第154話 平和を愛し、平和に愛された・・・魔物?
結果オーライと開き直ってみたものの………。
「何なんだこの男は!?話を聞こうにも全く要領を得んぞ!!」
「それよりヒーラーはまだか!?勇者様が首を痛めてるんだ!!早くしろ!!」
――――――かなり混乱させちゃったみたいで、未だに水晶の視界は真っ暗なままで音声だけが聞こえてきてる。
それにしても勇者さん、おっさんが落下してきた衝撃で首を痛めたらしい。
「完全に油断していたのも有るでしょうが、勇者は聖剣解放のダメージが完全に抜けきっていないのかもしれません。普段であれば男が一人落下してきた程度でダメージなど受けないでしょうから」
クロードが真面目な顔して言うんだけどさ。
男一人が落下してきたダメージってワードがそもそも意味解らんのよね。
じゃあ何?重さや高さによるダメージ補正とか有ったりするの?
ハイどうも~。
決して『………今度ダンジョンで実験してみよう』とか思ってないオハナです。
まぁ実験しなくても解るよね?2号と7号を落としたとして、下に居た人が同じダメージっていうのは何か腑に落ちないものね。
さてさて。余計な事を考えて現実逃避するのはこれくらいにして、状況を開始しましょっか。
「あー、あー、聞こえますかー?お久しぶりですねぇ勇者さん。オハナからの贈り物が無事に届いたようで何よりです」
大きな声で勇者さんに話しかけてみたら、あれだけ騒がしかった向こう側からの音が一切無くなったのが面白い。
「勇者さーん?聞こえてますぅ?首は大丈夫ですかー?」
「………この男はお前の差し金か?」
「ですです。居ないからって油断大敵ですよ?オハナと敵対するからには常在戦場の心構えで居てくれなくては」
コテツさんやワヲさんが「無茶言うな」とか「冗談に聞こえない怖さがあるわ」とか言ってるけど、全部聞こえてるからね?
やがて水晶からごそごそと音がして、向こうの景色が漸く映る――――――って言っても映ってるのはゲンド〇ポーズ勇者さんなんだけどね。
首のあたりをヒーラーさんに治癒してもらってる最中だからイマイチシリアスさに欠ける。
その勇者さんはオハナの隣に居るクロードが見えてるらしく、目を細めた。
「………何故オハナの隣に平然と居るのか理由を聞かせてもらおうか、クロード」
その言葉を受け、メガネの位置を直したクロードが一瞬不敵な笑みを見せる。
そしてその様子を見守っていたオハナを含むダンジョンメンバーの皆の心もきっと一つだっただろう。
食い付いちゃった――――――。
クロードはまずやれやれとばかりに深い息を吐き、勇者さんを睨みつけた。
「今の私は貴方がたに深く………深く失望しているのですよ――――――」
そこからはもうクロード劇場が開演、独り舞台だった。
身振り手振りを交えながら熱弁まで振るい、勇者さんを煽る煽る………ってちょっとその辺でやめてくれない?そのヘイトは漏れなくオハナに向いてきそうなんだけど………もう遅いよね~?そうだよね~?
「でも勇者さんの周りの人たちが、『サーチェとカーマインの事をクロードさんも最初から知ってた』って暴露しちゃえば全部破綻しそうなんスけど?」
「確かにそうだが、おそらく勇者に面と向かって真相を腹括って言えるヤツは居らんだろうな」
「言ったが最期、勇者さんの粛清対象になるわけですもの。彼はその辺りの事も計算済みなんでしょう」
「………なんか勇者さんが可哀そうに思えてきたっス」
水晶から離れたところでダンジョンメンバーの皆がひそひそと話してるのがギリギリ聞こえたわけだけど、確かに勇者さんは周囲に恵まれてないね。
もし仮にこの件を勇者さんが調べてクロードが最初から知っていた事が露呈したとしても、勇者勢力の人が非道な実験をしていたという事実に何ら変わりはない。
真実を知っている者からすればいけしゃあしゃあとどの口が言ってる!?
――――――って言いたいだろうけど、言えないよね?
言ったら折角勇者さんとそのお仲間さんたちにも秘密にしてたのに、全部バレちゃうもんね?出来る事なら今回切り捨てられちゃう側よりも、切り捨てる側に居たいよねぇ?
そんなビビり共の心理まで利用して、今クロードは義憤に駆られる若者の様に振る舞っている。
勇者さんからは相変わらず視線が痛いからオハナに向けた明確な敵意はあるんだけど、クロードには何か同情的と言うか………。
「――――――そうか。もう戻るつもりは無いんだね?」
「はい。私の忠義は余さず全てこの方に捧げると誓いました」
あ?終わった?
何か勇者さんを騙すための劇場型特殊〇〇の片棒を担いだかのような変な気分だけど、もう終わった事だからね!さっさと終わらせて帰ろっか。
一歩下がったクロードの代わりに、オハナが一歩前に出て水晶に向かって話しかける。
「勇者さん。そちらにまだ此処の関係者が居るかもしれませんがお願いしても?」
「ああ、それは此方で処理しよう。此方の者が迷惑をかけたようだね」
相変わらず目の剣呑さは消えないけど、絶対に攻撃が届かないって解ってるから怖くない。
「えぇ本当に。久しぶりに胸糞悪いものを見てしまいました」
「キミでもそんな事を思うんだね」
おやおやおやおや………。
この平和主義者のオハナに、平和を愛し、平和に愛された魔物(?)であるこのオハナによくもそんな事を言ってくれましたね。
「そんな失礼な事を言う人には………贈り物をしてあげましょうか」
勇者さんが「何をするつもりだ?」って顔をしてるので、親切に教えてあげましょう。
「丁度さっきの男を送ったのと同じ転移石が手元に沢山あるんですよねぇ」
それだけで勇者さんはオハナが何をしようとしてるのか察してくれたみたい。
「此方はいつでも其方を攻撃できるって理解しましたか?」
お中元、お歳暮………贈った事無いけどゲームの中で送ってみるというのもアリかもしれない。
勇者さんも忘れた頃に、オハナの気分次第で色々一方的に送るからね。
「精々首には気を付けてくださいねぇ?」
不敵なオハナスマイルでそれだけを伝えて水晶を破壊した。
胸糞悪いものを見てオハナの気分は最悪だったからね、これくらいの嫌がらせは甘んじて受けてもらわないと。
「それじゃあ皆、撤収~!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます