいたいですから。……私じゃ力不足かもしれませんが」


 「そ、そんなことないです! むしろすごくありがたいです!」


 おそらく俺一人で作ろうとすればとんでもないものが出来上がってしまう可能性が高い。もう管理人さんには俺の思惑はバレてしまったので、もう無理に誤魔化す必要もないから手伝ってもらうことにした。


 「……よかった。じゃあいきましょうか。まずは野菜からです」


 こうして俺と管理人さんは一緒にスーパーで買い物をすることとなった。管理人さんは俺にどういったものを買った方がいいか、調味料はこれがオススメだとかを詳しく教えてくれて、随分とためになった。


 「さてと、お会計も済ませましたし袋に入れて帰りましょうか」


 そしてレジで会計を済ませた俺たちは買った食材を持参した袋に入れていく。……それにしても、薄々気づいていたのだが管理人さんの買った量、結構多いな。


 慣れた手つきで綺麗に袋の中に入れているため、外から見れば大したことがなさそうにも見える。……けど、小柄な管理人さんには地味に重労働なんじゃないか?


 「荷物、持ちますよ」


 だから俺は管理人さんが持とうとした袋を持つ。やはり結構重い、これを管理人さんは結構な頻度で持って行ってるのか……だから荷物の整理をしてもらった時、本の束をヒョイっと持ち上げたわけだ。


 「だ、大丈夫ですよ、それぐらい持てます」


 「今日はとことん管理人さんのお世話になると思うんで……これぐらいさせてください」


 「……わかりました。ありがとうございます」


 そんなわけで、俺は両手に袋を持って管理人さんと一緒にアパートに帰宅した。この時途中、管理人さんがプルプル震える俺の腕を見て、こっそり袋を持っていたらしいのだが……それを知るのはまだまだ先の話。


 ――――――――――――


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