ダメダメな大学生と聖女な管理人さん
「ふあ……よく寝た。……ってもう昼じゃん」
いろんなことがあった翌日の昼。俺は目を覚ますとぐっと体を伸ばす。そして立ち上がりボケーっとしながら歯を磨いて、顔を洗うことでようやく意識がはっきりとした。
どうやら俺はだらしなく昼まで寝てしまったようだ。高校までは母さんがバタバタと朝から俺のために弁当を作ってくれたりして騒がしい音が響いていたからか自然と起きていたが、一人暮らしを始めるとそんな音は一切しない。故に昼まで呑気に寝ていたのだろう。
「こんなことしてて大丈夫か俺」
そんな不安がよぎるものの、四月になったら流石に規則正しい生活を送るよう心がけるしかない。でも大学生になったら悪化するっていう意見もあるしなあ……ってそんなことよりも今はこれどうにかしないと。
「はあ、まだまだあるな」
俺はあちこちにあるダンボールを見てため息をつく。そう、今俺がやらねばならないことはこれの整理だ。
管理人さんにご飯を食べさせてもらったあと、一応俺は自分の部屋に戻りダンボールの山を整理していた。主に服やら本やらがメインで、さほど量も多くないから苦労するとは思っていなかったが……途中取り出した本を読んでは夢中になってしまうことが多々あり一向に進まなかったのだ。
なのでこれからまた整理をしなくてはならないわけだが……。
「……怠い」
めんどくさい。ただその一言に尽きる。特に今は起きたばかりなので体が少し重く感じるってのもあるんだろう。よし、明日早起きして頑張ろっと!
「ん?」
目の前の苦難から現実逃避をすることに決めた直後、家のインターホンが鳴る。はて、一体何だろう。アマゾンで何かを買った覚えもないし、というか金銭的に余裕ないし。見当がつかないな。
「はーい……あ、管理人さん」
「こんにちは、丹下さん」
扉を開けると、そこには昨日色々あった管理人さんが何やら袋を持って、穏やかな笑みをこちらに向けて立っていた。
「おはようございま……こんにちは!」
馬鹿俺! 今起きたばっかりだってバレてしまうだろ。……ごまかせたか?
「あ、もしかしてお休み中のところでしたか? ご、ごめんなさい……起こしてしまって」
誤魔化せてないし変な勘違いさせてしまった! 俺の大馬鹿野郎!
「い、いや違います! 確かにさっきまで寝てましたけど管理人さんの鳴らしたインターホンで起きたわけじゃないですから!」
「そ、そうなんですか? なら良かったです」
「あ、あはは……ほんと、お恥ずかしい限りで。そ、そんなことよりもどうしたんですか?」
「えーっとですね、丹下さんのお引越し祝いにこちらを差し上げようと思って。……昨日丹下さんが私にくれたお菓子のお店と一緒のところなんですけど」
「あー! あそこ本当に美味しいんで嬉しいです!」
「そうですよね! 私もあそこのクッキーとか大好きで、母がいる時はよく一緒に食べてました。良かった……丹下さんに喜んでもらえて。被ってしまったので少しがっかりさせてしまうかと思ったのですが……」
「いやいやそれは偶然ですし、引越し祝いを貰えるなんて俺は幸せ者ですよ」
「管理人として、ここに住む人には楽しく幸せに暮らしてほしいので。大したことじゃないです」
ほんと年下とは思えないぐらいしっかりした人だ。高校二年生の俺にここまでできたとは思えないし、尊敬してしまう。こういう人が管理人さんでほんとよかったなあ。
「それじゃあ今日はこれで失礼しますね。何かあったらいつでも呼んで下さい」
「はい。ありがとうございまし……あ」
管理人さんがぺこりとお辞儀をして帰ろうとしたその時、俺の部屋からダンボールが崩れ落ちる音が聞こえてきた。いい加減に積み重ねていたためいずれそうなるのではと予期していたが……よりによってこのタイミングかよ。
「だ、大丈夫ですか、なんだかすごい音がしましたよ? も、もしかして屋根が崩れ落ちたとか!?」
またあらぬ心配をかけさせてしまった。管理人さんはあたふたした表情でアパートの上を見たりしている。あーこれは言わないとダメだ。
「い、いや……俺が溜めてた引越しの荷物が倒れただけです。めんどくさくて結構残してたので……崩れ落ちたんですよ」
「そ、そうなんですか? 確かに引越し荷物の片付けって大変ですからね……」
「そ、そうなんですよーあ、あはは」
なーんて情けないんだ俺。今日とことんダメダメだな。管理人さんも呆れて愛想を尽かしちゃうに決まって……。
「よし! 私も引越し荷物の片付け手伝いますね!」
「……え?」
ると思っていた。けれど管理人さんはとことん人間ができているのだろう、自ら手伝ってくれる申し出をしてくれたのだ。この人は神から派遣された天使なのだろうか?
「い、いやいやお手数をおかけするわけには」
でも流石にそれをしてもらうのはなんというかお世話になりすぎな感があるし、わざわざお手数をおかけするわけにもいかない。ここは年上としてちゃんと自分で始末するべき……
「あ」
だと思う。けれどきっと天はお前には無理だと告げているんだろう。そうでなければまた大きな音を立ててダンボールが倒れることなんてないだろうし。
「……やっぱりお願いします」
俺は管理人さんに深々と頭を下げてお願いする。もうこれ以上の醜態を晒したくないので、ここは助けてもらうしかない。
「任せてください! それじゃあ私、動きやすい格好に着替えてくるので少し待っててくださいね」
そういって管理人さんは隣の202号室に入り準備を始める。その間俺は少しでもマシに見せようとチャチャっと片せるものを片す最後の抵抗を始めるのだった。
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