第162話 まだ下層でも漂う絶望感
「慎重に行ったところで物量が違い過ぎるから囲まれたらそれまでだ!」
「囲まれる前に出来るだけ先へ進め!!」
これが僕たちが考えた低層域での作戦だ。
この辺りはオハナ眷属の中で厄介な力を持つ個体の出現率は低い、全く出てこないと言えないのがダンジョンマスターのいやらしさだろう。
奴等は自分たちが弱い事を認識している。
それと同時に数が力であることも熟知している。
だからこそ敵を見つけると一斉に群がって襲い掛かってくる。
そう。それはまるでスズメバチを殺すミツバチのように、全員がそれぞれ決死の覚悟で挑んでくるのだから堪らない。
それならば囲まれる前に――――――。
「全員、全力で駆け抜けろぉぉぉ――――――!!!」
見つけた眷属、途中で出現する魔物などは出来るだけ遠距離で処理してもらう。
これだけでも生存率がぐっと上がるんだ。
思えば友だちと潜った時は慎重に進み過ぎていたような気がする。
それが早々にリタイアした理由だと、オハナダンジョンを専門に攻略している人たちから指摘され目から鱗が落ちるような思いだった。
「此処の魔物、特に眷属共が厄介なのは間違いない」
「でもそれに意識をしすぎてもいけない」
「眷属とは運が悪い時はすぐにでも出逢ってしまうものだ」
この攻略にも同行してくれている彼らの言葉を思い出し、気持ちが少し軽くなる。
「オハナ眷属と出遭わないように!囲まれないように!」
「出会う前に!囲まれる前に!」
――――――一刻も早く上層へ行くんだ!!
上層へ行けばオハナ直属の眷属たちと遭遇する確率は跳ね上がる、けれどある程度彼らが動きやすいように他の眷属たちの数は自然と控えめになる。
まぁその分オハナ直属の眷属たちが厄介で、更にはこのダンジョンで働いているプレイヤー達も皆一癖も二癖ある者たちばかりだから油断ならないのは事実だけれど、警戒するべき対象が減る事には価値がある。
「くっ、数が増えてきた!?」
これだけの人数で移動してるんだ、見つからないようにと言ったって当然限界がくる。進む先以外の道から眷属たちがわらわらと押し寄せてくるのが見えた。
範囲攻撃が出来る爆弾(アイテム)を投げ込んでも怯みさえしない、本当に此処のダンジョンマスターは趣味が悪い。
「SOUさん。此処は作戦通り、僕らに任せて下さい!」
そう言って大盾を構えたのは、レベルや装備が揃えられず、それでも攻略に参加してくれたプレイヤーたちだった。
彼らは大盾を構えてそれぞれが別の道に突っ込んで行く。
「〖挑発〗!!〖防御態勢〗!!〖ガードヒール〗!!」
挑発で敵を引き付け、防御態勢で防御力を底上げ、更に防御時にHPが微量ながら回復するスキルを使用しての囮役だった。
倒すと即死攻撃が発動するのならば、倒さなければ良い。
此方は防御に徹し敵を足止め、挑発を使用した彼らが生きている間は僕たちを追ってくることは無い。
「すまない!!恩に着る!!」
捨て駒にするようで気は進まなかったが、「装備を揃えられなかった自分たちが、そのまま上層へ行っても足手まといになるだけだから」という彼らからの申し出だった。
「絶対にオハナの姿を手配書に載せてください!!」
彼らは一様に笑顔で送り出してくれた。
それはまだ下層だというのに漂っていた絶望感を振り払うようだった。
「約束する!!必ずだ!!」
僕は有らん限りの声でそれに応えた。
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