第168話 静寂の階層
ディーゼルさんたちのおかげで何とか逃げることが出来た僕は、はぐれた仲間を探すこともせずに一つ上のフロアに来ていた。
あの時の言葉を信じるならば辿り着く場所は同じ、仲間たちとはきっとその途中で出会う事が出来るだろう。
それよりも今考えなければいけないのは、
「静かすぎる」
魔物の足音や戦闘音等それら全てが排除され、静寂だけが支配する異様な雰囲気を漂わせているフロアについてだった。
魔物の足音が聞こえないという事は、このフロアにはランダムで徘徊している魔物が居ないという事だろうか?
いいや、そんなはずはない!!
このオハナダンジョンがそんなにも生温い訳がない。
今は僕一人しか居ないんだ、選択を誤ればそれは『死』に直結すると思え!
考えるんだ!あらゆる可能性を、例え杞憂だったとしても良い。
逸る気持ちを抑え込み、武器を手に慎重に歩き始める。
まず警戒しなければいけないのは罠だ、次にオハナダンジョンで活動するプレイヤーの中に飛行系の隠密が得意な魔物が居たはずだ。
何方も〖探知〗系のスキルが無い僕では見つけるのは難しいだろう。
それらへの対策用のアイテムもあるけれど、持ってきた数が少ない。
このフロアの広さも分からない現状で、このアイテムを使用しても良いのだろうか?
一瞬そんな考えが過るけれど、それを振り払って僕は一定時間罠と敵の両方を探知出来る上位スキル〖警戒〗が付与されるアイテムを使う事にした。
アイテムを惜しむな!そんなものより今は生き永らえる事を考えるんだ!
取り出した薬瓶の中身を飲むと、薬瓶は消えて視界の隅が少し青く変化する。
効果が切れるまでに少しでも先に進んでおかないと………。
少しばかり速足で進むとすぐに視界に赤い〖!!〗というマークが地面の一部に表示される。
これは確か罠の警告表示だったはず、そこを通過さえしなければ罠は発動しないはずなので避けて通る。その後も等間隔で罠の警告が出たので同じように回避していると、
――――――眷属らしき魔物が一匹、通路の真ん中に立っていた。
オハナ直属の眷属ではないようだが、僕が今居るのは一本道だ。
アイテムの効果の事もある、出来るならば引き返したくない気持ちが働いてしまう。
さっき『アイテムを惜しむな』と言ったばかりだというのに………。
そんな気持ちが災いしたのか、足元にあった石を蹴ってしまい音が響いてしまった。
その瞬間、此方へと猛ダッシュで迫ってくる眷属。運の悪い事に此方へと向かってくる間にあった罠を起動させていた。
更に最悪なのは発動させた罠は落とし穴や壁から矢が出てくるといったモノじゃなかった。
天井が崩落し、道が塞がれてしまった。
眷属はそれに巻き込まれたようで僕の所に来る事は無かったのだけど………。
「これは………迂回するしかないか」
さすがはオハナダンジョン、此方が嫌がる事をよく心得ている。
今の僕にこの罠はクリティカルヒットだよ。
今にして思えば遠距離攻撃可能なアイテムであの眷属を倒しておけば良かった。
そんなことにさえ気付けない程、僕は余裕を失くしているんだと自覚する。
――――――一度深呼吸して迂回路を探しに戻って行くと、
「SOUさん!?良かった!合流できた」
攻略に挑んだ仲間の一人と合流することが出来た。
その彼――――――ヒトヨリさんがスキル〖探知〗を持っていたおかげで、それ以降はとてもスムーズに進むことが出来た。
そして今はダンジョンの通路を塞ぐ大扉の前に辿り着いた。
「間違いなくオハナ眷属の一人か、ダンジョンで活動するプレイヤーの何方かが居るだろうね」
「オハナダンジョンのプレイヤーがボス部屋に居たことは無いらしいんで、居るとしたら多分………オハナ眷属の2号でしょう。出遭ったことはありませんが、フロアガーディアンとして何度もプレイヤーを阻んでるって話ですから」
「………僕とヒトヨリさんだけじゃ無理だね。此処で少し待ってみよう、もしかしたら後続の仲間が来てくれるかもしれない」
「この場に止まるのは少し不安ですが仕方ありません、魔法攻撃が得意な人が来てくれると良いんですけど」
そうして僕とヒトヨリさんは扉の前で小休止することにした。
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